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幕あいラウンジ バックナンバー

うらわまこと
Vol.81 「5~7月は「白鳥の湖」の季節 ー私はこんな見方をしていますー」

2003年6月25日

 古典バレエの場合、ある年に同じ作品がいろいろなバレエ団で集中して上演されることがよくあります。たとえば、前にこのページで書いたと思いますが、昨年は前半が『ジゼル』、秋には『ドン・キホーテ』が全国各地で行われました。一方で『くるみ割り人形』は毎年年末に、さらに『白鳥の湖』は時期を問わずいつでも、なのです。
 この『白鳥の湖』は、今年も1月から個々のバレエ団で、また合同公演としていろいろと上演されています。そして、5~7月には、珍しいほど集中、それも大バレエ団ばかりです。すなわち、5月中旬には新国立劇場バレエ団と東京バレエ団が一部重複する日程で海外からゲストを招いて複数回数の公演、また熊川哲也さんのKバレエも下旬に東京、神奈川で公演しています。6月に入ると牧阿佐美バレエ団が上野水香さん、草刈民代さんという人気者を押し立てて東京と神奈川で、さらに後半には八王子を本拠とするバレエシャンブルウエストが都内に進出、7月には松山バレエ団が新宿で公演、主役はいうまでもなく天下の森下洋子さんです。首都圏のバレエ団で『白鳥の湖』の全幕をレパートリーとしているのは、ここにあげた以外には谷桃子バレエ団と久し振りに1月に上演した貝谷バレエ団くらいですから、この2か月足らずのうちに東京のファンは合同公演を別にすれば、主要な『白鳥~』をほとんど見たことになります。
 これらを比較してみるのももちろん面白いのですが、ここでは、この作品の見方、ポイントを私の場合として紹介してみようと思うのです。そのケースとしてとりあげるのは、もっとも若いバレエ団であるシャンブルウエストです。
 とくに川口ゆり子さん今村博明のご両人ではなく、吉本真由美さんとここの出身でサンフランシスコバレエの若きソリスト、山本帆介さんを主役に起用しているので、余計若いバレエ団というイメージが強いのです。
 演出・振付はプチパ/イワノフにもとづいて今村さんと川口さんが行っています。牧阿佐美バレエ団のウエストモーランド版を参考にしている部分もありますが、独自の解釈、アイデアも加えられています。この公演の批評するのが目的ではありませんが、演出には見せる工夫があり、充実した舞台でした。オデット/オディールの吉本さんはまだ若いのですが経験豊富で見せ場をしっかり心得てなかなかの出来栄え。もっと若い山本さんは実質主役デビューといってよいと思いますが、大柄、スタイルに恵まれ、テクニックもあり、この年齢にしては演技も自然さを感じさせました。気負いからかいささか肩に力が入っていたのはやむをえないところでしょう。ほかのダンサーたちもそれぞれ進境を示していますが、松村里沙さんのうまさがとくに目につきました。
 さて、『白鳥の湖』をドラマとして面白く見るには、第1幕と第2幕で行われること、意味することの理解が重要です。これが伏線となって第3幕のクライマックスから破局、そして第4幕の結末を迎えることになるのです。
 第1幕は、王子ジークフリートの城の近くの広場、成人式を控えた彼は気の合う貴族たちや村人たちと楽しい時を過ごしています。ここでも貴族と村人の関係を、例えば衣裳、態度などできちんと示すことが必要です。ある演出では貴族を大柄に、村人を小柄にしたりしています。これも納得できます。王子は開幕少しして登場します。ここは観客の拍手が自然に起こるように工夫されます。たとえば舞台上の人びと、とくに女性たちは心ときめくはずですし、また王子はまさにその様な存在でなければなりません。といってもまだ二十歳前、ややマザコンでモラトリアム気味(責任ある地位にはつきたくない)という側面も感じさせること、やや頼りないアイドル性が必要です。これはその後に現れる彼の母親(王妃)の、もう貴方は遊んでばかりいないで身を固めなければなりませんという言葉に対する反応などで表現されます。たとえばそれにすぐに従わずに、家庭教師ウオルフガングにどうしたらいいだろうと問い掛け、もう覚悟を決めなさいといわれるやりとりなどで示されます。ここでの、王妃、王子、家庭教師、そしてそのいきさつを目にした仲間たちの演技はきわめて重要です。王妃は結婚を躊躇する王子に威厳を持って申し渡すことは大事ですが、母親としての慈愛も同時に示さなければなりません。シャンブルの王妃にはここがもう少し欲しいところ。
