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うらわまこと
 
Vol.15 「国際化のなかの日本人らしさ
  -オリンピック・女子マラソンに思う-
2000年10月4日
 

 秋です。秋というと、まず芸術の秋。文化庁芸術祭も始まりましたし-舞台芸術だけではありません、美術の秋でもあるんですから。いや、秋の夜長は読書の秋、読書三昧、もの想う秋です。違う違う、スポ-ツの秋でしょう、体育の日もあるでよ。でも、なんといっても食欲の秋、味覚の秋、美味しいものもいっぱい。いろんなことができる秋ですね。
 ところが人生の秋、なんてことばもあるんです。英語、とくにアメリカでは秋はフォ-ル、落ちるのと同じ意味です。こうなると今までの気分ががたっと落ちてしまいます。しかし、実りの秋、収穫の秋、祭りの秋でもあります。元気を出さなければ。こう考えてくると、われわれは『秋』という季節にいろいろな思いをたくしていることが分かります。秋だけではありません、日本という国土が明確な四つの季節を持っており、その節々を生活のリズムに取り入れてきているのは世界でも珍しいことではないでしょうか。これはいいかえますと自然との共存であり、調和です。どちらかというと自然を克服、あるいは征服する対象としている欧米とは大分違います。
 日本では長い間自然と深くかかわる農業をなりわいとしており、季節の移りかわりを敏感にこまやかに感じとって、それを素直に取り入れで生きてきた、それが日本の伝統であり、文化なのです。そのいい例が俳句です。わずか17文字のなかに季語を読み込み、季節を基礎として自然や人の営みを表現する、これはきわめて貴重な芸術の様式だと思います。しかも、自然、生物、そして行事やお祭りなどの人々の生活のなかに、季節を表現するものが無数にあるのです。
 国際化はどんどん進みますし、国を超えたIT(情報技術)も重要でしょう。しかし、国々の境界がなくなればなくなるほど、一方でわれわれのアイデンティティ(主体性)を明確にしていくこと、つまり日本、日本人とはなにかを考えることが重要になります。その重要な一つが芸術文化です。もちろん、洋風の芸術をやめて、能や歌舞伎、日本舞踊だけをやれというのではありません。ただ、バレエにも、ダンスにも、日本的な繊細な感覚、外国人にはない独特の表現や動きを生かすことが必要ではないかと思うのです。
  国籍を感じさせない、まさに世界的な活動をしている人もいるでしょう。しかし、日本に限らず、中国、韓国など東洋人で欧米の芸術の世界で活躍している人たちは、自分の、自国のアイデンティティをしっかりもっている人が多いような気がします。
 舞踊の世界でも、森下洋子の魅力は日本独特のものですし、コンテンポラリ-では伊藤キムがやはり西欧にはない個性をもっています。大野一雄はもちろんです。
  芸術ではありませんが、スポ-ツの世界でもそれを感じることがあります。最近ではとくにオリンピックのマラソンで1位 となった高橋尚子さん。彼女からは、現代的である一方で伝統的な日本人らしさを感じるのです。たとえば、ゴ-ルテ-プを切ったあとまず師(監督)を探したこと、花や旗をもらうとその度に丁寧にお礼をしていたこと、スタンドに知人を見つけると手を振るよりお辞儀をしたいような素振り、そして表彰台の上でも自分だけ喜んでいいのかを気にしている様子、などです。全身で喜びを爆発させるのもいいでしょう。しかし、これだけの偉業をなしとげながら、喜びや自己顕示を抑え、感謝の気持ちを忘れない振るまい、ひかえめで少し恥ずかしそうにさえ見える態度に、私は繊細でしとやかな彼女の個性と日本の文化を感じました。
 
外国の日本人に対するイメ-ジは、「親切で礼儀正しい」です。高橋さんからそれを感じた人は少なくなかったのではないでしようか。




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