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ニュース・コラム

舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」

幕あいラウンジ・うわらまこと

2005.03/10
 

「舞踊を学ぶもの、見るもののギャップ
          ダンスマップで感じた才能流出」

 


 今(05年3月)、私がアドバイザーをつとめている(社)全国公立文化施設協会芸術情報プラザの仕事として、ダンスマップ・オブ・ジャパン(日本舞踊地図=仮称です)の作成にかかっています。この全国公文協での私の役目は、一言では公立のホール、会館と舞踊団体や舞踊家を結びつけること、もっと端的にはこれらの施設が自主事業に舞踊を取り上げられるようにすることです。そのために、これまでもビデオやパンフレット、セミナーなどで、舞踊の魅力、知識、舞踊公演の仕方、取り上げ方などについて施設の事業担当者に説明してきました。
 舞踊公演についてもっとも望ましいのは、欧米など海外でそうであるように、舞踊団(できれば学校も)を抱えて経常的に創造的な舞踊活動を行うことですが、現実にはほんの一部を除いては、なかなか難しい。施設の担当者で志あるものも、せいぜいプロデューサー的に振付者や舞踊家を選んで共同で創造活動するのが精一杯です。これらの実態、新しい動向については、舞踊家側のプロ活動化の動きを含めて、これまでもたびたびこのページでも紹介してきました。たとえば最近では京都の望月則彦さんが芸術監督のA.A.P.(アルティ・アーティスト・プロジェクト)や、九州での野村一樹さんを中心とした「Dcbut」ツアー公演などです。
 話を本題に戻しますが、このダンスマップは文化施設向けの舞踊情報のひとつの集大成として考えたもので、次のような内容、目的をもっています。
1、前提として、わが国の舞踊界の特性、問題点などについて解説する。
2、地域(北は北海道から南は沖縄まで)ごとの舞踊界の状況を代表的、特徴的な舞踊団、舞踊家、舞踊イヴェントなどの活動を中心に、しかしできるだけ広く集め、まとめる。
3、公立文化施設で舞踊公演を企画するのに際してのその方法、進め方の要点を説明する。
4、その他の付帯情報、たとえばコンクール、活字や映像メディアなどの資料。
 ここでとりあげた舞踊とは、クラシック(バレエ)、モダン(現代舞踊、コンテンポラリーダンス、ジャズダンス)を地域ごとに、そしてフラメンコと舞踏はまとめて記述しています(この理由は後で)。
 ××地図というのは、たとえば産業とか観光などについては珍しくないのですが、芸術、とくに舞台芸術、なかでも舞踊芸術については、最初からある程度は覚悟していましたが、やってみたらそれ以上に大変な作業でした。
 まずこれは最初から分かっていることですが、舞踊はとくに変動の激しい分野であるということです。バレエ団、現代舞踊団にも盛衰はありますが、とくにコンテンポラリー分野では新しいカンパニー、アーティストはドンドン生まれていますし、バレエ関係でもダンサーはあちこちに移動していて、なかなかフォローしきれないところもあります。
 もう一つ、これも予想はしていましたし、前にもこのページにも書いたのですが、一部を除いてそれぞれの地区に適当な舞踊専門の評論家、研究者、ジャーナリストがいない、というより正確には見つけにくかったことです。それはまず、各地区に舞踊ジャーナリズムが確立していないこと。東京地区では十分とはいえないにしても、一応舞踊の全ジャンルをカバーするメディアが新聞やネットにありますが、関西となるともう少々おぼつかなくなります。その他に地域になると、スポット的にトピックとしてとりあげることはあるにしても、舞踊専門誌、紙はもちろん、日刊紙でも舞踊欄をもっているところはほとんどないのです。したがって、舞踊評論、批評というものが成立しないのです。
