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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.23:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.23
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現在(7月22日~31日)、「子どもと舞台芸術出会いのフォーラム」が、代々木の国立オリンピック記念青少年総合センター(長い名前ですね)で開かれています。この趣旨は、『子どもと舞台芸術の豊かな出会いのために、子どもと芸術文化・教育に関わる様々な人が出会いパートナーシップを育み、ネットワークの輪を広げましょう』ということで、主催は出会いのフォーラム実行委員会ですが、8つほどの団体が集まって編成されています。具体的にはセミナー、シンポジウム、ワークショップ、ショウケース、出会い・体験の広場、交流会など盛り沢山な内容が平行して行われています。
これを芸術ジャンルからみると、演劇が圧倒的に多く、ついで音楽、ミュージカル関係、人形劇や伝統芸能もありますが、舞踊関係はほとんどありません。昨年はシンポジウムに森下洋子さんが参加してくれたのですが、今年は会議のなかでも舞踊についてはほとんど触れられることはないようです。実行委員会にも舞踊関係(たとえば児童舞踊協会など)は参加していませんし、協力団体にも舞踊の名はありません。項目の説明には、たとえばワークショップにはダンスも入っているのですが、実際にはダンスのワークショップは行われていません。ショーケース(芸術団体による紹介パフォーマンス)にも70団体ほど参加しているのですが、舞踊関係は日本舞踊、韓国舞踊、フラメンコなど3~4団体で、バレエやモダンダンスはないのです。
ないないづくしをしていてもしょうがないのですが、舞台芸術と子どもというテーマの大きな催しに、舞台芸術の有力なジャンルである舞踊がなぜ参加しないのか、その姿がないのかを考えることは大事だと思うのです。
なぜ参加がないのか、その理由は私見によれば、2つの側面から考えることがでるでしょう。ひとつは、舞踊という芸術のもつ性格から、もう一つはわが国における舞踊の在り方です。それはやる、作るほうと見るほうの両方があります。
「舞踊と子ども」を考えるとき、2つの視点があります。つまり、子どもがやる舞踊と、子どもに見せる舞踊です。さらにいえば子どもがやるという場合、子どもが踊るための舞踊作品とダンスによる、教育、育成活動があります。
まずこの点について、音楽や演劇と比較してみましょう。まず、音楽はどちらもあります。つまり、童謡をはじめとする子どものための歌もありますし、子どものための歌の教育も学校でも行われています。演劇は微妙ですが、学芸会などはありますが、子どもが演じるための演劇作品というのは音楽ほどは明確でないような気がします。教育のための演劇というのも、学校教育には含まれていないといっていいでしょう。この点では演劇と舞踊は似ているといってよいと思います(学校の正科に舞踊と演劇をという運動も行われています)。
それでは、なぜ今回の出会いのファーラムに演劇部門が圧倒的に多いのでしょうか。それは[子どもに見せるための演劇]の存在です。子どもに見せるとなると音楽もなくはありませんが(子どもに聞かせる)、舞踊はほとんどありません。これはたとえば児童演劇というと、主として大人がやる子どもに見せる演劇なのにたいして、児童舞踊というのは子ども(児童)がやる舞踊であり、児童舞踊協会とは、それを指導する人たちによって作られているのです。たしかに、この意味では子どもが踊る舞踊というジャンルはあり、これはむしろ世界的に珍しいといってもよいのです。この点については、すでにしばしばこのページでも取り上げてきましたが、童謡舞踊から発生した児童舞踊は今や社会性をもったテーマなどに広がり、技術的にも大人を超えるダンサーも生まれています。ただ、バレエの分野では、子どものための作品もありますが、たとえばわが国でジュニアバレエ、ユースバレエとしいのは主として大人の作品を若者が踊るということで、今回のテーマとは少し外れると思います。
つまり、結論的にいいますと、子どもと舞台芸術という点での演劇、音楽と舞踊の基本的な違いは、「子どもに見せる」というところにあります。それはさらに具体的には子どもに見せる演劇(音楽)を主たる仕事とする団体があるかどうかであり、その裏返しとして、子どもに演劇(音楽)を与えようという活動の問題にもなります。つまり、子どものための舞踊作品を作って上演しようという団体、子どもに舞踊を見せようという団体(鑑賞団体)がないということです。これは日本社会、日本舞踊界の問題です。
これがなくて良いはずはありません。たしかに、子どものための舞踊作品、大人のための舞踊作品という分け方がいいかどうか、可能かということには議論の余地はあるでしょう。でも、できるだけ多くの子どもに舞踊の楽しみを知ってもらうということは、演劇や音楽と同じように必要なことはいうまでもありません。
このことに答える一つの活動が、たまたま行われました。
それはウクライナ・ハリコフ子どもバレエ劇場の公演『チッポリーノ』です。これはウクライナ、ハリコフ市の舞踊学校の卒業生を中心にした9歳から18歳までの子どもたちによって編成されている、恒久的なバレエ団なのです。つまりバレエ学校の公演とは違うのです。観客も子どもというか親子を主眼として、レパートリーも子どもが演じやすく、また家族で楽しめる作品、たとえば、『くるみ割り人形』、『白雪姫と7人の小人』、『シンデレラ』などがあります。
今回は、日本側の主催者はNPO法人国際青少年舞台芸術振興会(理事長榎本誠之介さん)で、東京、愛知などで数回の公演が行われました。『チッポリーノ』は、イタリアのジャンニ・ロダーリの『チッポリーノの冒険』という児童文学をカレン・ハチャトリアンが作曲、ゲンリフ・マイヨロフの振り付けで1974年にキエフで初演されたもの。今回はそれを多少手直ししたものですが、野菜たちが活躍するファンタジックな作品で東京公演では主役のチッポリーノ(タマネギ坊や)に岩田守弘さんが特別出演しています。彼は大きなジャンプや回転、軽妙な演技で見事な出来栄えでした。
今回は岩田さん以外にもウクライナから18歳以上のゲスト(文化大学舞踊科在学生など)が数人加わっていましたが、正式な団員も男女三十数名、そのなかにはコンクールの上位入賞者もいて、踊りの面でも見応えのあるものでした。
作品や出演者の解説、紹介があったり、アンコールには日本調の『蝶々夫人』と『ゴパック』が上演されるなど、プログラムも工夫されていて、ほぼ満員の客席の子どもたちも大変喜んでいました。演出や運営面に、欲をいえば細かな注文はありますが、このような活動が必要なことはいうまでもありません。
大人のバレエ団が、たとえば解説や体験などを加えた子どもを意識した作品上演にも文化庁の「本物の舞台芸術体験事業」などがあり、それ以外にも独自の活動を行っている貞松・浜田バレエ団などもあります。ただ、わが国にはすぐれたジュニアダンサーが数多くいることもあり(この点では世界一かも知れません)、ぜひ子ども舞踊団(大人に見せるのもよいですが、子どもを意識した作品や演出で)も考えて欲しいですし、子どものためのワークショップも大切です。いずれにしろ、日本バレエ協会、現代舞踊協会などの舞踊団体として、積極的にこのようなフォーラムにも参加してマーケットを広げる活動を行って欲しいと思います。
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。