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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.13:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.13
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「大成功の[あいちダンス・フェスティバル] |
ーこれをさらに舞踊界の発展にー」
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先般、愛知芸術文化センターの主催で、名古屋の有力バレエ団が一堂に会した舞踊公演が行われました(2月28日)。この、あいちダンス・フェスティバル「ダンス・クロニクル(舞踊年代記)~それぞれの白鳥~」の内容や意味を紹介する前に、日本のバレエ事情を確認しておきたいと思います。
社会と芸術の関係、もう少し具体的には、劇場と芸術家、そして観客の関係が、舞踊に限らず舞台芸術の分野では、わが国が欧米やアジアの状況とは大分異なっていることは、このページでもしばしば述べているところです。欧米では、劇場の施設と芸術の創作、提供、さらに芸術家の育成活動が一体化しています。一般にオペラハウスといわれているものがそれです。欧州では、それが国や州、市といった公的な基礎の上で行われているのに対して、米国では、民間の分野での活動が中心です。しかし、その場合でも地域社会全体として芸術を育て、楽しもうという意識は強く、それらの関係やシステムはしっかりと築かれているのです。もちろん、本拠をもたないフリーの団体や芸術家も、専属芸術家を持たない劇場もあります。ただ、それらは主流ではありません。
それに対してわが国では、きわめて僅かの例外はありますが、劇場はたんなる容れ物です。話をバレエに戻して、その先生の基本的なスタイルはまず民間の個人教室があって、その教師と出身者、在校者によって発表会が行われ、それがバレエ団になるのです。そうなると教室は大規模な学校になったり、他の教室で育った優れたダンサーを入団させたりして組織として発展します。ただし本拠となる劇場はなく、公演活動は場所を借りてみずからの負担で行うのです。バレエ団と名のっていても、団員数十名、学校の生徒千名を越える大手から、子飼いのダンサーは僅かで、ゲストを主体に公演を行うプロデュースシステムに近いもの、また出演者の多くが生徒で発表会に近いものまでまちまちですが、それらの数は大変なものです。大手に系列化されているものもありますが、いわゆる教室の実数は、推定ですが数千から一万に及ぶともいわれています。こうであれば、習っているものは数十万から百万人に達するかもしれません。
公的、民間の助成は欧米ほど多くないし、すべての団体に行き渡るわけではなく、十分な価格で買ってくれる興行師もいませんから、ほとんどの公演、発表会は赤字です。それをカバーするのが、生徒の払う授業料であり、出演者の負担するチケット代です。したがってそう頻繁に会を開くわけにはいきません。実は戦後初の東京バレエ団はダンサーが集結して生まれたのですが、それが分解してしまったのが今日の状況につながっているのです。これも面白いテーマですが、ここでは取り上げません。
このような状況ですから、絶対数が少ない男性ダンサーはともかく、女性は相当の力をもっていてもなかなか舞台に恵まれませんし、教室の主催者も発表会を開くのが苦しくなります。そのため(だけではありませんが)、バレエ連盟、舞踊協会、協議会といった地区単位の横断的な組織が結成され、参加団体や個人の合同公演がしばしば行われています。その最大のものが、社団法人日本バレエ協会です。
さて、この辺りから本題に近付くのですが、バレエ分野では日本バレエ協会など個人参加の組織は別として、団体単位の合同公演はほとんど行われません。せいぜい大手4団体による東京バレエ協議会が都民芸術フェスティバルで共演したことがあるていどです。
この意味で、さきほどのあいちダンス・フェスティバルは大きな特徴をもっています。まず名古屋地区の大手バレエ団のほとんどが参加したことです。越智インターナショナル、松岡伶子、佐々智恵子、松本道子、塚本洋子、市川せつ子各バレエ団。あと定期的に公演を開いているところがいくつかありますが、バレエが盛んでレベルも高い名古屋地区のほぼ全貌が見られたといっても過言ではないでしょう。しかも、たんにそれぞれが得意な作品を並べたのでなく、基本的なテーマをもとに作品が選定されたのです。それがダンス’クロニクルであり、スタンダード、創作4種類の白鳥の登場です。
これが実現できたのは、主催が愛知芸術文化センターであり、会場が愛知芸術劇場であったためであることはたしかです。県の組織であり、予算であったことは大きな理由です。これが合同組織であったり、一団体が言い出したのではまずここまでできないでしょう。しかし、たんに集まっただけでなく、これだけの内容の企画が実現したのは、担当者、すなわちここのダンス専門の学芸員である唐津絵里さんの存在がきわめて大きかったことは明らかです。『ラ・シルフィード』にはじまり、特別ゲストの上野水香さんの踊るローラン・プチさんの『シャプリエ・ダンス』に終わる変遷史、さらに意欲的なユーリ・ンさんの『悪魔の物語』をダンス・オペラとして発表したプログラムは、彼女なくしてありえなかったと思います。これが東京や大阪でできるか、それは予算の問題でなくいろいろな面からまず不可能です。いずれにしろその苦労は大変なものだったでしょうが、舞踊界の快挙であったことは間違いありません。
しかも、この第二弾、第三弾を打とうとしている。ぜひ成功させてほしいと願っていますが、そのためにもいくつかの感想を述べておきたいと思います。
まず少し詰め込みすぎて長時間になったこと。これは主催者も感じたでしょう。
出演団体の選択も大変です。第1回の今回はこれでいいとしても、これからどうするか。総花的に広げるか、内容に合わせて絞るか、これは主催者の腕の見せ所です。そのためにも、テーマ、柱は必要です。そうしないと作品の選定がしにくくなります。各団体におまかせではだめです。率直にいって、今回でも古いものにややウエイトがかかりすぎたきらいがあります。もっと近代、たとえば「牧神の午後」や「ペトルーシュカ」、さらにシンフォニックや心理バレエも、できればコンテンポラリーやブトーも。
これらは率直にいってとくに名古屋の弱いところ。むしろ、少し時間をかけて各団体にこのジャンルにチャレンジしてほしいですね。それぞれ力は十分もっているわけですから。たとえばテーマを『具象(ドラマチック)と抽象(シンフォニック)』とか、『ダンスの今を踊る』などなど、として。
たしかに、古典でないと集客が難しいという点はあります。東京でもその傾向はありますから。しかし、だからこそこのようなところで企画すべきだともいえます。『悪魔の物語』もやったわけですから(ただ、作品については私はやや疑問をもっています。たとえばテキストのコンセプトが踊りに十分に実現されていなかったなど)。優れたメンバーが出演すれば、ある程度の注目は受けるでしょうし、あとはいかにうまく広報するかです。さらに、今回も知立(パティオ池鯉鮒)があり、これからも他の場所があるようですが、ここでの1回だけでなく、何回か上演してコストを下げる工夫も必要ですね。
いずれにしても、もっとも大事なのは、舞踊界に信頼してもらうこと、少しむりしても出たいと思うようにすることです。今回が全体として成功ですから、その意味では次につなげやすいと思います。さらに、舞踊界に対する危機意識をみながもつこと、いままでと同じことをやっていたのでは、先がないことも認識しなければなりません。そこで重要なのが、業界の再編成と劇場(容れ物としてでなく、ソフト面での)役割、機能の明確化です。
新国立劇場についてもいろいろと申し上げていますが、外からではなかなか伝わりにくいのです。東京には他に期待できる劇場は公立にはありません。簡単でないことは百も承知で、ぜひ愛知で積極的な動きを見せて、他の劇場や日本の舞踊界をリードしていただきたいものと願い、また期待もしています。
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。