 もちろん、各地に熱烈な舞踊ファンはいると思います。ただ、大変失礼ですが、各地の舞踊ファンの多くは、外国のバレエ、ダンスのファンのような気がするのです。その地域の舞踊について、バレエからダンス、フラメンコ、舞踏まで全般的に精通している人がいるのでしょうか。もしおられるのなら、ぜひご連絡をいただきたいのです。
 で、最初は私が全部書こうかと思ったのですが、時間的な問題もあり、初稿はそれぞれの地域、すなわち北海道、東北、関東、甲信越、東海、中部、北陸、関西、中・四国、九州などに在住、あるいは事情に比較的詳しい評論家、ジャーナリズムにお願いしたのです。結果としては、執筆者の多くには丁寧に書いていただきました。ただ、いくつかの地区では、適当な方がおらず、直接団体にデータをいただいてまとめざるをえませんでした。
 といっても、予算の関係もあり、一つ一つの団体、一つ一つの舞踊家についてわけるスペースは僅かなもので、名前しかあげられないところもたくさんでてしまいました。逆にいえば、それほど多くの団体や舞踊家が取り上げられているということにもなります。
 さて、ここからが、このページの本論ということになります。問題はこれだけたくさんのバレエ団、ダンスカンパニー、アーティストが全国にいるのに、なぜそれぞれの地域に舞踊ジャーナリズムが確立しないのか、ということです。
 この点についても、実は前にものべているのですが、ここでもう一度整理しておきたいと思います。
 端的には、各地に舞踊のスタジオはたくさんあるが、舞踊公演が少ないこと、舞踊を習っている人はたくさんいるが、舞踊を見たいと思っている人は少ないこと、それが理由です。スタジオからは多くの優れたダンサーが育ちます。しかし、その多くはしっかりした舞台が地元にないため、東京か海外にでてしまうか、全国各地のコンクールをホッピング(跳びまわって)してうさをはらしているか、なのです。
 この状況は、厳密にいうと舞踊のジャンルによって少し異なります。大都市集中が激しいのがバレエ。東京、関西、愛知以外には、年に複数の定期公演を行えるバレエ団はありません。現代舞踊は有力者が比較的各地に分散しています。しかし、スタジオや団体の多いのがかえって個々の団体の厚みを減らし、公演(発表会でなく)をしにくくし、結果として観客が育たないのです。コンテンポラリーダンスは比較的全国に広がっていますが、ネットワークや巡回が多く、各地のレベルはまだ高くありません。フラメンコと舞踏はバレエ以上に大都市というより東京集中で、地域ごとに書くのが難しいのです。
 実は、全国各地の公立文化施設の担当者の方々に分かっていただきたいのはこの点なのです。すなわち、各地に多くのスタジオがあり、優れたダンサーが育っている。しかし、そのダンサーたちは地元を後にしてしまう。なぜならその地域にしっかりと踊れる場がないから。それは、才能の流出であり、その地域の文化にとって大きな損失ではないか。問題はここにあります。公立文化施設の設立の目的は地域文化の振興、住民へのサービスにあります。そのためには、公立の施設が中心になってしっかりした舞踊公演を企画すること。そうすれば、芸術文化は振興されるし、地元のファンも充実したレベルの高い公演を鑑賞することができるのです。
 これは、地方と東京だけでなく、日本と海外との関係でもいえるのです。現在、海外で多くの若いダンサーが活躍しています。それ以上のさらに若いダンサーが海外のスクールで学んでいます。その予備軍はもっと多いのです。これはまさに国としての才能流出であり、文化的損失で公立文化施設では、こういう意識でわが国の舞踊を育て、振興して欲しいと思います。
 もちろん、生徒を出演させてチケットを売る発表会に比べて、生徒を出さない公演は集客に困難があるでしょう。採算も大変です。しかし、文化の振興、住民サービスとして、施設の方には長期的視点をもって頑張って頂きたいのです。一方舞踊団、舞踊家サイドも観客を満足させるプロの魅力を発揮するように努力することも忘れてはなりません。