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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.24:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.24
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世間は夏休み、といってもかえって疲れてしまっている人も多いと思いますが、いずれにしても、普段とは違った生活のスタイルを楽しんでいるでしょう。このページも1週休ませていただきました。
ただし、舞踊界は別、通常のシーズンとは少々内容は異なりますが、大変な舞台ラッシュです。この特徴を示すキー・ワードは「全国津々浦々」と「若さ爆発」です。
もちろん、これ以外の時期にもありますが、とくに7月の後半から8月には、全国各地で舞踊の会が行われます。この状況について、後で具体的にこれを取り上げますが、その前になぜこうなるのかを考えてみたいと思います。この理由を説明することは、イコールわが国の舞踊界(とくにバレエを中心とした洋舞)の特異性を明らかにすることなのです。
わが国のバレエ団、ダンスカンパニーは1、2の例外(新国立バレエ、新潟りゅうとぴあ・ノイズム)を除いて、ほとんどが民間の、それも個人(同族)主体の団体です。そして、その経済基盤は、経営する舞踊学校(バレエスクール、研究所、スタジオなど)による授業料などの生徒からの収入です。さらに、この生徒さんたちは、チケット負担を含めて会の観客動員の基礎となるのです。というより、まず、舞踊教育のシステムがあって、その発表の場が公演のための団体に発展するのが一般的です。先に、バレエ団があってそれを運営するために、つまり経済的だけでなく、団員の育成のためにスクールを設けるというプロセスをとったところはきわめてまれです。ただ、最近のコンテンポラリーダンスのカンパニー、グループでは、ダンサーが集まって形成され、育成のシステムをもたないところも数多く出てきました。といっても、このようなカンパニーではメンバーはきわめて少ないか、舞台のたびに集散(たとえばオーディションで)するところがほとんどです。この意味で残念ながら、プロのバレエ(ダンス)カンパニーはわが国にはほとんど存在していないといえます。ここでいうプロとは、レベルの問題でなく、・もっぱら公演活動を目的とした団体で、・レパートリー作品上演に十分な専属の団員をかかえ、団員養成のための付属のスクールだけでなく、・広く才能あるダンサーをオーディションで補強するというきちんとしたシステムを整備している(たとえば団員の契約条件など)ということです。本当は、・本拠とする劇場を持つ、を加えたいのですが、プロのツアー・カンパニーもありますので、絶対条件ではないとします。しかし、プロといわれるには、少なくとも年間30回くらいはきちんとした公演を行ってほしいのです。
このような団体は、K・バレエカンパニーを初め、歴史のある大手バレエ団でもじょじょに目指すようになってきました。ただ、公演回数の点で、欧米にはるかに及ばないのが大変残念です。
このようなことは、このページだけでなく、機会があればできるだけ書いて、問題提起しようと思っています。最近ではたとえば(社)日本バレエ協会の全国合同バレエの夕べ(8月)や、オリガ・サファイア展(チャコット主催、7月)のプログラムでも少し具体的にふれています。
このような日本の洋舞界の実態は、前提の確認で、今回のテーマはあくまで「全国津々浦々」と「若さ爆発」です。
まず、津々浦々からいきましょう。7月後半にも仙台、名古屋、岐阜土岐、京都、そして山梨(清里)などで、複数の公演、発表会がありました。この地域は年間をとおしてあるていどの会が開かれています。なお、ここにあげるのはは原則としてご案内いただいたもので、これ以外にも多くの会が各地で行われていると思います。
