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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.16:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.16

2004.4/20
「芸術は社会と無縁でいいのか
-児童舞踊のコンクールを見て思うー」

 延べ約20日を超える東京新聞主催全国舞踊コンクールがやっと終わりました。このところ舞踊のコンクールは全国各地でものすごい勢いで増えてます。それにつれて批判も増えています。たしかにその批判に同感の部分もありますが、ではコンクールはなくてよいか、無用かというとそういうものでもないと思います。
 大切なのは、指導者のあり方もそうですが、それぞれのコンクールに目的と個性(特徴)を明確にすることではないでしょうか。
 東京新聞のコンクールは戦後からの61回の歴史をもつことと、クラシック、モダンとともに日本舞踊や創作などの舞踊分野を広く対象としていることです。そのなかでも特徴的なのは、児童舞踊部門でしょう。
 児童舞踊というと、いまだに軽視している人が、舞踊関係者のみならず評論家にもいるようです。もちろん、個人がどういう考えをもとうとそれは自由です。しかし、少なくとも舞踊の世界にいるものは、たんなる思い込みや一部の情報だけで判断するのでなく、その全体像、とくにトップクラスの作品やダンサーたちを見てからにして欲しいと思います。それが見られるのが、このコンクールです。
 児童舞踊を童謡にのって子供たちが可愛く純朴に踊るものという先入観をもっているとしたら、これを見たらその落差に驚き、認識を新たにするでしょう。たしかにもともとは児童舞踊は童謡舞踊からスタートしました。現在もそういうタイプのものもあります。実は私は幼い子が一生懸命踊っているだけで感動し、うるうるしてしまいます。しかしこれを押しつけるわけではありません。現在のトップクラスは、ダンサーのテクニック、表現の点でも、また作品のコンセプト、スタイルでもはるかにそれを超えています。 
 テクニック的には数種類の回転、ジャンプを軽々とこなすダンサーはたくさんいますし、天性のものかと思われるほど的確な表現力をもっているチビッコがいるのです。ダンスのスタイルも、モダンをベースにしたものであるにしても、世界各地の民族的なものを、児童向けにアレンジされてはいますが、そうとう正確に構成しているものがあります。さらに作品のスタイルも抽象的なもの、具体的なテーマをもったもの、物語性のあるもの、立派な装置やさまざまな小道具を利用したものなど多彩です。 
 しかし、私がもっとも特徴的と考えるのはそのテーマです。社会性をもったテーマが非常に多いのです。この1、2年のコンクールでも、国際紛争、原発、貧困、地球環境、都市問題、いじめ、少子化など、きわめて広範囲にわたっています。もちろん、そのすべてが作品として高められているか、メッセージが伝わっていたかは疑問ですが、重要なのはその姿勢です。

 ここから、問題をすこし広げてみたいのです。芸術活動あるいは芸術作品が、政治や社会とかかわるべきかどうか、これには議論があると思います。たしかに中立であるべきとか、かかわるべきでないという考えの人がとくに現代芸術関係に多いようです。現代芸術の特性の一つに無思想性をあげる人がいるほどです。少なくともダンスの世界では、現代性が高いといわれているスタイル(いわゆるコンテンポラリー)の作品には、動きそのものや他ジャンルの芸術とのコラボレーションの手法に重点を置くものか、あるいは日常的、私的な生活にテーマを求めるものが多いようです。
 これについては、たとえばフォークミュージックの世界が思い出されるのです。ウッドストックに代表されるような社会的な主張、カウンターカルチャーが、とくに日本では私的な生活の機微みたいなところに矮小化されてしまいました。フォークやロックの歌手が国歌を歌うなどというのは、私には信じられません。
 しかし、芸術は平和と自由があって成り立つものです。戦時中の日本の状況を思い起こすまでもなく現在のイラクやアフガンでは芸術はきわめて存在しにくいことはいうまでもありません。私は日本のこれからの方向について、あきらめにも似た危機感をもっています。
 もちろん、作品のテーマに社会的なものをとりあげなければいけないといってるわけではありません。ただ、コンテンポラリーとは現代、同時代であり、それは世界の動き、社会の現状を無視してはなりたたないということは理解すべきでしょう。もちろん、コンテンポラリーダンスそのものを非難しているわけではありません。私も作品に共感し、楽しんでいますし、この厳しい時代に観客を増やそうという努力を続けているのは敬服し、微力ながら協力もしています(このたびコンテンポラリーダンスについての紹介ビデオも作りました)。また舞踏には反権力的なものもありますし、先日ある会で近藤良平さんがアメリカの京都議定書から離脱について触れているのを聞いて大変嬉しく思いました。
 また、クラシックやモダンの分野にも、この点に限らず考えていただきたいことはたくさんあります。
 つまり、ここでいいたいのは、児童舞踊はこの意味で極めて貴重な存在であるということです。しかも、これからの社会的なテーマ、これらは残念ながらほとんどがいやな問題なのですが、それをたんに暗く、難しくするのでなく、お説教調にならずにある意味では楽しく分かりやすく、作品化し、演技しているのです。たしかに、少し達者過ぎる、あるいはやらせ過ぎてひんしゅくを買う向きもなくはありません。
 もちろん、作品としてのレベルの問題をきちんとすることは必要です。テーマさえよければ、ダンスとして、テーマの表現方法、作品全体の構成などはどうでもいいといっているわけではありません。しかし、このコンクールの決選に出るような作品は、この点でもなかなかのものです。今回の1位と3位は、沖縄と日本(角兵衛獅子)の踊りをアレンジしたもの、2位はチェルノブィリの死の灰の悲劇をテーマにしたものでした。
 いずれにしろ、評価するにしろ、批判するにしろ、無視はしてほしくない分野、日本独特の舞踊文化であることは間違いありません。また、これからの舞踊界を形成するのはこの子たちなのです。

 本日のテーマに直接関係はありませんが、付記しておきたいことがあります。1、2位は岐阜県のかやの木芸術舞踊学園、ここは毎年感動的な作品を発表しています。3位は石川県の前多敬子バレエ教室、これで驚いたのは、江戸裕梨さん。現代舞踊のジュニアのソロで上位入賞、私自身はもっと上でいいと思ったくらい。さらに群舞の芯、そして翌日にはバレエのジュニアの部で『ドン・キホーテ』のヴァリエーションで見事な踊りを披露、そしてこの角兵衛獅子でも中心で踊っているのです。もちろん、審査中は所属も氏名も分かりませんが、強く印象に残る舞踊家ですから、一体誰だと後で調べたのです。これまでもクラシックとモダンの両方でいい成績を残したダンサーはいます。でもだいたいがクラシックから入っているケースとくにコンテンポラリー系への進出なのですが、いわゆる現代舞踊のしかも群舞や児童舞踊にも出演しながら、クラシックでもしっかりしたテクニックを見せるというのは、新しいタイプでしょう。まだジュニアの彼女、どんなダンサーになるか今後見守りたいと思います

 
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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