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ニュース・コラム

山田マミのやっぱり、パリが好き

山田マミのやっぱり、パリが好き

フランス・パリ在住の山田マミさんが、現地発信の最新ダンス情報をタイムリーにリポート!
ダンスだけでなく、ワイン、フェスティバル、市場などなど、パリっ子たちの日常生活も、
山田マミさんによる独自の視点でお伝えします。動画によるダンス映像の配信も見所です!

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ダンスビエンナーレ・ヴァル・ド・マルヌが始まった

奇数年の3月に行われるパリ郊外のダンスビエンナーレは、94県のヴァル・ド・マルヌ県とCDCのラ・ブリケトリーが主催している。メトロ7号線の中華街の先とか1号線終点のヴァンセンヌ方面なのでメトロで行けるし、もう少し遠いところには無料バスがシャトレ広場から出るので、問題なく行ける。で、最初に行ってみたのが屋外無料公演の「折り紙」

日仏ハーフのノロ・サチエさんとヌーヴォーシルクの装置を作っているシルヴァン・オールさんのコラボ作品。
広場にデーンと置かれたコンテナ。10mくらいの長さはあると思う。その真ん中が開いて上に持ち上がると、ノロさんが逆さまになってぶら下がっている。アクロバットに見とれていたら、別の部分のコンテナが縦になった。その先端が別の部分と結合して引っ張ったら、あらあら、あんなに大きくて硬いコンテナがどんどん形を変えていく。まさにコンテナの折り紙。ノロさんも命綱なしで高いところをよじ登ったり、ぶら下がったり、綱渡りしたり。途中で流れる「犬のおまわりさん」のハミングがいい。

こーんな面白い公演が無料!
ビエンナーレのホームページはこちら

勅使川原三郎+藤倉大=ソラリス

大阪生まれでロンドン在住の現代音楽作曲家の藤倉大さんと、日本を拠点に世界を回る勅使川原三郎さんが、パリのシャンゼリゼ劇場、リールとローザンヌのオペラ劇場委託によるオペラ作品を世界初演するというニュース。シャンゼリゼ劇場初日の前日にパリ日本文化会館で行われたトークに行ってきた。
藤倉さんの友人が送ったメール「勅使川原さんがオペラ作品を作りたいと言っているみたいですよ」がきっかけとなって急接近した二人。
藤倉「台本は?」
勅使川原「ソラリス」
藤倉「了解」
と、即刻決まり。もしも台本がソラリスではなかったら、作らなかったかもしれないという藤倉さん。オペラ作品の演出家を探していたところだったのでグッドタイミング。
あまりにも安易な同意で決まってしまったし、藤倉さんはロンドン、勅使川原さんは日本なので簡単に会うことはできないけれど、不思議に不安感はなく、それぞれが準備を始めたそうだ。が、企画側は心配で「せめて1ページでもいいから台本なり作曲なり、できたものを見せてください!!!」
でも、台本が届いていないのだから作曲を始めることもできないし、勅使川原さんをせかすこともしたくなくて…と思っていたら、ある日どさりと完璧な台本が届いたので、それから1年半の間毎日作曲をしていたという。
一方の勅使川原さんは、藤倉さんが作曲をしている間は別の視点から作品を見返したり、装置や衣装を考えていて、特に歌手とダンサーが同一人物を演じる点が難しく、建築のように基礎から組み立てるのか、彫刻のように削っていくのかを悩んだあげく、文楽のように第3の人物を登場させることにしたという。
オペラでは、作曲家と演出家が世界初演前日のゲネの時に大げんかすることがよくあるらしいけれど、台本と演出に関しても、また、演奏するアンサンブル・アンテールコンテンポランに対しても不満は全くなくて、あまりにもスムーズに行きすぎたことが物足りないみたい。
勅使川原三郎、佐東利穂子、ニコラ・ルリッシュ、ヴァスラフ・クーニェスという豪華メンバーが踊る。ニコラ・ルリッシュの陰に隠れてしまったけれど、ヴァスラフ・クーニェスはNDT出身の素敵なダンサー。
公演に行けなかったのが本当に残念。
ダンサーが常に舞台にいるので、オペラというよりダンス作品に近いという声を多く聞いた。そのためか、オペラ専門の批評家からはあまり評判は良くなく、ダンス系の批評家の評判は上々。歌手が素晴らしかったというのが、共通の批評。