 王妃が去った後、王子はやや憂鬱になります。仲間たちはなんとか元気づけようとします。パ・ド・トロワはそのひとつです。ここのところもきちんと分かるように進めることが必要です。この日は王子がきちんとそれを見て楽しんでいましたが、演出によってはここで王子が退場(袖に引込む)してしまうことがあります。これはおかしいですね。大物ゲストなどは、ここを休みの場と思っているのかもしれません。もう一つ王子を楽しませる方法として家庭教師のお酒を飲み過ぎてのご愛嬌の踊りがあります。この最後のスピードアップする音楽で娘さんにぐるぐる回されて倒れ込む演出は面白いのですが、ここをタイミングよく終わらせるのはなかなか難しいのです。この代わりに道化師を登場させて、王子に絡みながらア・ラ・スゴンドのピルエットで盛り上げる演出もあります。これも悪くないのですが、家庭教師の存在は別の場面でも必要ですので、ここはなんとかタイミングよく倒れて、王子だけでなく観客も笑わせて欲しいものです。
 日が落ち、貴族、村人たちは去っていきます。家庭教師も心を残しながら別れを告げます。王子は1人になると再び気が滅入ってきます。ここの王子のソロは、単なる踊りでなく感情がきちんと表現されていなければなりません。山本さんは、なかなかの技術の持ち主だということ示しながら、よく感情を表現していました。
 と、仲間の貴族たちがやってきます。王子に狩りにいこうと誘いにきたのです。狩りができるのも独身の時だけだというのです。王子も心を動かされ、これも心配して現れた家庭教師にそれを伝えて出かけます。ここは、王子が1人で飛ぶ白鳥を見つけて狩りに行こうと決める演出もあります。皆で狩りに行くケースと王子単独の場合で、第2幕の形が変わってきます。
 すなわち、前者では湖に着いたときに、王子が仲間にここは1人にしてくれと頼みます。王子がオデットに出会うときには1人でなければならないからです。オデットの登場、ここも印象的でなければなりません。それにはその直前の王子の演技が重要です。つまり空を飛んできた白鳥が陸に降りると若い女性になる、この驚きがあって隠れ(シモテに引っ込む)、舞台が無人になり、そこにオデットが現れるのです。
 次いで、この作品の重要な場面になります。悲しみのオデットと王子の出会い、ここはジゼルのアルブレヒトとの出会いと同じように。感動的なシーンです。こちらはさらに運命的な初の出会いです。王子はオデットに逃げないように頼み、ここにいるわけを尋ねます。彼女は自分はもとは王女で、悪魔ロットバルトのために白鳥にされ、毎日悲しんでいると語ります。王子は王女(冠のしぐさ)であることを知って敬意を表し、どうすれば人間に戻れるのかを聞きます。オデットはそれは純粋な男性が私を愛し、結婚を誓ってくれることだと答え、王子はそれを約束します。そこに悪魔が現れ、王子は弓で闘おうとしますが、オデットはやめて欲しいと願い、悪魔の下へ去っていきます。
 たしかにここは長いマイムが続き、初めて見る人、知識の無い人には分かりにくいかも知れません。しかし、とくにロシア系にみられるように、ここのマイムを無くしてしまう演出は私は取りません。ここを踊りにするにしても、音楽がマイム(情景)ですからたいしたものにはなりません。それより、ここに述べたような意味を形でなく、心を込めて演じれば、初めてでも感受性のある人なら十分に雰囲気は理解できるのではないでしょうか。シャンブルウエストではここをきちんと演出しており、吉本さん、山本さんも的確に演技していました。
 途中までしか説明できませんが、私はこんな見方をしています。また機会があれば後半も取り上げてみたいと思います。

 

 




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