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ニュース・コラム

舞踊評論家・日下四郎氏の連載コラム「ダンスレビュー」

ダンスレビュー

 
  2004年4月1日
高い芸術性とともに楽しさを追求する森嘉子
舞踊作家協会4月月例公演・ちょっと素敵なショウタイム
     
      うらわまこと [2004.4.9]
森嘉子といえば、わが国においてだけでなく、今や世界的にみて屈指のアフロアメリカン、ゴスペルダンスの第一人者であり、さらにそこに高い芸術性を加えた独自の世界を創造しているということで知られている。その実力、業績は文化庁芸術祭大賞を受け、さらに今年度の現代舞踊協会江口隆哉賞の受賞が決定していることからも明らかである。
 その彼女が舞台で歌を披露した。それもゴスペルやブルースでなく、シャンソン(ろくでなし)である。時に4月1日、もちろんエイプリル・フールでもないし、仲間とのカラオケ大会でもない。ちゃんとしたダンスの公演においてである。
 クラシック、モダンから日本舞踊まで、ジャンルを問わない振付家、舞踊作家の集まりである舞踊作家協会。ここではもう何年も、「伝統と創造」というテーマのもと、ティアラこうとうの小ホールで(財)江東区地域振興会とティアラこうとうとの共催で月例会を開催している。
 1月を除き毎月、原則として1日に行われる例会では、それぞれに協会員が芸術監督となって、企画から上演までの責任をもつ。いいかえれば、あるていどやりたいことができるということになる。ということで、4月1日の例会では、森嘉子と長いつきあいの花輪洋治が芸術監督をつとめたのだ。花輪はかつて森嘉子の指導を受け、彼女の作品を踊っていた縁もあって、最近再びパートナーとして彼女の舞踊団に客演するようになった。
 とくに一昨年、このホールで、森とそのアフロダンスカンパニーがわが国のニューオリンズ・ジャズの第一人者でルイ・アームストロングの再来といわれる外山善雄とそのデキシーランド・セインツと共演した公演が好評で、各地でジャズを踊るようになってからは、花輪は舞台になくてはならない存在になっている。
 この2人が今回は「ちょっと素敵なショウタイム」として、シャンソンによるダンス・ショウを上演したのである。
第1部 作品動画(大)
( 画像サイズ320×240・65秒・3.0MB
作品動画(小)
( 画像サイズ160×120・65秒・1.0MB
 ゴスペルやブルースによって、アフロ・アメリカンの深い悲しみ、そして神への祈りを高い芸術性とみごとなダンススタイルで表現、見る人を感動させている森嘉子。その彼女がルイ・アームストロングの、それもどちらかというと楽しい、「聖者の行進」、「黒い瞳」や「キャバレー」などでエンタティンメント性の高い作品を作り、踊るようになった。もちろん、ここでの彼女のダンスはすばらしいものだが、このような分野にも進出したのは、作品の幅を広げると共に、舞踊団員の進境もあってのことである。
 そして今回がさらにシャンソンである。これまでにも、ルイの「セ・シ・ボン」なども取り上げていたが、それはジャズに編曲されたものであって、真のシャンソンによる舞台は初めてといってよい。
 曲は「セ・シ・ボン」、「幸せを売る男」、「パリの空の下」などよく知られたものを主体に、森のソロ、ピエロに扮した花輪、森と花輪や遠藤かんやとのからみ、さらに佐久間昌晴らの男性、鶴原千里らの女性もそれぞれのナンバーで力を発揮した。これらもたんなるダンスに終わらず、落ちのある洒落たコント仕立てや風船細工などを加えて、見る人を喜ばせた。全体は2パートに分かれており、1部の最後に彼女の歌が披露されたわけ、小さいホールだからマイクなしでも聞こえるのだが、実際に彼女が歌っていることを証明するためにわざわざマイクを手にもったという。たしかになかなかの腕前(のど)であった。
 これだけでも十分堪能できるものであったが、2部の最後、全員の挨拶の後、彼女はアンコールという形で、2月に練馬で初演、好評を得たポルトガルの民謡、ファドによる「死するまで紅(くれない)に燃えて」を、特注の照明の下でしっとりと、しかも激しく踊るという充実した公演だった。
 もう彼女は70に近い。しかも、多くの賞を受けている。にもかかわらず、高い芸術性を備えながら、お客に楽しんでもらうために新しい分野に進出、歌までうたう。
 この精神、姿勢はわが国の舞踊界にもっとも必要な要素であると思う。残念だったのは、客席こそファンで満員だったが、仲間の舞踊家や評論家が少なかったこと。彼女の活動はもっともっと注目されるべきである。
第2部
作品動画(大)
( 画像サイズ320×240・71秒・1.8MB
作品動画(小)
( 画像サイズ160×120・71秒・702k