少女のような雰囲気と大人の気品を漂わせる青山季可。
舞台で大輪の華を咲かせる彼女は今、プリンシパルとして牧阿佐美バレヱ団をリードする。
Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi
続けられたのはバレエが楽しかったから
まず、第32回服部智恵子賞の受賞おめでとうございます。
ありがとうございます。先生方、ダンサーやスタッフの方々、バレエ団を応援してくださっている皆さまのおかげだと思っています。今年は牧阿佐美バレヱ団が創立60周年で、ずっとお世話になってきたのでご恩返しができたような気がしています。私は服部先生にお目にかかったことはないのですが、牧先生のご本にも、服部先生がいかにバレエのためにご尽力されたかということが書かれています。島田廣先生の舞台には私が小さい頃にも出演させていただきました。これまで大先輩の方々が受賞なさっている賞をいただくことができ、大変光栄に思っています。
もともとバレエは大阪で始められたんですね。
3歳から川上恵子先生のところで始めました。ありきたりなんですけど体が弱くて。今もたいして丈夫にはなっていないんですけど(笑)。最初はスイミング・スクールに通ったんです。水泳が苦手で泳げなくて。今でも泳げないんですけど(笑)。スイミングの向かい側にバレエスタジオがあってそこに母が連れて行ってくれました。
バレエを続けてこられたのは、好きとか、楽しさを感じたから?
やっぱり楽しかったんだと思います。
東京新聞の全国舞踊コンクールでも賞を獲得して天才少女と評判になりましたね。
出てみない?といわれて出場しました。私、たくさんコンクールに出ている印象を持たれているかと思うんですけど、実は東京新聞第二部(8才から13歳までの部門:筆者注)に3回しか出ていないんです
やはり目立ったからでしょうね。コンクールも今ほど多くなくて、そういうなかで踊りましたものね。身体の成長期、精神的には思春期なども経ながら踊っていらして、やめたいと思ったことはありましたか?
たぶんやめたいと思ったことはなかったと思います。でも初めて海外留学でロイヤル・バレエスクールに行った時は、もちろん顔の大きさとか身体の違いを感じたりして悩まなかったと言ったらうそになりますね。それと私は偏平足なので苦労もしました。足の矯正をされたり、ロイヤルにはフィジオみたいな先生がいらっしゃるので、インソールを入れて土踏まずの感覚を鍛えたりとか。あちらの方はみんな筋肉が強いし、訓練方法が違いました。
ドラマのあるバレエに惹かれて
日本だと中学生の頃になりますから、大変でしたね。
ロイヤル・バレエはドラマを大切にしているところが素晴らしくて、作品では「マイヤーリング」が一番好きです。ハプスブルグ家の実話をもとにしたお話ですが、とても惹かれました。いつか留学をしたいと思っていたら、牧先生のご紹介でデイム・メール・パークが、私の踊りを見てくださってイギリスに行くことが決まりました。コンテンポラリーの経験がなかったので勉強したいと思って。
留学中に最も苦労したことは何ですか?
精神的にも幼かったから、逆にみんなに助けられて。(笑)ホワイト・ロッジでの寮生活では、いじめにあうこともありませんでした。3年いましたが、中2になりたてで行ったので13歳のうちに行ったことになります。だから学校の勉強とか何にもわからなくて、落ちこぼれていました(笑)。
勉強とバレエ・レッスンと両方ですからほんとに大変。ところでロイヤルに行く前から、自分はバレエの世界でやっていきたいと思っていましたか?
