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ニュース・コラム

舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」

幕あいラウンジ・うわらまこと

2006.3/28
 
ー東京の公演ラッシュと対象的な各地ー

 
 
●微妙な人選の舞踊各賞                
 12月ももちろんそうですが、3月も-つの1年の区切りです。これは国家的には財政年度が4月~翌年3月であることで、これは舞踊界では文化庁などの諸制度、そして助成の期間を意味しますし、学校の年度も日本ではほとんどこの基準で行なわれますから、3月は年度(学期)末であり、春休みであって、バレエ学校も4月の新しいスタートを迎えるわけです。
 それとは別に1~12月の歴年を対象にするものでも、表彰、顕彰などは年が明けてから審査、選考が行われるのが普通です。年間賞としては、芸術選奨、民間では橘秋子貰、松山バレエ団財団顕彰、服部智恵子賞、江口隆哉賞、河上鈴子賞、舞踊芸術賞、中川鋭之助賞、舞踊批評家協会賞、さらに舞踊も対象の1つになっている朝日舞台芸術賞、アサヒビール芸術賞などみな3月くらいまでに決定されます。これら以外に、地域ごとに自治体やマスコミなどによる表彰もあると思いますが、圧倒的に東京に集中しています。
 まだ発表されていないものもありますが、たしかに受賞者が順送りとみられるものもなくはありません。これは再、再々などの受賞が許されないものがはとんどですので、やむをえない面もあります。ー方、それとは別に新しい勢力が現れたり、リバイバルするものもあり、面白い動きがでてきてもいます。賞の目的、条件にもよりますが、受賞者は賞によってベ
テラン主体あり、新鋭の進出あり、また伝統的な分野、新しい分野など、なかなかバラエティに富んでいます。ちょっとばらしますと、選考委員が共通、重複する賞が多いのですが、では受賞者が同じ顔触れに集中するかというと、委員それぞれが賞の性格を知っているので、むしろ逆に分散するように微妙に調整が行われているのです。
 これは年寄りの知恵ともいえるし、若い人には談合ではないかと思われるかもしれませんね。もちろん、談合ではなく、むしろ以心伝心というべきでしょう。したがって、委員が現在より若い人に入れ替わったら、受賞者の顔触れもがらりと変わるかもしれません。

●首都圏で乱立、両立?の舞踊公演
 上記以外にも1~3月には、コンクールを含めてさまざまな選考、審査の会があります。しかし、それ以上に公演の回数も多いのです。
 とくに2月、そしてそれ以上に3月は週末の公演のバッティングが多いのです。率直にいってこれでよく共倒れにならないなと思います。このような状況が続くのは、日本独特の舞蹄界の状況があるからです。ひとつは、舞踊団、カンパニーの乱立、そして劇場の乱立です。もう一つはそれぞれが公演回数を観客動員の可能な範囲に抑えている、つまり少ないこと。そしてこれは首都圏だけの現象だということです。
 例を3月の第一週と第四週で見てみましょう。
 第一週は記憶では次のとおり。3月1日(水)には日本バレエ協会の『白鳥の湖』が東京文化会館、舞踊作家協会月例がティアラこうとう、加藤みや子さんのメンバーの会が俳優座。ザ・フォーサイス・Co.が彩のくにさいたま芸術劇場。そのあと羅列しますと、現代舞踊協会アンデパンダン新人舞踊展がパーシモン、モダンの若手によるフリー・パッケージが俳優座、水と油が世田谷シアタートラム、大駱駝艦が吉祥寺壷中天、週末にはリヨンオペラ座バレエが神奈川県民、フォーサイスのBプロがさいたま、光が丘IMAホールで松崎すみ子さんの「くるみ割り人形」、馬場ひかりさんが俳優座、そして私は5日の日曜日に愛知県知立市(パティオ池鯉鮒)で平山素子さんの『雪女』、引き続き西宮の兵庫県芸衝文化ホールでの藤田さんのリサイタルとハシゴ。吉祥寺シアターでのシムズバレエ、茅ヶ崎でのCo.山田うんも時間があれば見たかったものです。さらに、世界各地の宮廷舞踊や民族舞踊などが演じられる世界舞踊祭もこのとき赤坂区民センターで開かれています。
 毎日見ても、1日2回見ても全部はみられません。お金もかかります。率直にいって、私たちには、もういい加減にしてくださいよ、いいたくなる状況です。
 一方で、多分この1週間、いつもいっているように、人口百万人以上の都市でも、舞踊公演が1回もないところも多いのではないでしょうか。

●現在の公演ラッシュは舞踊界の繁栄?
 この状況は、第4週(3月20~26日)、とくにその後半にはさらに殺人的になります。
 順に記しますと、20、21日に河野潤さんが吉祥寺で、22日に東京バレエ団が斎藤友佳理さんの『ジゼル」。23~26日には新国立劇場でナチョ・ドゥアトさん、24日に日本バレエ協会のヤング・バレエ・フェスティバル、24、25日にアーキタンツがユーリ・ンさんの『コール・ド・バレエ』を読売ホールで、さいたまではトリシャ・ブラウン・ダンス・カンパニーが24-26日。さらに25、26日には五反田ゆうぽうとでNBAバレエ団のガリーナ・サムソヴァさんの再振付・演出による『白鳥の湖』が上演されました。
 コンテンポラリー、・舞踏系では山海塾が世田谷パブリック、珍しいキノコ舞踊団がスパイラルで23から26日まで。上田遙さんも25、26日に束京国立博物館でやっています。これだけでなく、パーク・タワー、スフィア・メックス、バンカート(横浜)、ディー・プラッツなどでもダンスの公演が行われています。もちろん、日本舞踊も畑道代さんの菊の会などいくつかありました。
 私は、25日に神戸の貞松・浜田バレエ団のラ・プリマヴェラを見に行きましたが、その前にパーシモンホールに全国舞踊コンクール(東京新聞)の創作部門の予選を一部ですがのぞきました。
 この間、名古屋、大阪、福岡などでもダンスの公演は行われていますが、はとんどが他所からのツア-で、地元の団体や舞踊家によるものは、上記の貞松・浜田バレエ団以外残念ながらほとんどありません。
 実は第3週にも週末には牧阿佐美バレエ団の高円宮殿下追悼『アビアント』、熊川哲也さんのKバレエカンパニーの『コッペリア』、カンパニー・マリー・シュイナール、山海塾などが重なり。さらに静岡で鈴木忠志さんの演劇と金森穣さんの振付作品が同時に上演され、私はそれを見にいっています。

●問題の先送りになっていないか
 たしかに、ただ羅列しているだけではあるのですが、先にも書いたように、ここに日本の舞踊界の特性が如実に表われているのです。これは舞踊界にとって基本的には決して好ましいことではありません。たとえば東京では舞踊団、舞踊家が多すぎますし、逆に他地区では少なすぎます。しかし、だから減らせとか増やせとか、私たちが簡単にいうわけにはいきません。
 といっても、このままでは首都圏や精々名古屋、関西以外の舞踊フアンにはよい舞台を見る機会は今後も訪れませんし、踊る方も舞台で食べていける時代はなかなかやってこないと思います。現在の首都圏の繁栄は問題の先送りになっているのではないでしょうか。
 なんとかしなければ、という問題提起として、こんなことを書いてみました。