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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.17:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.17
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「隆盛をきわめる舞踊コンクール |
-その裏に、わが国独特の事情がー」
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前回に引き続きコンクールの話、でも今回は視点を変えて考えます。最初に今、日本にコンクールはいくつあるでしょうか、私も正確には分かりません。大小合わせると20は優に超えていることは間違い無いでしょう。さらに、プレコンクールやオーディションという名称のものを加えると30に近いのではないでしょうか。しかも毎年新しいのがいくつも生まれています。コンクールといっても、予選、準決選、決選、しかも何種類もの異なるタイプのダンスを踊らなければならないもの、バレエからモダン、日舞など多くのカテゴリーを持つもの、ダンサーを対象にしたもの、作品(創作)のコンクールなどさまざまです。さらに本格コンクールのためのトライアルや指導を主にしたプレコン、本公演で踊るための選抜を主目的としたオーディションも増えています。国内外のコンクールのための予選的なものもあります。もちろん国内だけでなく、海外のコンクールにも日本から大挙してといってもいいほど多数が参加しています。
ただ、コンクールにはどんな種類があるかを説明するのが、このページの目的ではありません。なぜ、コンクールがドンドン増えるのか、参加者が増えるのかをとうして、日本の舞踊事情を考えてみたいのです。
まず、コンクールがいつ行われるか。それは主として学校が休みの期間です。具体的には1月の正月休みから5月の連休まで、今年はこの間でも私の知る限り10くらいはあったようです。さらに7~9月、とくに8月は大小合わせると多分9つは下らないでしょう。
もちろん、それ以外の月にもいくつかはあります。
この現象は、まず参加者の多くが学生というより生徒、小中学生だというところに理由があります。ジュニア2部とかジュニアB、もっと直裁に児童の部という形で小学生の3、4年生くらいから対象になっています。児童舞踊や、それに近いモダンダンスだけでなく、クラシックバレエ部門でも10歳以下のもが参加するカテゴリーがあるのです。休みでないと参加できません。
もう一つの事実は、これだけコンクールがふえると、参加者は全体では増えても、個々のコンクールは減ると思われるのですが、ほとんど減らないのです。それは、同じ人間があちこちのコンクールに参加するようになるのが大きな理由です。九州から北海道へ、北海道から九州へ、これらも珍しくありません。さらに、8月の名古屋では、3つのコンクールが連続した週末どころか、2、3日のズレで開催されることが多く、たとえばすべてに申込をしておいて、予選で落ちたら次のに出場、通ったら決選と重なる次のはキャンセルといった選択をするケースも少なくないのです。
ここで、次のような現象が生まれます。初心者に近いダンサーと、あちこちのコンクールにほとんどすべて参加する、レベルが高いだけでなくコンクール慣れしたダンサーが同時に競う。また、上位を争うのはいつもどこでも同じ顔ぶれといわれます。さらに面白いのは、参加者の方でコンクールを選別するようになり、どんな顔ぶれが上位を争うかによってコンクールの格が自然と決まってくるということです。
このような状況、現象には当然にいろいろと批判の声も大きくなります。曰く、このようなレベルのものを出すなんて指導者は何を考えているのか、小さいうちからこんなにいろいろな技術を詰め込んでしまうと将来かえって問題ではないか、舞踊、とくにバレエに向かないものにまで場を与える必要があるのか、さらには儲け主義ではないか、などなど。たしかに、これらの意見はもっともなものが多いです。しかし、なぜ、こんなにコンクールに参加するものが多いのか、とくに幼いうちから、あるいは技術的に未熟なもの、バレエダンサーに向かないものまでが参加するのかを考えてみる必要があると思います。
ここで、視点を変えてわが国のバレエ事情(これはモダンダンスもほぼ同じ)を考えてみましょう。わが国では国や道府県、市などの公的な部門がバレエ団やダンサーを雇い、支えているわけではありません。たしかに、国立劇場や新潟で一部それに近いものが生まれていますが、現実にほとんどの舞踊関係者はまさに自己責任でお金を集め、公演を行っているのです。ではその民間のバレエ団の資金はどこからきているのか、もちろん、入場料収入もありますが、それでは経費はカバーできません。一部の団体や公演には公的助成、そして私的助成もありますが、これも舞踊界全体としては僅かなものです。個人の借金もあるし、資産の取り崩しもあるでしょう。しかし、もっとも大きいのは生徒さんの支払う授業料とチケット販売(負担)分です。実際に数百人から千人を超える生徒をもつバレエ団やダンスカンパニーもいくつかあります。こういうところは単純に計算しても年間億を超える収入が期待できるわけです。さらに、一人が2枚切符を売って(負担して)も千人いれば二千枚、大劇場でも1公演分に当たります。
つまり、端的にいえば、バレエ団経営を安定化する鍵は生徒をいくら集めるかにかかっているのです。ということは、まず、生徒の受入れに厳しい選別をしていては仕事にならないのです。さらに、あまり厳しく指導し、行動を抑えていたら生徒は集まらず、また入学しても長続きしません。
では、そのような生徒たちに踊る場はあるでしょうか。発表会を毎年やるところだけでなく、2年に1回というところも少なくありません。毎年といっても年1回、それでは満足できないものが多いのも当然です。ちょっとここで海外の状況を考えて見ましょう。舞踊団、舞踊学校は国や市などが抱えて、生活を保障し、学校の授業料も無料、公演は年間百回以上、舞踊学校の生徒にも年に何回か舞台のチャンスがある。団員への道も開かれている。その代わり入学は難しく教育も厳しいというのが典型です。
つまり、わが国のコンクールは、舞踊界を支えている多くのダンス好きの生徒たちの自己実現、舞台で踊りたいという望みをかなえる場なのです。全国のバレエスクール、舞踊研究所がたとえば将来のプロを前提に入学条件を厳しくしたら、わが国の舞踊界はなりたたないといっても過言ではありません。もしそうできても、才能があってもプロとして舞台で生活できるものはほとんどいないでしょう。現在、踊りで食べていけるというのは、ほんの一部の例外を除き、生徒を教えて収入を得ているからなのです。
もちろん、だから現状でいいというつもりはありません。このような条件のもとでも、指導はきちんとして欲しいし、プロをめざすものの選抜は厳しくすべきです。さらに公演のための資金集め、観客動員の努力ももっと必要です。また、コンクールの主催者も参加者に対する真のサービスとはなにか、このコンクールの目的や特徴はなにかを真剣に考え、実行して欲しいと思います。
もう一つ、これは祈りに近くなってしまうのですが、日本社会全体がもっと舞台芸術を尊重し、支援し、それを楽しむようになるといいのですが。芸術文化に関してはとても貧しい国だなあと、つくづく思います。
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。