漠然とは。でも向こうの少女たちが思っているようなシビアな感覚では常になかったと思うんですね。ホワイト・ロッジではイギリス人ばかりで、途中からウェールズとか南アからも来ていました。向こうはやはり、早くから仕事を探しに行くという感じで、強い目的意識を持っていましたね。
青山季可 Kika Aoyama
●出身地/大阪府 ●出身スクール/ 川上恵子バレエ研究所 第18期AMステューデンツ、橘バレヱ学校 英国ロイヤルバレエスクール卒業 ジョン・ノイマイヤー・ハンブルクバレエスクール卒業 ●おもな出演作品 「白鳥の湖」オデット姫/オディール 「眠れる森の美女」オーロラ姫 「くるみ割り人形」金平糖の精 「ドン・キホーテ」キトリ 「ジゼル」ジゼル 「ライモンダ」ライモンダ 「ラ・シルフィード」シルフ 「ロメオとジュリエット」ジュリエット F.アシュトン「リーズの結婚 ~ラ・フィーユ・マル・ガルデ~」リーズ 「三銃士」 コンスタンス など多数主演 「くるみ割り人形」クララ(10歳) 「ドン・キホーテ」キューピット(11歳) ●その他おもな経歴 東京新聞全国舞踊コンクール・バレエ第2部1位(’93) NHKバレエの饗宴2012 出演 平成24年度中川鋭之助賞(2012) |
(2016.8.1 update)
少女のような雰囲気と大人の気品を漂わせる青山季可。
舞台で大輪の華を咲かせる彼女は今、プリンシパルとして牧阿佐美バレヱ団をリードする。
Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi
ノイマイヤー作品に出演
ハンブルク・バレエ学校へも留学したのですね。
ハンブルグ・バレエの来日公演で出演させていただいたのが、ノイマイヤー版の「幻想~『白鳥の湖のように』」で。橘バレエ学校やAMスチューデンツを中心に集められた生徒たちで、なかには服部有吉君もいました。ルートヴィヒが好きになって、あとで彼に関する本など沢山読みましたが、その時は何も知りませんでした。でも引き込まれるものがあったんですね。私たちが出たのは一幕のパーティ・シーンだけなんですけど、ほんとに楽しかった。みんな舞台上でサンドイッチ食べたりブランコに乗ったり、そういう演出だったんです。
ルートヴィヒがきかっけでハンブルク・バレエスクールを目指したわけですね。
はい。私のいたシアター・クラスはドイツ人が一人もいなくて、私もドイツ語が話せなくて。ノイマイヤーについては日曜日に彼の作品から抜き出した部分を舞台で見たり、マッツ・エック作品を学んだり、40分間、曲をかけっぱなしでインプロビゼーションをやったり、つらかったですよぉ(笑)。でも振り返ると、楽しかったといえば楽しかったですね。治安も良く、学生だから安い席でいろいろ見たりもできましたから。
意地悪だったり出世欲が強すぎたりは、バレエの世界では続かない
お国柄とか取り組み方の違いから壁を感じたりしたことはなかったんですか?季可さんはシャイだけど警戒心はそんなに強くないのかしら?
でもダメだと思ったらダメなんですけど、仲よくなると長続きできる。私は、あまり筆まめじゃないので連絡をあまりしないんですけど、友達も慣れたみたいで(笑)。気持ちが穏やかな友人達だから長持ちしているのかな。この前来日したロイヤル・バレエにも学校時代からの友達がいます。価値観はある程度違うかもしれませんが、私の友達は、しっかりはしていても人を押しのけてまでという人はいない。意地悪だったり出世欲ばかり強すぎたりするとバレエの世界では続かないと思う。舞台はみんなでつくるものですから。
十代の少女がある時期、集中的に外国で踊りを学ぶわけですから、これはなかなか周囲の大人も心配されたかもしれませんね。
親もよく許してくれたと思います。私は精神的にそんなにタフでもなかったし、幼くもあったかもしれない。でも行ってみると、空気からして違いますから、そこにいるだけで総合的にみてバレエだけじゃない、芸術の世界に視野を広げることができました。
全幕のおもしろさを知った舞台
クラシックのテクニックについてはいかがですか?
私はあまり器用なほうではないのですが、小さい時にある程度、技術を身につけておいたことは、今になってみると良かったと思います。私の行った外国のバレエスクールだとテクニックはどちらかというと後回しなので、なかなか身につかなかったりするんです。
牧先生は、日本人の体形は外国の方に比べると薄いので、いかにそれを閉じて立体的に見せるかということをおっしゃっています。牧阿佐美バレエ団に入って、ゆっくり根気よく先生がたが教えてくださり、細かいことをいろいろ学びました。
牧阿佐美バレヱ団では、今、季可さんはプリンシパルとしてバレエ団を率いる立場ですね。何が季可さんをバレエ団で踊らせていると思いますか?
