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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.8:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.8

2003.12/24
「アーツマネジメントのゼミをやっています
-最終イベントは劇場ツアーコンダクター-」

 今回は少し個人的なことをお話しようと思います。もちろん、いつもそうだといえばそうなのですが、私の勤務する学校(松蔭女子大学)のゼミについてです。
 5年ほどまえに、ここに移ったのですが、それはここが経営文化学部を設置したからです。経営文化の文化概念は、文化人類学における文化であって、いわゆる芸術文化そのものではありません。つまり、経営文化は企業という集団における文化を、経営という視点から取り扱うものです。私自身はこれについてはもう20年近く研究を続け、論文も10本以上発表しました。もともとの専門は経営学で、経営、管理、戦略、人事などについては20冊以上著書をだしています。眉唾と思う人は冷やかしでインターネットで私の名前を検索してみて下さい。本名は市川ですが、うらわでも分かります。
 私はこの大学では経営文化と企業文化を教えていますが、2年前に『アーツマネジメント』をテーマとしたゼミを開講しました。
 これは初めは冒険でした。というのは、他の芸術系の大学と違って、芸術関連科目は全然無く、週に1コマ(90分)だけの演習で、アーツマネジメントを身に付けさせるのは大変なことだからです。アーツ(アート)マネジメントは現在こそいろいろな大学や、社会人教育に取り上げられていますが、まだ定まったカリキュラムはありません。アーツマネジメントを日本語にすれば「芸術経営学」。単純にいえば、良い芸術を効果的に創造し、提供するための思考と手法、そしてシステムの研究です。
 このためには、「良い」とはなにかを含めて、芸術、これには総論と各論があり、その創造課程について理解すること、それを発表、提供する方法・手段について理解すること、つまり芸術の生産販売、そしてそれを効率的に実現するための手法。すなわち経営管理について理解することが必要なのです。こんなこと、短期間では絶対無理です。それで、私の場合には、舞踊を基本に、音楽、演劇など舞台芸術全般、劇場の知識、そしてその提供プロセス、すなわち公演、上演の実務を、ビデオと、見学、実習を併用して知識と関心を深め、まず「良き観賞者」となることを目的としました。そして、国の芸術政策、さらに社会的な芸術サポート(メセナ)の考え方や実態なども研究対象としました。
 さて、ゼミはどう進んだでしょうか。ゼミは2年間ですから、もう終わりに近づいています。この約2年間の状況についてご報告します。
 ゼミ生は7人。小さいときにバレエとピアノをちょっと習ったのが1人づつ、あとはほとんど芸術には触れてきていない連中。ゼミの履修面接のときに、座学よりも学外実習、論文よりも卒業研修に重点を置くというのに引かれたのかもしれません。
 学期スタートは4月なのに、いきなり2月に全国公文協のアートマネジメントセミナーに出席するように、さらに、教室での顔合わせ後すぐ、4月下旬のバレエコンクールを見学するようにと指示しました。どちらも私が関わっていたのです。全員ではありませんが、それぞれ2~3人は顔を出していました。
 ビデオもバレエ、モダン、コンテンポラリー、ブトー、フラメンコ、そしてシンフォニー、オペラ、演劇も2種類を鑑賞。さらにバックステージツアーやワークショップ、バレエの基礎などのビデオも使いました。教室の講義時間は90分ですから、こま切れにならざるをえません。ゼミ生も多分最初はただ見ているだけ、その本質や違いなどはチンプンカンプンという感じだったと思います。
 劇場論も少しやりましたが、効果があったのは夏休みの私が関係した公演の本番前の劇場見学です。ここで楽屋やスタッフたちの仕事振り、そしてゲネプロも見学することができました。そして秋には、私の母校慶応のアートプロデュース研究会が主催したバレエ公演の鑑賞と、打ち上げの手伝い。次の2月にまた全国公文協のアートマネセミナーへの参加。3月には地元厚木で松山バレエ団が文化庁派遣(本物の舞台芸術体験事業)で『白鳥の湖』を上演、この鑑賞で1年目が終りました。
 この辺までは、教室、学外とも全員参加はほとんどありませんでした。たしかに3年生、就職活動も大変だったのです。この学校のゼミは3年でやめてもその単位は取れるのです。何人かはここで落ちるかと思ったのですが、なんと全員が続けますとのこと。
 2年目も前半は教室での講義とビデオ。でも昨年の体験から、舞台用語なども大分実感と興味が出てきたようでした。
 夏休みには山梨県清里のフィールド・バレエ鑑賞をメインとした合宿研修。なんと全員参加。ここでは表や裏の手伝いをするということで、夕食つきで見せてもらう了解をもらっていたのですが、残念ながら大雨で大分待った上、結局中止。それでスタジオでのレッスン見学と懇談に切り替えました。その後、地ビールで有名なレストランで会食。結構楽しかったんじゃないかな。
 後期はまず文化祭(松蔭祭)参加。舞台で発表するというわけではなく、模擬店でトン汁販売。私の変態顔を背中に印刷したパーカーを作ったり(前年はエプロン)、ポスターを貼りまくったりで、妙な盛り上がりがありました。これはアーツマネジメントには直接関係はありませんが、ゼミの一体感醸成には効果があるのです。しいていえばトン汁生産販売のマネジメント、宣伝にお金をかけ過ぎて利益は出ませんでしたが、周囲の評判と存在感はなかなかのものだったようです。
 さて、最大のイベントは、卒業実習としてのバックステージツアーのコンダクター(ガイド)です。これは11月中旬の日曜日に伊与田バレエスタジオが主催した、よこすか芸術劇場での『楽しいバレエのお話』(第2回)という、解説つき公演の一部。ちゃんと公募したお客さんに対しての劇場案内ですから、学生の実習だからという甘えは許されないのです。
 11月に入って教室でツアー全体の流れ、用語の使い方、説明のポイントなどを準備、予習、そして前日には現場でリハーサル。3人一組で30人ほどの参加者に対して約90分にわたる案内です。狭いところ、本番前のごったがえし、一方でピリピリしているところですから、3人でもスムースに仕切るのは大変です。ゼミ生7名が二組に分かれ、1人は別の役(出演者=私の世話係)です。正直、ちゃんとやれるか心配でした。しかし、前日のリハーサルは繰り返し行い、当日本番前にも再チェックするなど、結構真剣に取り組んでいてなかなかのもの。彼女らのイメージを変えました。ツアー本番もそこそこ上手くいったようです。座学より実習重視のゼミとしてはこれが最後、あとは簡単なレポートで終わりです。
 いろいろと内輪なことを書いてきました。ゼミの報告じゃないかといわれればそれまでなのですが、アーツマネジメント研修、あるいは舞台芸術理解の一つの形として見ていただき、参考になるかどうか、あるいはご批判などをいただければ、と思います。

 
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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