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藤井 修治
 
Vol.20 「キーロフ・バレエに思う」  
2000年12月7日
 おなじみのキーロフ・バレエが来日中で、チャイコフスキーの3大バレエなど、いくつかのプログラムを 上演して観客を集めています。12月3日には「バヤデルカ」を見ました。少し前の11月には新国立劇場バレエ団が新しく演目に加えた牧阿佐美さんの手になる「ラ・バヤデール」を見ました。両方のタイトルは違いますが同じバレエなのは御存知のとおりです。この両者を見ると、どちらもすばらしいのですが、キーロフのほうがいかにも19世紀のロシアで生まれたバレエらしく、おおらかな感じが魅力です。日本側のものは外来の舞台を見たうえで考えに考えて整理整頓を試み、物語の首尾一貫を図ったうえ、現代的なスピードを加えた完成度の高い舞台作りでした。日本のダンサーもちゃんと役をものにしていて、日本のバレエもここまで来たかとの感を深くしました。しかし、これもやはり本場のロシアのものには敵わないとの短絡した批判も多かったようです。
 かつて外来芸術は外国人によるものに限るという考えが圧倒的で、ほとんど信仰ともいえるほどでした。これは生活一般 についてもいえました。海外のブランド品が崇拝されました。だいぶ前のこと、金持ちの友人が僕のカバンを見て興味を示し、ちょっと手に持ってからマークを見て「何だ、国産か」といったのを思い出します。そういえばその友人は、ブルガリの腕時計でベンツに乗っていました。たしかにカッコいいのですが、自分の国のものに自信が持てないのは少々淋しい気もします。
 長い間、クラシック音楽全般からオペラなども同じような状態がつづいていました。ドイツ音楽はドイツの演奏家によるものに限る。イタリア・オペラはイタリアの歌手でなければ駄 目、等々。バレエもそうでした、しかしそんなことを言ったら黒い目、黒い髪、胴長短足の日本人はバレエなどできるはずがないことになります。それが近年変わりました。日本人のダンサーの実力や魅力は、まずは外国で認められて日本に逆輸入されてさえいます。明治維新以来、外国の文明文化だけを尊重するあまり、日本人は日本を軽視していました。浮世絵や京都の神社仏閣や庭園などの価値が、外国人によって賛美されてから改めて見直されたのと同じような状況がまだ残っています。しかしわれわれはそろそろ自分の国のものを自分の目で発見して正当な評価をするようにならなければなりません。
 キーロフ・バレエでもう一つ、11月27日にバランシン作品だけのプログラムを見ました。「セレナーデ」や「シンフォニー・イン・C」などです。これはバランシンの本拠だったニューヨーク・シティ・バレエの来日公演でも見た作品です。これが結局はロシア勢のほうがすてきに見えました。ダンサーたちが体型がそろっていて、技術的にムラがなく、バランシン向きだったからです。しかし、「キーロフのバランシンなんてドーモネー」という否定的な意見も聞こえました。これも本物へのこだわりでしょう。ロシア人にはアメリカものは無理という先入観からの発言です。たしかに最近までは振付が正確に伝えられず変な舞台もありました。しかしもう時代は変わっていました。彼らはちゃんとバランシンをものにしていたのです。考えて見ればバランシンはもともとロシアの人で、キーロフの前身でスタートした人です。いまやバランシンのバレエは世界中の人々のものになってきています。先入観抜きで無心にキーロフ・バレエや新国立劇場バレエを見れば、われわれ観客はもっと自由に自分なりの発見をしてさらに楽しめるのではないでしょうか?



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