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ニュース・コラム

舞踊評論家・うわらまこと氏の連載コラム「幕あいラウンジ」

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重要な芸術監督の役割
―舞踊界が社会性を持つために―
うらわまこと 2012年1月7日

●GM(ジェネラルマネジャー)の反乱…読売巨人軍のケース
 昨年秋の、プロ野球読売巨人軍の内紛については、まだ記憶している方は少なくないと思います。大学で経営学を教えている私としては、マネジメント、人事管理などの点でなかなか興味がありました。ただメディアが伝える実態は、ガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法規順守)といった大袈裟なものではなく、組織人あるいは人間としての基本的な姿勢の問題にすぎません。
 それはそれとして私が感じたのは、球団社長、オーナー、代表、GM(ジェネラルマネジャー)、あるいは監督の在り方とか、役割関係についてです。これは舞踊界でもいえることだと思うのです。

 舞踊界ではその組織の形はまちまちです。新国立劇場バレエ団のように国立の大組織、劇場に所属するものから、指導者、振付者を核としたカンパニー、小グループ、さらに個人が小さな場所を借りてそこで子どもさんたちに教えている教室まで。とくに舞踊研究所、スタジオなどとも呼ばれる教室の多さはわが国独特の形で、これらの非法人の個人、あるいは同族経営がわが国の舞踊界を支えているといっても過言ではないのです。

 ただ、別の面からみると、これらの教室とカンパニー(舞踊団)の区別がはっきりしていないという事実が、プロとアマチュアの境をあいまいにし、広く開かれた芸術活動、組織活動が十分にできない状況を作り出しているのも確かです。
 これと、巨人軍問題とどうかかわるのかというと、まず、オーナー、GMの役割があいまいで、アメリカの野球界とは大分異なっており、我が国のなかでもそれはまちまちだということが、舞踊の世界にも当てはまるのではないかということです。野球界では、基本的にはオーナーはその団体の持ち主、株式会社であればその株の大半を所有する文字通りの代表で権力者。ただ日本ではオーナーは雇われるもので、その上に親会社があってオーナーには余り力がない場合があります。巨人の場合もそうです(読売新聞が親会社)。一方GMは現場の最高責任者でスタッフ、選手、コーチ、予算の権限と責任を持っています。これも日本ではあいまいというか、置いていないところもあります。

 これをダンスカンパニー、舞踊団にあてはめたらどうでしょうか。
大手のバレエ団では比較的はっきりしています。いわゆるガバナンス(統治組織)は、創立者やその一族がもっている場合と合議体で運営する形があり、どちらもそのトップが団長とか代表(これがオーナーに相当する)というように名乗っています。法人格は財団法人、NPO法人、あるいは会社組織をとっているところが多いです。そしてGMにあたるのがAM=アーティスティックマネジャー=芸術監督です。ほとんどの大手バレエ団では兼務もふくめて、この形をとっています。

●芸術監督の仕事
 ただ、この形をとっている舞踊団は舞踊界全体としてはほんのわずかで、ほとんどの団体は組織がはっきりせず、個人商店的な運営をしていますし、実は芸術監督を置いているところでも、欧米型の機能、役割を果たしているところは少ないと思います。

 では芸術監督の機能、役割とは何でしょうか。
それは次のようなものと考えます。

  1. 団体、団員の人事マネジメント
    たとえば、団員の意欲、能力の向上・充実や協力体制の確立。
  2. 芸術活動
    たとえば、作品のレパートリー、ラインアップの明確化、個々の作品の制作(演出・振付・キャスティング=美術・音楽などのディレクション含む)
  3. 収益・資金管理
    たとえば、予算、決算、収益に関する責任、助成や寄付金など資金集め、さらにチケット販売やPRなど販売促進への協力
  4. その他
    たとえば、団体のCI(カンパニー・アイデンティティ=団体の特色、セールス・ポイント)の明確化、さらに将来のビジョン、長期計画の立案など)

 つまり、野球界でいえば、GMだけでなく監督の、場合によってはオーナー役も一部果たすことが望まれるのです。したがって、団長が兼務することもあるでしょうし、補佐役やダンスマスター、ミストレスの活用も重要です。
 たしかに、小グループや教室の延長のような団体では、組織の形だけにこだわる必要はないと思います。しかし、プロの公演団体を目指すのであれば、組織の形は別として、上のような仕事が必要であるということは認識しておく必要があります。
 たとえば、現在進行中の公益法人化、さらにNPO法人、一般法人を目指すには当然の条件ですし、任意団体、見なし法人であるとしても、しっかりした舞踊活動を行っていくには、上記のような広い意味の団体経営をきちんと行うことが必要です。

●広く社会に通用する芸術監督を
 東日本大震災、原発事故に直面して、文化・芸術界でもなにかできないか、なにかしなければという機運がたかまりました。舞踊界でも、募金、公演収益の拠出、チャリティー公演、さらに一部の団体、ダンサーたちは被災地を訪問して、被災者に寄り添い、力づける活動を行っています。
 率直にいって、舞踊界は他の音楽や演劇の分野に比べて、社会的な意識、活動が弱かったきらいがあります。これは前述したように、舞踊にかかわるものの圧倒的な部分が舞踊教室の若い生徒だという事情からもやむを得ない面もあります。
 しかし、舞踊が本当に社会にとって、人間にとって欠くべからざる存在だということを証明するには、舞踊活動がそれに値する内容とレベルをもったものであることは当然ですが、さらに今回の大震災で多くの芸術家、芸能人がしたように、積極的に社会問題、場合によっては政治問題にかかわっていくことも必要です。それはまず社会の一員、市民としての義務であるとともに、いろいろな社会的、政治的などの理由から、芸能界、舞踊界にとって厳しさが増してくることは明らかであり、それに積極的に対応しなければならないからです。
 劇場法ひとつとっても、舞踊界が広く外部に発言力をまし、あるいは影響力を行使するようになることが望まれます。それにはそれにふさわしい人材がいなければなりません。それはスケールの大きな舞踊人、広く社会に通用する人材です。それは他の分野の例からみても、演出家、作曲家、指揮者などによる芸術監督から生まれることが多いし、また望ましいことです。
舞踊界でも芸術監督の重要性、評価をしっかり考えることが必要ではないでしょうか。

うらわまこと
うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
 
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。