盛り上がった野田秀樹「エッグ」公演

J−popsの軽快な音楽が流れる会場に入って字幕を見上げれば「この劇場での日本の演劇団の公演は寺山修司以来33年ぶり」の文字。なんたる快挙!と思ったのもつかの間、フランス語の字幕スーパーには「寺山修司」の文字すらなく、嫌な予感。
日本での公演評をネットで読んでいたけれど、心構えするほどの残忍さは感じられなかったし、日本、日本というけれど、これは世界に向けて発するメッセージだと思った。戦争の残虐さ、プロパガンダ、利益のため金のために人を犠牲にし、マインドコントロールする。
動きと言葉の多い野田演劇にフランス人は驚いたようで、「日本人がこんなにジョークとかダジャレ好きだったとは知らなかった」という感想も。ただ、字幕スーパーの位置が悪い。高いところにあるので、読んでいれば舞台が見えず、見ていれば字幕が読めず。しかもセリフが機関銃のように間髪入れずに飛び出して、日本人でも集中しないと聞き逃してしまいほどの量のセリフに翻訳が追いつくわけもなく、結局アバウト。それに、「イチゴイチエ」という深津絵里が演じた役の名前も、これが「一期一会」であり、イチゴ→一期→苺→ストロベリーの三段論法がフランス人にわかるわけなく、せっかく鋭いところをついているのに通じなかったのが残念。プログラムに説明があれば良かったのにと劇場のディレクターに言ったら、劇団側から出された文章を訳しただけという回答。 セーラー服は存在しないからその意味もわからないし、細かいジョークも通じない。プログラムの説明が充実していたら、もっと楽しめたのになあ。救いは映像が流れた時のナレーションがフランス語だったこと。フランス語が流れた途端に、フランス人の脳みそが溶解していくのを感じたもの。
動きが多くてスピーディーな展開は2時間40分の長さを感じさせないものの、やっぱり言語には限度があるということなのかしら。理解しきれないのか、途中で帰る人がいたのは残念だった。終了後にものすごい勢いで劇場を出た知人に聞いたら、「23時終了だとレストランに行けないから困る。せめて始まりを1時間早くしてくれればよかったのに」と。そうか、フランス人は公演後に夕食を取る人が多いのだ。
それと、「日本の演劇」という先入観が良くなかったのではないかしら。フランス人にとって日本は遠い国で何が起ころうが知ったこっちゃないという気がする(福島の原発事故は別として)。北朝鮮の拉致問題を話しても「一つの国家が拉致を命じるなんてありえない」とか、竹島などの領域をめぐる隣国との摩擦も「ふ~ん」で終わり。1月に日本に行くと言ったら、「今はどの季節?夏?」おいおい、日本とフランスの緯度はほとんど同じなんだよ!日本が載っていない世界地図で育ったフランス人ってこんなもの。以前に買った手帳をめくっていたら、韓国の一部までしか載っていない世界地図がついていたもの。漫画が流行って日本を知っていると言ってもどこにあるか知らない人が本当に多い。「日本は中国の中にあるんでしょ」という小学生の言葉には愕然とした。
素晴らしいものの価値が十分に発揮されなかったことが残念だったけれど、劇場側は大満足で、次回の公演も予定されているらしい。
野田さん、次回はプログラムにもう少し詳しい説明をお願いします。プログラムは作品をより深く理解するためのガイドというのが、フランス流なのだから。

未完のフィルハーモニー・ド・パリ

予算も工事期間も大幅にオーバーして、未完成なのにとりあえずオープンしたフィルハーモニー・ド・パリに行ってみた。

グレーのずんぐりむっくりの外観に威厳があるというのかなんというのか。正面の赤い装飾がアクセントかなと思ったら、なんとそれはクレーン車。まだ工事中なのだった。

メトロ5号線のポルト・ド・パンタンで降りて、フィルハーモニーを目指すけれどいつまでたっても建物が近づかない。ヴィレット公園はムカつくほどに広い!
シテ・ド・ラ・ミュージックだったところはフィルハーモニー2と名前を変えていた。中ではデヴィッド・ボウイの展覧会。

これが建物に続く通路

現代音楽家のピエール・ブーレーズの展覧会をやっている。イベントがいろいろあるみたい。

建物の外にはシテ・ド・ラ・ミュージックの建物内の模型が展示されている。

その横のショーケースには音楽博物館らしいオブジェたち

フィルハーモニーまであまりにも遠くて、途中休憩したフィルハーモニー2。シテ・ド・ラ・ミュージックという名前の方が素敵だったのにな…
で、目的のフィルハーモニーにたどり着いたら、これ。クレーン車がぐるぐる動いているし、中からはガンガンゴンゴン工事の音が響いてる。

これが入り口の天井だけれど、完成しているのだか、まだなのだかよくわからない。

エリック・カイザーの軽食コーナーが入るらしいけれど、まだ工事中らしい。
6階には眺めの良いレストランが出来るらしいけれど、もちろん工事中。

工事だらけの館内。天井からはケーブルがぶら下がっている。トイレは…、ほっ、使える。シンプルに白でまとめたトイレ。

あいにくコンサートホールには入れなかったけれど、2400席のホールはどの席で聞いても音が同じように聞こえるのだとか。コンサートだけでなく、ダンス公演も企画されているので、いつか見に行けるかな。

