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藤井 修治
 
Vol.7 「解説の効用」  
2000年6月6日
つい先日のこと、どこかの劇場の客席で若い学究と話をしていたら、「あれは批評じゃなくて解説ですよ」という言葉が出たので、思わず赤面 してしまいました。たいした批評を書いていないということもあるのですが、実は昔のことを思い出してしまったのです。
まだ若かった頃、今は故人となったNHKの音楽部の部長さんと雑談していた時に、何かの記事の話が出て、「それは批評でなくて解説ですよネ」と口走ってしまったのです。その部長さんはうわずった声で「解説が難しいんだヨ」といいました。彼は多忙な仕事の合間を縫ってレコード(当時はCDでなくLPの時代でした)のジャケットとかコンサートやオペラのプログラムの解説を量 産していたのです。そのころの僕は余暇を盗んで匿名で批評の真似事などを書き始めていて、多分にかっこつけた文章を書いていたのです。しかしその時、先輩の言葉に反省もしました。以来、テレビやラジオ番組を作るときには、細心の注意を払うように心がけたのです。
限られた字数で適切な情報を過不足なくバランスよく並べるのは実は大変な作業なのです。音楽番組では、既成のクラシックファン以外に初めてクラシックに親しんだ人にもアピールする必要もあります。テレビで「白鳥の湖」を見てバレエファンになった人もいます。いまさら解説などいらないという視聴者もたまにはいますが、親切に越したことはないでしょう。的確な解説の効果 ははかり知れません。僕自身も音楽史の本や名曲解説辞典からレコードの解説、公演プログラム、ラジオ・テレビなどのおかげで育ったのです。かっこいい批評や評論から得たものより多くを得たとも思います。
日本の音楽や舞踊の公演評は、公演よりずっとあとになってから掲載されることがほとんどです。だから欧米のように影響力が大きくありません。ニューヨークではロングランされるミュージカルや演劇の場合、初日の直後に批評が出たりすると観客動員に影響します。酷評されて公演が中止になることも少なくないとか。日本では、好評を得た公演を見たいと思ってもあとの祭りということがほとんどで、批評を書いても時々むなしくなります。それに対し手ぎわのよい解説を事前に読んでおけば収穫は莫大です。少なくとも公演の開幕前にプログラムの解説や作者の意図などがあったら目を通 しておくとずいぶん得をします。
じつは数日前のこと、アートスフィアで行われた舞踊の会で、意欲的な中篇・小品が並んでいたのですが、開幕前に知人と話し込んでしまい、幕があいてもいま何をやっているのか、題名も内容もわからず、大部分の作品に見捨てられたような気になってしまいました。舞踊は予備知識なしでも、感じればいいともいえますが、やはり作者の意図や作品の本質は知りたいものです。その日、帰りの電車の中でプログラムを読むとけっこうすてきなことが書いてあったので、事前に読んでおけばと残念でした。こんなことで現場での楽しみが得られなかったのです。
近年、一億総評論家などといわれています。それも向上心があってよいこととは思います。クラシックのコンサートの帰り道などで、若い人たちが大指揮者の悪口などを大声で話しているのは、お笑いよりも面 白いとは思いますが、少々変な気もします。それよりまず、楽曲の歴史的な位 置や構成、特色などを少しでも身につければもっと人生が豊かになるはずです。
僕なんか、この年で歌舞伎のイヤホンガイドにかじりついて勉強しながら楽しんでいます。皆さんもプログラムの解説やコメントを利用して、どんどんご自分の血や肉にしてしまったらよいと思います。同じ公演でも百倍も楽しめると思うのですが・・・・。


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