やっぱりバレエ団の公演に子役の頃から何度も出させていただいて、草刈民代さんとか佐々木想美さん、小嶋直也さんたちがいらした黄金時代と言われる時代にクララの役などで出演しながら先輩方の踊りを見せていただきました。そこで初めて全幕バレエの面白さというものに触れて、このバレエ団で踊りたいという思いが生まれたのだと思います。
今、世界的には全幕物の上演が減っていますが、日本では牧阿佐美バレエ団をはじめ民間のカンパニーが頑張って上演しています。
たとえばドイツではカンパニーは多いけれど、コンテンポラリーが増えていますね。牧バレヱ団では、装置も牧先生が絶対これでなくてはと安易に妥協しないで作ってくださったおかげで、舞台に格調がありますし、「眠れる森の美女」も「白鳥の湖」も素晴らしくて、出演者としては幸せです。
古典を重視しながら、現代バレエも制作して、レパートリーの豊かさもあります。ところで牧先生の言葉で、忘れられないことはありますか。
牧先生はいつも、常に身体を楽器だと思いなさいとおっしゃっています。自分の内面は常に踊りに出るから気をつけなさい、人としてどうあるべきかを考えるように、と。そして、そのことを先生方も身を挺して教えて下さっています。
協力:Lepi Dor 田園調布
東京都大田区田園調布3-24-14
TEL:03-3722-0141
http://www.lepi-dor.co.jp/
(2016.8.1 update)
少女のような雰囲気と大人の気品を漂わせる青山季可。
舞台で大輪の華を咲かせる彼女は今、プリンシパルとして牧阿佐美バレヱ団をリードする。
Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi
60周年記念公演「飛鳥ASUKA」
さて8月には牧阿佐美バレヱ団60周年記念公演として「飛鳥ASUKA」が上演されます。橘秋子先生が1957年に初演された「飛鳥物語」を牧阿佐美先生が改訂・振付した現代版だそうですが、これに季可さんも出演されるんですね。
美術も絹谷幸二先生によって新しくなって、指揮は私たちにとってなじみ深いデヴィッド・ガルフォース先生。カナダ・ナショナル・バレエからルンキナさん、ボリショイからスクヴォルツォフさんもゲスト出演します。日本的な壮大な世界を描いていて、日本とは切り離せない竜の世界が繰り広げられる第2幕では、私は金の竜の役。5色の竜たちがそれぞれヴァリエーションを踊ります。視覚的にも音楽的にも新鮮な驚きとおもしろさがあると思います。私自身、この作品を初めて踊るのを楽しみにしています。
舞台に完成はない
体調維持の為に気をつけていることはありますか?
疲れたり無理をしたりするとリンパが腫れたりするので、やはり栄養バランスに気を付けています。食べないと消耗するので。海外にいた10代の頃は食べ物が美味しくなくてお菓子を食べて太ったりしていました。休みの日で、出かけない時は身体を休めて本を読んだり音楽を聴いたりして過ごすのが好きです。
観客に夢をもたらすことができるダンサーの仕事って素敵ですね。最後に、どんなダンサーでありたいと思いますか?
舞台はこれで完成ということがありません。年を重ねて経験を積んでくると同じ作品でも新しい発見があります。「ジゼル」をシングル・キャストで踊った時、牧先生から集中指導を受けることができました。たとえば、実際に舞台に身をおいた時に、手をさし出すスピードでさえも客席の印象は変わってくるんですね。
踊っていると表現についていろいろ悩むこともありますが、いい仕事につけてよかったと思います。これからも少しでも人の心の琴線にふれられるように、こちらも真摯に取り組んでいきたいと思います。
こだわりの品
ちょっと前にブライアン・ウイルソンのコンサートに行きました。これは彼の書いた本です。ビーチボーイズで活躍した人だからコンサートにも年配の方が大勢来ていました。病気などでしばらく表舞台から遠ざかってもいましたが、彼の脳内を知りたくてこの本を読んだのですが想像どおりそうとうに繊細な人だというのがわかりました。村上春樹と小沢征爾の対談も音楽の世界が広がりますしクラシック音楽でもバレエを踊るための演奏と、演奏のための演奏があると思うのでカラヤンとかバーンスタインの指揮した曲も聞いたりします。今日は持ってこなかったけれどイギリスに行っていた関係でビートルズもストーンズも好きです。ちょうど私はオアシスの世代ですが、イーグルスみたいなロックもキース・ジャレットみたいなジャズも好きなんです。
牧阿佐美バレヱ団創立60周年記念公演-Ⅶ
新制作/世界初演 飛鳥 ASUKA
主演:スヴェトラーナ・ルンキナ ルスラン・スクヴォルツォフ 菊地 研
日時:2016年8月27日(土)18:00・28日(日)14:00
会場:新国立劇場オペラパレス
チケット料金:S席14,000円、A席12,000円、B席8,000円、C席6,000円、D席3,000円
チケット発売 :
楽天チケット http://ticket.rakuten.co.jp/features/maki
チケットぴあ http://t.pia.jp/
牧阿佐美バレヱ団
オフィシャルチケット https://ambt.tstar.jp/cart/events/7319
お問合せ 03-3360-8251(平日10:00~18:00)
主 催:一般財団法人 牧阿佐美バレヱ団
舞踊評論家 横浜市出身。早稲田大学卒業後、コピーライター、プランナーとして各種広告制作に関わる。そのかたわら大好きな劇場通いをし、’80年代から新聞、雑誌、舞踊専門誌、音楽専門誌などにインタビュー、解説、批評などを寄稿している。