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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.74:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.74

2007.2/21
 
厳しい状況のなかで頑張る人たち
ー各地のケース、2月名古屋編ー

 
 
●名古屋での2つの公演のもつ意味
 前回に述べたように、ここしばらく、東京以外の各地の状況について取り上げたいと思います。公演が中心になりますが、たんなる公演評でなく、そのもつ意味、周囲への影響などについて考えます。前回は1月の京都と大阪についてちょっと触れましたが、今回は2月の名古屋の状況です。2月は仙台と名古屋でコンクールの審査があったり、東京でも文化庁と社団法人全国公立文化施設協会が主催したアートマネジメント・セミナーで近藤良平さんや伊藤友季子さんなどを招いて解説・演技つきワークショップというのをやったり、結構忙しいのですが、月前半に2度名古屋で公演を見てきました。
 名古屋は舞踊、とくにバレエが盛んということは、よく知られています。3月にもいろいろな催しがあり、そこにも、東京にはないユニークなものがあるのですが、それはまた別の機会に譲って、ここでは2月の公演をとりあげます。その一つは2日に愛知芸術劇場で行われた愛知芸術文化センターが主催した「トリプル・ガラ」。もうひとつは11日に名古屋市芸術創造センターでのバレエグループあすなろの公演です。この2つはいろいろな面で対象的です。まず前者は県立の施設の主催で、十分とは言えないまでも、ある程度予算と期間、そして場所に恵まれています。後者は2つの民間の中堅団体が力を合わせて行う、手作りともいえるものですが、もう創立14年、隔年で7回目の公演です。

●地元をまとめるということ、「トリプル・ガラ」
 「トリプル・ガラ」は、[あいちダンスの饗宴]というタイトルのもとに行われました。この公演は2003年から始まった「あいちダンス・フェスティバル」に続くものです。このフェスティバルは05年まで毎年1回、計3回行われました。今回が第4回になっていないのは、これは私の解釈ですが、いろいろと予算の関係があり、新しい謳い文句が必要だからだと思います。実際は基本的に変わっていず、実質的には第4回「あいちダンス・フェスティバル」です。すなわち、愛知舞踊界の紹介とそのレベルアップ、振興という目的であり、まず定評ある振付家の中規模作品、名古屋の深川秀夫さんの『ガーシュイン・モナムール』を取り上げ、出演者はオーディションで選抜しています。続く地元の優れたダンサーの紹介では、メダリストたちの饗宴として、ローザンヌの荒井祐子さん、ジャクソンの米沢唯さんがグラン・パ・ド・ドゥ、名古屋のコンクールのジュニア入賞者(山下実可さん、岩越梨紗さん)がヴァリエーションを踊っています。ここ独自の企画である[ダンス・オペラ]『ハムレット~幻鏡のオフィーリア』では、振付・出演の平山素子さん、そして台本、音楽家の一部が名古屋出身、あるいは在住ですが、その他は広く集めています。出演者としては西島千博さん、山崎広太さん、そして演劇の毬谷友子さん、作曲・指揮は笠松泰洋さんなど。
 これだけの企画をベースとなる団体や芸術監督を持たずに実現するのは大変困難なことです。これを続けることができたのは、このセンターの舞踊学芸員、唐津絵理さんの努力によるところが大きいです。とくに地元を主体に、というのは大事なことであり、当然のことなのですが、じつはこれがかえって難しいのです。名古屋に限りませんが、地元の舞踊界とまんべんなく付き合うというのは、たとえば日本バレエ協会といった全国を網羅する社団法人でも大変なのに、県立とはいえ、一つの劇場では至難の技といってよいと思います。彼女も随分苦労したのではないでしょうか。
 私もバレエ協会の各支部で一致団結してほしいと言いつづけているのですが、利害の不一致もあり、なかなか実現しません。このままでは、各地域では生徒や出演者、とくに女性が負担して舞台をつくるという、発表会からいつまでたっても脱却できないと思うのです。ぜひ日本各地で、それぞれ総力をあげて地域をまきこみ、立派な公演をやってほしいのです。
 [あいちダンスの饗宴]の場合は、お金は県からで出演者の負担はないにしても、多分結果は厳しく評価されると思いますし、地元の舞踊界との関係にも神経を使わないといけませんから、主催する方は大変でしょう。率直にいって今回の舞台からはその苦労がにじみでていました。唐津さんとしては、地元との関係も、ダンスオペラの制作も、もっと思い切ってやりたいことができたらなあ、と思っているのではないでしょうか。でも、これだけでも現在の環境条件のもとでは十分なでき。これからもぜひ頑張ってください。

●才能ある舞踊作家に発表の場を、「あすなろ」公演
 バレエグループ「あすなろ」の方は、基本的な問題は同じとしても、現れた形は大分違います。ここは古典と創作を上演するのが通例となっています。今回からは岡田純奈と川口節子さんの2人で運営、岡田さんがクラシックの『パキータ』、川口さんが創作の『サロメ』、そしてお二人のお嬢さん(岡田真千代さん、太田一葉さん)が、「若い芽のコンサート」として小品を発表しています。この公演も(トリプル・ビル)といえなくもありません。若い2人も岡田さんがクラシック、太田さん(川口さんのお嬢さん)がコンテンポラリーと、親とおなじ傾向をもっていますが、それぞれひとひねりしています。
 『パキータ』は桐村真里さん、大寺資二さんのベテランを中心によくまとまっており、若いソリストたちのなかにも有望なものが見えました。
 川口さんの『サロメ』は、若いが頑張った安藤可織さんのサロメ、適役のウィルフリッツ・ヤコブスさんの予言者ヨカナーン、そしてヘロデ王、ヘロディアスに大寺さん、鈴木和佳枝さんという配役。川口さんももともとはクラシック(現実に『くるみ割り人形』などを上演)なのですが、創作となるとまったく異なった独特の手法で、とくにドラマティックな作品には素晴らしい能力を発揮します。この『サロメ』も斬首やヴェールの踊りなどユニークな発想で見応えのある作品となっていました。
 ここでの問題は、才能ある振付者にその力を発揮する場がどれだけあるかということです。たしかに、日本にもあちこちから振付を依頼される舞踊家は何人もいます。たとえば、上に記した深川さんもそうですし、石井潤さん、望月則彦さん、最近では坂本登喜彦さん、篠原聖一さんなどにも全国から作品の依頼がきています。しかし、新顔ではなかなか難しいし、とくになぜか女性は、たとえば、佐多達枝さん、小川亜矢子さん、松崎すみ子さん、後藤早智子さんなど、優れた舞踊作家は多いのに、その能力にふさわしい作品発表の場がもちえていません。東京でもそうですが、どうしても創作にはお客が集まらず、上記した人たちも、依頼は発表会や合同公演レベルの会(ある程度客席は埋まる)が多いのです。見た人は大変に楽しんでいるのですが、創作はよほどでないと公演として一般にチケットを売るのが難しいのです。
 川口さんの作品も見ればその良さは分かるのですが、残念ながらダンサーとしても名前が知られていないし、受賞歴もない、合同公演などでも集客力もない、残念ながらないないづくしになってしまいます。その点、岡田さんは川口さんの力を評価し、創作の場を与えているのは立派だと思います。川口さんのような人にも場を与えてみようという人や団体が現れるといいのですが。

 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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