晴れている日には銀色の外壁が光り輝くのだろうなあ。ところで本当に完成するのはいつなんだろう。

事件から2ヶ月…

まだあちこちに事件の面影が残っている。これは劇場に飾られていた事件をテーマにした絵。

シャルリー・エブド事件から2ヶ月たって、犠牲者にオマージュを捧げるデモの出発地だったリピュブリック広場に行ってみた。

リピュブリック広場は改装されて憩いの場所となったから、シンボルの塔に登るのは簡単。だから落書きもいっぱい。

近寄ってみれば革命で自由を勝ち取った人々の彫刻がある。

その彫刻に、オブジェを突っ込んでいる。作者が見たら悲しむのか、喜ぶのか…

さて、1月9日に襲撃されて4人が亡くなったヴァンセンヌのスーパーマーケット、明日新装開店というので行ってみた。

この男性もユダヤ人だというだけで誘拐されて、拷問にかけられて殺された。

明日再オープンというのにその気配は全くなくて、聞き間違えたのかと思ったけれど、翌日のニュースでオープンしたと言っていた。事件に巻き込まれた店員の何人かは、まだ自宅療養中だとか。心に残された傷跡は深い。
国籍も親も容姿も選んで生まれることはできないのに、なんで差別が生まれるのだろう。私は日本人だけれどフランスでは移民だから差別を受けることがある。お店で物を売ってもらえなかったり、無視されたり、ちゃんとフランス語を話しているのに何を言っているのかわからないと言われたり。別の店で同じことを言ってちゃんと商品が出てくるから、発音とか語学の問題ではないのだと思う。ある人はスーパーを出るときに毎回万引き検査をされるって。そして驚くことにこういうことをする人が私よりはるかに若い女性だったりする。

少し落ち着いたので、シャーリー・エブド紙を買ってみた。1180号。紙質が悪くなったな。昔は上質紙だったのに。

最初のページが政治記事

開催中の農業博覧会を訪れた極右政党FN/フォンナシオナルの代表マリーヌ・ル・ペンを風刺する挿絵

ダーイシュ特集

三面記事いろいろ
昔よりおとなしくなったような気がする。何年か前に買った時は、下ネタオンパレードで、買うときにスタンドのおじさんがニヤリと笑った意味が後でわかって、それからは買わなかったけれど、この程度の風刺なら楽しく読めるかも。

チュニジアでテロがあって日本人も犠牲になったし、副操縦士が150人を乗せた飛行機を山に激突させて、悲惨な事故が続いた3月。人の心が病んでいる。そんな中でチュニジアの日本大使館の対応が少し心を休ませてくれた。
怪我をした日本人に押しかける報道陣を、「日本人を守るのが私たちの仕事です」ときっぱり言って取材を断った大使館員。そして、亡くなった方の遺体輸送に関する詳細もチュニジア大使館は「家族の意向で発表しない」とキッパリ。こういう大使館員がいることが嬉しかった。報道も大切かもしれないけれど、傷ついた人の心を守るのはもっと大切だと思う。
フランスに来て気がついたこと、それは被害者の名前を公表しないことだった。日本から来たばかりの頃は、事故や事件で犠牲者が出ても名前を一切公表しないことに疑問を持っていた。知り合いが巻き込まれているかもしれないのにと。理由を聞いたら、二次災害を防ぐためという。つまり、被害者の知人になりすました詐欺を防ぐことや被害者を守るためだと。それに慣れてしまうと、日本のテレビやラジオで、被害者の名前を堂々と出していることに疑問を感じるようになった。好んで事件に巻き込まれたわけでもないし、事件で精神的にズタズタなのに、報道陣に追いかけられて面白おかしく誇張してメディアに流される。日本の場合は近所の目というのもあるから、さぞかし辛いだろうと思う。
報道の行き過ぎはフランスでも問題になっていて、スーパーで人質を取っている犯人に直接携帯電話でインタビューしたとか、中の人質からの情報をメディアで流してしまったりして、警察のせっかくの救出作戦も失敗に終わる可能性があったと非難されていた。スーパーの保管室に隠れていた元人質たちが、命を危険にさらしたとしてメディアを訴えたのは当然だ。テレビやインターネットが発達して、情報ばかりが一人歩き。その陰で人の心は置いてきぼりにされているような気がしてならない。

山田マミ プロフィール

幼少よりダンスを始め、80年代はアメリカに没頭するが、今は亡きダンス・ア・エックスでローザスの「オットーネ・オットーネ」を観て、ヨーロッパの歴史の深さに圧倒され、フランスに移住。しかし、言葉の壁に阻まれ、英語圏への脱出を計画。ところがその矢先、腹ぺこで歩いていた私に「ヴォワラ、マドモアゼル」と林檎を差し出してくれたおじさん。レストランに仕入れる林檎が1個足りなくなってもいいのかしらと心配しつつも感動!もしかしたらフランス人ってすっごく優しいかも?脱出計画は一挙に吹っ飛び、フランス定住を即決める。住んでみたら奥が深いフランス生活。1年が2年になり、、、あっという間に13年。住めば都のフランスはパリで、納豆と豆腐を食べ、中華街でベトナム麺をすすり、日曜日はマルシェで季節の野菜と魚を買い、時に日本のカボチャを育て、楽しく過ごしております。

 
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