8月にはいると、さらに地域は広がります(以下敬称略)。まず1日は四国高松(樋笠バレエ)、宇都宮(石原千代)、仙台(高橋裕子)、そして清里の続き。さらに千葉(大園エリカ、3日)、5日、6日には盛岡、八戸(黒沢智子)、5、6日名古屋(北川淑子、塚本洋子)、7日京都(寺田バレエアート)、神戸(波多野澄子)、名古屋でも佐々智恵子(7日)が。日曜日にはさらに大変、大阪(松田敏子)、大阪八尾(佐々木美智子)、札幌でも。このころ神戸では別の会もあったようです。8月7日からは山梨県白州で恒例のダンス2004(田中泯)。7日にはダイラクダカンが白馬(長野)で。15日には矢上3姉妹の会が大阪で、大変だったのは次の週末。名古屋のコンクール(バレエコンペティション21)、なお同じ日に東京でも日本バレエ協会がコンクールを開いていました。さらに九州は福岡(田中千賀子)、徳島(清水洋子)、神戸(藤田佳代)、もちろん東京でも2つ、3つ大きな会があり、年間でも激戦日といえるでしょう。ちなみに10月最後の週末が多分今年度重複度No.2の予感がします(8月22日がNo.1)。
次の週には名古屋での2つのコンクールが日程半分重複で行われています。大阪・堺(野間康子)も29日の日曜日。その前、26日には熊谷でも会があります(野呂修平)。さらに東京にも全国から舞踊家が集結する会があります。バレエでは先にちょっと触れた全国合同バレエの夕べが13、15日、現代舞踊協会の現代舞踊フェスティバルが全国から舞踊団、カンパニーを集めて19日に、30日の児童舞踊協会の会でも多くの子どもたちが集まっています。
ここにあげたものでもヤングが活躍しますが、次に「若者」のキー・ワードで取り上げてみましょう。東京ではローザンヌグランガラが10、11日、これは大阪でも行われました。やはり、東京、大阪でダンスアクト「盤上の敵」。さらにプレ・コンクールという名称での若いダンサーの集いも東京、名古屋など各地で行われています(コンクールも上記以外に多数)。
コンテンポラリー系でも、「WE LOVE DANCE FESTIVAL」というイヴェントで、17から29日まで東京、京都などで、ストリートダンサーを含めて、国内外の若いダンサーが多数集まり、饗宴をくり広げています。ワークショップをいいだしたらキリがありません。
このように、並べるだけでスペースは一杯、ずいぶん抜けているのですが、それでも全国で1日に何公演も行われるのが普通になりました。私事ですが、8月がそれ以外の月よりも、8月はかえって各地まわりで忙しくしています。
これが日本独自の現象なのです。すなわち、夏休み、学校の長期休暇、海外でのシーズンオフによるバレエカンパニーの休暇、これが会が開ける条件なのです。具体的には、国内のスクールの生徒さんたちも作品のリハーサルの時間、そして本番のための時間がとれるようになること、そして海外がシーズンオフのため、海外の舞踊団に所属している日本のダンサー、スクールで研修しているダンサーが里帰りしていること、です。
率直にいって東京、大阪、名古屋の大都市以外の地区では、生徒の発表会をかねて公演を行います。実は大都市圏でも、生徒さんの発表会と大人のダンサーによる作品発表、つまり公演を併せてやるところも少なくありません。海外で勉強している若者は、地方のスクール、スタジオの出身者が多いものですから、とくに彼、彼女が帰っているこの機会に会を開こうと考える各地のスクール経営者があるのです。
もちろん、現実には、海外で活躍している優れたダンサー、たとえば吉田都さん、佐々木陽平さん(ともに英国ロイヤルバレエ)、藤井美帆さん(パリ・オペラ座)などが見られるのは大変に嬉しいことです。とくにローザンヌガラには、多数の海外で活躍するダンサーがパートナーをつれて出演しています。ダンスアクトもそれに近い形です。これは8月でなくてはできない催しです。
ただ、あるべき(ありたい)形としては、春秋のシーズンにちゃんとしたバレエ団の公演が全国各地で見られて、オフには休むのが望ましいでしょう。これには当然、若い優れたダンサーが海外でなく日本で活躍するのが条件です。日本での舞台の終了後すぐに海外の舞踊団に戻らなければならない、というようなあわただしいお休みでなく、オフにはプライベートライフを十分に楽しんでもらいたいものです。国内にいる男性ダンサーにも同じことがいえます。夏休みの各地の発表会が最大の収入源だというのは、舞踊界のありかたとしては好ましくありません。カンパニーに所属して、そこからシーズンの公演の報酬をきちんと受けることによって生活が保証されるのが正常な形だと思います。
そんなの夢だよ。でも、欧米ではそれが普通なのですが。どこに問題があるのでしょうか。あるいは、これは望まれる形ではないのでしょうか。現状に満足してよいのでしょうか。
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。