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藤井 修治
 
Vol.9 「ボレロ」の面 白さ  
2000年7月4日
前回は同じ芝居による違う舞踊を見た話をしましたので、今回は同じ音楽で多種多様な舞踊が生まれる話をしましょう。
たしかまだ中学生だったころ、ガキ大将だった友人が「オレ、クラシックはラベルのボレロしか知らないんだ」といったのでびっくりしたのを覚えています。当時のぼくはモーツァルトらの古典だけがクラシックだと思い込んでいたので現代音楽(あのころは「ボレロ」も現代音楽でした)をクラシックの代表のようにいった友人の言葉が妙に新鮮に聞こえたのです。本当にこの曲は変わった曲です。
この曲は単調なリズムと不変のテンポの上に同じメロディが延々とくり返されるうちに、音色が変わり次第に盛り上がり、最後の最後の数秒で曲調が変わり、全体が崩れるような感じで終わります。単純な構成ですが、それだけに迫力があり、物語はないのに劇的で、聴くうちにイメージが湧いてきます。舞踊家にとっても挑戦したい音楽だと思います。
「ボレロ」を用いた舞踊を初めて見たのははるかな昔、どこの舞踊団だったかよく覚えていないのですが、フラメンコのようにフリルがいっぱいついた長いスカートの女性陣が闇から浮かび上がり、踊るうちに男をめぐっての確執があり、最後に一人の女が刺されて倒れるといったような物語が見えたのです。
その後20世紀バレエ団の初来日でベジャールの「ボレロ」が上演され、あまりの違いにびっくりしました。民族色はなく、大きな丸いテーブルの上で一人の女性が静かに踊り始め、次第に激しく踊ります。周囲の様子に坐っていた男たちは、初めは無関心ですが、だんだんと女性に魅せられ、最後に全員が中央の女性に跳びついて暗転します。このあと何が起こったのか?単純な音楽に単純な舞踊の相乗効果 があって息を呑む思いをしました。
ところが数年後、この男女の組み合わせが逆になっていたのです。卓上では男性がセクシーに踊り、女性たちを引きつけるのです。そして近年は、全員が男性になることが多いのです。エイズで死んだと噂されるジョルジュ・ドンをはじめパトリック・デュポンらが主役を踊って老若男女を魅了しつくしました。同性愛者だといわれるベジャールが本音を吐いたようにも思います。でも、20世紀はバレエの時代だと豪語したベジャールの最高傑作といえます。19世紀の古典バレエだけがバレエだと思っていた人々の認識を改めさせる普遍性もありました。
最近では、スペイン国立バレエが「ボレロ」を上演して人気を集めています。アールデコ調の装置を背景に多数の男女がカラフルな衣裳を着替えながら出入りして、めでたく踊り納めます。これも楽しい。ほかにもいろいろな「ボレロ」を見ましたが、それぞれに振付者の考えが見えてきて面 白いし勉強にもなりました。
いつだったか、指揮者の若杉弘さんから面白い話を聞きました。彼はコンサートやオペラに超多忙の人ですが、バレエも大好きでNHKのためにも何回かバレエを指揮しました。その彼が昔、あるフランスの大指揮者からバレエだけは振るなとアドバイスされたそうです、その指揮者は若いとき、どこかの舞踊団から指揮を頼まれたのですが、曲目の中に「ボレロ」があったそうです。リハーサルの日に振付者が指揮者に向かって、この部分はカット、この部分はゆっくり演奏してくれとかいったんですって!その指揮者は直ちに指揮するのをことわったそうです。舞踊では既成の音楽を勝手に切りきざんだり加工したりする場合もあります。それで効果 があればよいのですが「ボレロ」の場合、音楽が死んでしまい、舞踊も共倒れになるかも!しかし若杉さんはこんな話をしても時々バレエを指揮してくれました。バレエという芸術の魅力に抗しきれなかったのでしょうか?
日本ではクラシック・ファンとバレエ・ファンが分かれる傾向があります。ボクの友人でクラシックオタクの人々の中にはバレエを下に見てる人もいます。反対にバレエファンにはクラシックを敬遠する人も少なくありません。でも人間には目も耳もあります。両方を楽しめばこんな幸福なことはないと思うんですがどんなもんでしょうか?舞踊は両方を同時に楽しめる最高のものです。



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