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舞踊評論家・日下四郎氏の連載コラム「ダンスレビュー」

ダンスレビュー



ダンス・エスパニョルが放った現代舞踊の逸品「組曲Los Tres Colores」
―蘭このみスペイン舞踊公演「花がたみ」―
2007年11月27日 at ル テアトル銀座
日下 四郎 [2007.12.7 updated]

たぶん多くの舞踊ファンが、かねがね抱いているかもしれない疑問に、フラメンコというのは、あれはなぜ現代舞踊なのかという、単純だがしかしどうも出どころのはっきりしない妙な思いがあるのではないだろうか。というのも少なからざる数のフラメンコ・ダンサーたちが、≪社団法人現代舞踊協会≫(CDAJ)に籍をおいており、かつ同協会の主催する定期公演に、モダンダンサーたちの作品と肩を並べて、アレグリアスだのシギリージャ、ファンダンゴなど、伝統的スペイン舞曲を踊る姿に、しばしば接する機会があるからだ。

その答えは勿論“ノー”である。カンテやトーケのプレイともども、古くから伝わるあの華麗で情熱的なフラメンコ芸術を、ストレートに両の眼で鑑賞する限り、たとえそれがタブラオの外で演じられようと、芸術的に気の遠くなるほどの名演技であろうと、やはりそれは古典としての民族舞踊のひとつであって、どうも現代舞踊だとストレートには受け取れない。

だが原因は簡単だ。すべてはこの国のフラメンコ・ダンスの歴史が、大正期に西欧から輸入された洋舞の一種として、[現代舞踊](CDAJ)のグループへおさまったまま今日に至っているという、ただそれだけの歴史の流れの結果にすぎない。現に同協会第5代目の会長河上鈴子さんは、れっきとした日本人フラメンコ・ダンサーであった。

ただここ10数年来の動きはかなり違ってきている。昭和30年代に独立した≪バレエ協会≫の場合とは違って、すでに15年ほどまえから存在する≪日本フラメンコ協会≫(ANIF)には、スペイン舞踊系のダンサーたちが、あえて自らの芸術の現代化に、それなりの強い関心を抱いてかそのまま移動せず、あるいは両方に籍を置いてCDAJにとどまっている人が多いのである。なかには若いひとたちでも、一旦フラメンコの技法を身につけながら、あえて踏み切って、現代舞踊の協会入りを果たす人もいるようだ。

ダンス・エスパニョルを生かした今日の舞踊――つまりフラメンコ・ダンス作品の現代化は、どうやらはじめ素材のドラマ化の形で表れた。スペイン系の詩人や芸術家、ガルシア・ロルカとかフリーダ・カーロなど、ラテン文化に主題を取った作品はもちろんだが、日本でもそれを能や歌舞伎の題材から拾い上げ、それをフラメンコ技法で造形しようとする試みが出現する。長嶺やす子や佐藤・山崎舞踊団、岡田昌巳の舞台などは、その先駆的役割を担ったケースだとみることができるだろう。

ここ数年、つまり世紀が変わり21世紀になってからの、このラインでの最新鋭は、なんといっても鍵田真由美・佐藤浩希のペア、及び蘭このみという、2人のフラメンコ・アーティストの名を挙げることになるだろう。年齢から言っても、創作にみる姿勢、また内外にわたる活動ぶりは、正に脂の乗り切った斯界のホープと断じていい。ともに近年芸術賞大賞をはじめとする数々の栄誉を手にし、第3次フラメンコ・ブームとも言われる昨今、フラメンコの現代舞踊化を目標の一つにおくグループの、文字通り中心的存在だ。

その蘭が今回は、やはり能の演目に題材を取った「花がたみ」を上演した。「日高川」「明烏」「桜幻想」に続く、“和もの”素材の演繹である。ただしプログラムは2本立てで、「Los Tres Colores」という組曲の形式をとった、40分ほどの踊りが最初に組まれている。これがなんとも実にいいのだ。“いい”というのは、上記したようにフラメンコ技法による純正な現代舞踊の評価という意味においてである。

ただ形式としてのその中身は、はじめに「美しき青きドナウ」(M1)が組まれ、続いて「ソレア」(M2)、そして「約束」(M3)、最後にもう一度序章の「美しき青きドナウ」がM4として踊られるという、一見舞踊組曲のスタイルをとっている。だからこう書くと、その場に立ち会わなかった人には、ただそれだけの短品を順に並べたサイド・ワークに思えるかもしれないが、それが決してそうではなのだ。

この創作にはわざわざ “花 一筋の思い ワルツによる”という副題がついている。これが端的にこの作品の主題を、もっとも簡潔に言い得ている表現だ。美へのあこがれ、もだえ、さびしさと出会い、約束、そして果せなかった夢といった、人生における一連の出来事とそれに伴う心の流れが、ダンス・エスパニョルの技法をベースに、ほぼ完ぺきなまでに咀嚼され、今日の舞踊作品としてすばらしい実を結んでいるのだ。

キャスティングのよさも、一段と作品の成功に寄与した。関西バレエ畑の逸材中田一史の起用や、蘭このみ舞踊団々員と組んで、長身の≪Roussewaltz≫メンバーをとり揃えた序章と終章のシュトラウス曲。イントロの短い小節のあとストップモーションを掛け、そこへヒロインが斜めに登場するなど、シャープな感性で縦横にワルツを処理した感性は、作品の主題を一段と高めて効果的。まるでベジャール作品の一シーンを見ているよう品位と優雅に満ちていた。さらに「ソレア」に見るバイレの巧みな腕さばき、加えるに激しいパロマの効用。これは今までにいくつか試みられた、フラメンコによるアダプションの域を一挙に飛び超え、そのままコンテンポラリー・ダンスの領域に迫る稀有な一品だったと評価していい。

もちろん後半のタイトルワーク「花がたみ」も、得難いオリジナル・フラメンコ作品である。制作、演出、振付、美術のすべてが一体となって、この国のスペイン舞踊のレパートリーに、また記念すべき1ページが加わった。しかしこの種の“和もの”の西洋舞踊化には、バレエの場合と同じく、まだまだ行く手に大小のハードルが横たわっている。その問題点についてはいずれ他日論ずるとして、ここではダンス・エスパニョルが、本来の資質を最大限に生かし、短編ながら見事現代舞踊としての花を咲かせた今回の作品「Los Tres Colores」に、なにはともあれ絶大なる拍手を送りたい気持ちだ。(27日マティネ所見)

 

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