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藤井 修治
 
Vol.1 「いまどきの美意識」 2000年3月24日
 
何か書いて欲しいとのお話です。このところ舞踊を見たり舞踊について書いたりすることが多いので、 舞踊だけでなく別のことも書かせていただいたりすると、皆様にも多少面白かったり、少しはお役に 立つかとも思います。 そんなことで気楽に読んでください。
「世の中に絶えて桜のなかりせば・・・」と、 この世に桜さえなければ春は心おだやかにいられるのに・・・という有名な古歌があります。 この心境が、二十世紀末の多くの日本人にもあてはまるのは嬉しいことです。桜の開花予想が気になり、 咲けば咲いたで風や雨が心配。桜は数日で散ってしまいますが、それだからこそ美しくも感じられます。
花はどんな花でも、地球が長い時間をかけて作りあげた美の極致です、でも花の命はとても短いのが常、 そこで写真家や画家たちは、つかの間の美を永遠のものにしようと努力を重ねます。先日、教育テレビの 「新・日曜美術館」で、昨年九十四歳で亡くなった洋画家三岸節子の油画の数々を紹介してました。多く は多分に抽象化され、何の花かほとんどわからないのですが、感動しました。花の塊(カタマリ)のように 描かれていますが、花の魂(タマシイ)のようにも見えます、最晩年の桜の絵は白い炎が燃えているようにも、生命の輝きのようにも見えました。花は自然の美の極みであり、音楽や美術は人工の美の代表でしょう。
舞踊は人間が創り踊る人工のものですが、舞台では一瞬に消えてしまいます。バレエダンサーの舞踊生命も 短いものです。しかし、それだからこそ、踊るほうも観るほうも一生懸命になるでしょう。自然の美、人工の美、注意すれば、いつどこでも多種多様の美が発見できます。豪華なバレエや人間国宝作の陶器はもちろん美しいでしょうが、道ばたの雑草や石ころ、日常の食器等々も十分に美しいはずです。要は、見えるもの聞こえるものをぼんやり見たり聞いたりするのでなく、心を込めて観たり聴いたりすれば美になり、自分のものになるのではないでしょうか。
地位や名誉や財産にこだわってアクセク生きているよりも、日常生活でも積極的に美を発見して生きるほうが、ずっと幸福で、精神的には豊かだと思うのは負け惜しみかしら?
現在、自由の身になったおかげで、劇場やコンサートホール、展覧会などをかけ廻ることが多いのですが、この季節になると、ぼくはお花見を第一に優先してしまいます。春が足早に北上して行く間に咲き競う桜の、この世のものと思われない美は、われわれにいやな現実を忘れさせ、慰めてくれるし、幻想の世界にも導いてくれます。
西行法師は「願わくは花の下にて春死なん・・・」と歌い、そのとおり春、桜の満開の満月の日に世を去ったといいますが、俗人のぼくは桜も見たい、舞台も見たい、おいしもの食べたい・・・。来年もそのずっと先も桜の季節を迎えたい・・・。ぜいたくですか?


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