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(2012.7/5 update)

平多宏之 Garden vol.23

イキイキと輝いて、踊る喜び、楽しさを伝えるのは高い水準の表現力と技術を持つ子供たち。
”かやの木芸術舞踊学園”は常に観客の心をとらえる作品を発表し続けている。その学園長として舞踊界を牽引する平多宏之氏に児童舞踊の魅力を聞いた。

名作「あららぎは谷を越えてゆく」誕生裏話

中津川に戻って10年目からそれらしきものをつくっていました。たまたま中津川で和太鼓を作っているところがあって、子供たちと和太鼓の、世界にないミュージカルを創ろうと思い立った。みんなに相談すると女の子に太鼓を打たせるなんてと反対されるのわかっているから、だまって太鼓を注文した(笑)。
30年前です。家内がいない時をねらって呼んだ太鼓屋さんがびっくりして、こんなにお金大丈夫ですか?(笑) 計算すると1千何十万。稽古場に太鼓が積み上がってから、太鼓教えてくれる人いますかと太鼓屋さんに聞いたらまたあきれられて。太鼓やる人は一杯いるけどその音色になっちゃうから、楽譜がなくて記号で表すものだから、自分でやればいいと勧められました。

それで先生が教えて。

カセットにドンドドンドドンドド、カーッと、それを記号に起こして子供たちに。子供たちは記号を書きながら、先生こんなの覚えられんよ、って。こちらは、あんたたちこの太鼓をどうするんよと半分脅しながら(笑)。ほんとに今でも忘れられない。次の週に一人の女の子が覚えてきた。一人の時はみんな安心しているんですが、次の週に6人覚えてきました。子供達が慌て始めて三週目で全員覚えてきた。それからは早い、できるとなったらどんどん進む。それで1時間の作品「響き」が生まれました。

そして大作へと発展していくのですね。

ある時、吉永淳一先生に、実は私は太鼓のあるミュージカルを、それも子供たちから大人たちに訴えかけていく作品をつくりたいと相談した。変わったアイデアですね、ちょっと考えさせてと言う吉永先生から1週間もたたないうちに電話がきて「木曽の檜が定着するまでの地元に伝わる苦労話をミュージカルにしましょう」。それで郷土史や郷土芸能の研究家の先生を訪ねたら、木曽の檜を定着させたのは木曽人ではなくて尾張の人。だから夏は暑いから足袋とあわせを添えて送ろうよというのは、尾張から歌われて木曽に定着したのだと。
私は木曽に生まれて木曽のことを全然知りませんでした。
檜笠の前というのがあることを教えてもらった。実は今は檜で作っているけれど、昔は檜を使ったら首が飛んだから代わりに一位の木で笠を作っていた。
飛騨の旅人があららぎに来て体を壊して助けてもらったお礼に一位笠の編み方を教えたという。
その飛騨で育った一位の木とはあららぎのことだと。その足であららぎに上がっていっておばあさんたちに聞くと、笠の編み方を教えてもらって、それが産業になり、時代が変わって檜笠になったということでした。これをもとに子供達が演じたのが「あららぎは谷を越えてゆく」なんです。



 

国内外で反響を呼んだ作品ですね。

飛騨で山津波にあって両親をなくした女の子があららぎの親戚にもらわれてきた。そこで子供から大人たちから村八分にあっていじめられる。でも女の子は村に入っていこう、入っていこうとします。やがてその子は一位笠の編み方を子供たちに教え、村の子供たちは太鼓の打ち方を教える。
これはおおまかなストーリーですが、子供達が大人より先に友情を育み、ものを創り出していく。どの時代にも合うテーマだと思っています。

子供達から友情や勇気を発信することは、まさに立ち直りが求められている今にふさわしいですね。長年、大勢のお子さんを見ていらしてご苦労はおありですか。

苦労というか、いつも思うのは、コンクールでも公演でもこの舞台で子供たちがどういう発見をしてくれるかなということですね。私は、やるんだったら理解できる、感動できる、それがないなら無に等しいということを平多正於から学びました。何にも感じないものを子供に踊らせてどうするのか。子供達もわかってて喜んでやる、見てる人達もそれに感動する。
親御さんにも子供たちにもよく言うのは、向かう人生は楽しい、逃げる人生は苦しい。
だから逃げちゃだめ。前向きに前向きに向かっていこうよ、と。舞踊家だから、ただ振り付けて踊らせればいい、ではなく、ほんとのコミュニケーションを大事にしていきたいと思うんです。

 

東日本大震災復興支援公演
太鼓のあるミュージカル 連作 童んべたちの声 第一作 『あららぎは谷を越えてゆく』

[日時]2012年8月17日(金) AM11:30開演/PM15:30開演
[会場]こどもの城 青山劇場
[チケット料金]指定席8000円/自由席6000円