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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.18:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.18
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「閉校小学校を活用し、ダンス創造、体験の場に |
-京都芸術センターのケースー」
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少子化や都市部のドーナツ化現象によって、大変残念ですが、まちなかの歴史的な、由緒ある小学校が、どんどん閉校、廃校になっています。しかし、たんに整地してほかに使うだけでなく、建物を生かしての再利用もいろいろと行われています。高齢者や障害者のためのものもあり、効果をあげているようですが、芸術文化のために使われているところもあります。京都芸術センターもこのひとつです。
この連休にここに行ってきました。いま、ダンス関係のワークショップ(WS)はさかんに行われるようになっていますが、たびたびこのページでも触れているJCDN(ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク)でもあちこちでいろいろなタイプのワークショップを開いています。今回は『桜咲く、からだ咲く ワークショップ-ダンスで遊ぶ、創る、探検する、見せる-』(楽しいネーミングですね)。これは高齢者と若年者によって編成されているユニークなカンパニー、「リズ・ラーマン・ダンスエクスチェンジ」と「ピアソンウイドリック・ダンスシアター」による、2つのWSで、京都芸術センターの行っているアーティスト・イン・レジデンスプログラム2004に参加してその成果を発表するものです。そのなかのピアソンウイドリックを見学したのです。これはサラ・ピアソンさんとパトリック・ウイドリックさんによって87年に結成され、ニューヨークから世界各地で活動しているデュオで、今回は2回目の来日、京都を拠点に関東から四国、九州まで範囲を広げています。
このWSは4月22日から5月5日まで開かれたもので、ダンス経験者と未経験者に分け、前者は8回、後者は6回、そして最後の日とショウイング(成果公演)は両者合同で行われました。私は4日、合同のWSとショウイング作品を創る場に立ち会いました。
WSはいわゆる技術研修ではありません。それでは何かというと、私の解釈では初心者については身体を動かすことの体験であり、ある程度の経験者については自己をいかに表現するかについての体験、挑戦です。ここでも講師(主としてサラさん)は風や波、あるいは稲妻といった自然の、生き生きとした動きをイメージして、それを身体で表現して、と指導していました。特徴的だったのは床の使い方で、中学生から70歳代までの参加者は、それぞれの動きで床を往復していました。
ショウイング作品では、4人がグループとなって縦、横あるいは四角などの隊型を作り、1人づつイニシャティブをとって一つの動きを設定、それを残りがユニゾンでフォローしながら順につないでいくという方式。経験者は凝った動きが、初心者も突飛なアイディアが出てきたりして、なかなか楽しめました。ダンサーをめざす人にはいい経験になったでしょうが、全くの初体験者にとっては、これがこれからどのような意味をもつのでしょうか。なんらかのフォローも必要かも知れません。
このワークショップ会場が、京都芸術センターのなかで最も大きい講堂だったのです。ここで京都芸術センターについて紹介しておきましょう。この前身はすでに述べたように小学校です。旧名は明倫小学校、明治2年に設立されました。現在の所在表示は京都市中京区室町通。地下鉄四条、阪急烏丸駅から5分もかからない、非常に便利な所にあります。歴史的に、そして現在でも周囲には呉服問屋さんが多く、昭和6(1931)年にその協力をえて全面的に改築されたようです。そして平成5(1993)年に閉校、その後平成11(1999)年に現在の形に改修、翌12年に開館しました。この改修は芸術創造・発表の拠点として、また法律上の必要なものにとどめ、できるだけ過去の姿を残すようにしています。したがって、呉服問屋さんたちの会合や丁稚さんの訓練などに使った畳敷きの大広間やスロープの階段さらに和室(茶室)、教室などもほとんどそのままの形で残っています。3階建て、講堂、アリーナ状のフリースペース、さらに10を超える制作室に、図書室、情報コーナー、会議室から喫茶室など、多くの芸術家だけでなく一般市民にも開放されています。いかにも伝統と革新が共存している京都らしい雰囲気のスペースです。
私にとってとくに嬉しかったのは、主催、共催をはじめダンスに力を入れていること。この日も、JCDNのWS以外に、「京都の暑い夏(HOT
SUMMER IN KYOTO)2004、第9回京都国際ダンスワークショップ フェスティバル」の期間で、この日は朝から(敬称略)マイケル・シューマッハ、ヴェロニク・ラルシェ、イナーキ・アズピラーガ、ヴィンセント・セクワティ・マントソー(南ア)、ディディェ・テロンなどのワークショップが行われており、さらに別の日にWSを担当している岩淵多喜子や坂本公成、森裕子などの各氏が見えていました。館内のあちこちにダンサーらしき人々がたむろしたり、出入りしたりしており、いかにもダンスの拠点という感じ。ここまでの雰囲気をもつところは他にはないのではないでしょうか。したがって外国人も多く、私はてっきりJCDNの関係者だと思って最初に話しかけた女性はまったく別のグループの人でした。そうとは知らずいろいろと質問してしまいました。大層驚かれたことでしょう。
さらにこのセンターのすごいところは、先にあげたアーティスト・イン・レジデンスプログラムの制度をもち、きちんと募集していること、さらに京都市の芸術文化特別奨励制度の奨励者募集の窓口になっているだけでなく、京都市の公的、民間の助成金などの内定者へのつなぎ資金融資まで行っていることです。
この運営は各種のアートコーディネーターとボランティアによっており、説明してくれた竹下暁子さんもアートコーディネーターです。
わが国の芸術は、江戸時代など公的な庇護を受けることはあっても、基本的には民間の力によって推進されてきました。これは近代から現代になっても同じことです。ただ不思議なのは、容れ物(施設)だけは公立が圧倒的に多いのです。しかし、当然というか残念というかハードだけでソフトはほとんどありません。率直にいって「容れ物は用意しますからどうぞ適当にご使用下さい(賃料はいただきますが)」ということ。最近はようやっと助成も増え、一部芸術家をかかえるところも出てきました。しかし、まだ例外であり、しかも緒についたばかりで、注目はされるにしても社会に定着したとはいえません。
その点、この京都芸術センターは、たんにお金を出すだけでなく制度を作り運営して、ソフトを提供、しかも一般に開放しているのです。
発表のための舞台という面では十分でないのが残念ですが、創造の場として、交流の場として、そして市民が日常的にアートに触れる場として、きわめて大きな機能を発揮しているように見受けました。閉校小学校の活用という点も含めて、大変に重要な、これからさらに期待される存在であると思います。
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。