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藤井 修治
 
Vol.14「敬老の日のことなど」  
2000年9月12日
9月15日は敬老の日です。親孝行をしたいと思う時には親はいないとよくいわれます。親孝行したいとか年寄りを大切にしようと思ってもなかなか実行できません。親に対して時に反抗的になるのも愛情の裏がえしかも知れませんし、電車の中でお年寄りが前に立っていても大股開きで狸寝入りしている若者も実は恥ずかしくて席をゆずれないのかも。思い切って親に感謝の気持ちを伝えたり、お年寄りをいたわったら、すっきりとした気持ちになるんじゃないでしょうか?
敬老の日という日が出来たのは、日本では敬老精神が薄らいできたからだろうかと思う時があります。先年、韓国からのバレエ団の公演で「沈清(シムチョン)」というバレエを見ました。盲目の父を助けようと苦労する親孝行な娘さんが主役のバレエです。現代日本では考えられないバレエでしょう。
お年寄りはあまり役に立たないからと軽視・無視する傾向があるのは悲しいことです。たしかに体力や気力、記憶力などは年を追って衰えます。しかし長い人生の間に得た豊富な知識や深い思考が残っています。いざという時の判断にも耳を傾けるべきでしょう。
実は、84歳の舞踊批評家の方がこの10年ほど半身不随になっておられます。僕は彼が劇場に行きたいと連絡してくる時には、介護のようなことをしています。ところが僕自身も多分に疲れてきているのです。そんな時、声をかけてくれたり手を貸してくれる人もいますが、ふだんは偉そうな人がたばこをくわえたままそっぽを向いてしまう場合もあります。おかげで人間観察ができます。阪神大震災の時に茶髪の若者達が積極的にお年寄りを助けていたという話を聞きました。人間は見かけや地位 では判断できないものですネ。
この9日に人間浄瑠璃の大夫、義太夫節の実力者、豊竹呂大夫(とよたけ ろだゆう)さんが肺炎で亡くなりました。55歳。新聞では次代を担うホープだとの訃報でした。サラリーマンだったなら定年が近い年齢です。ところが彼は将来の大物といわれていました。急逝が残念です。考えて見ると日本の伝統芸能で名人といわれる人々は一般 人よりずっと高齢のことが多いようです。しかし名人といわれる人々も神様ではありません。いつどうなるかはわかりません。去年のお正月、百歳近いのにいつまでも現役を続けていた清元志寿太夫さんが亡くなったし、日本舞踊のほうでは、武原はん、吾妻徳穂、吉村雄輝、藤間藤子さんらの名人が相次いでなくなってしまっています。そしてあの時見ようと思って見に行かなかったのが最後の舞台だったと聞くと、とりかえしのつかないことをしてしまったと思ったりするのです。
日本の古典芸能のことばかりではありません。バレエやモダンダンス、舞踏などの世界でもそういう時代になってきています。年寄りはもう動けないからひっこめなどという人もいるようですが、年輩者には若い人にはないものを持っている人がたくさんいます。できるだけ諸先輩の舞台を見たり、話を聞いたりするようにしたらどうでしょうか。将来、あの舞台を見ておいてよかったと思うことが絶対あるはずです。ヒマがない?ひまは無理しても作るものです。僕も今月は歌舞伎座で雀右衛門と富十郎が踊る「二人椀久(ににんわんきゅう)」の一幕だけでも最上階に駆け登ってでも見に行くつもりです。よかったらいっしょに行きましょうか?



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