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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.35:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.35

2005.01/26
 

「舞踊をより深く理解するために
  ー全国公文協セミナーで考えていることー」

 


 社団法人全国公立文化施設協会(全国公文協)は、毎年2月は大変なてんやわんやです。それは、協会の理事会や総会とともに、文化庁とともに主催する「舞台芸術フェア・アートマネジメントセミナー」の時期だからです。私も全国公文協の芸術情報プラザの舞踊アドバイザーなので、毎年舞踊に関してなにをやるか、頭が痛いところです。
 今回のセミナーの基本テーマは[今、公立文化会館に求められているもの]、これは、多くの施設で問題となっている指定管理者制度との関係で、芸術文化の振興と、住民サービス、そして運営の効率化をどう調和させるか、あるいは何が基本的に重要かを考えて見ようということです。このテーマに直結したものとして、三浦雅士さんと山崎正和さんとのトークを企画、三浦さんは多分ここでダンス芸術と他の芸術や人生とのかかわりなどについて情熱をこめて話されることでしょう。
 舞踊プロパーとしては、個人的な基本ポリシーは[舞踊全般についての全国的な理解と関心の推進]。今年はセミナーやシンポジウムなどの座学はやめて、レクチャーワークショップを企画しました。これはこの2回ほど実施して比較的好評だったものです。
 一般にワークショップというと、コンテンポラリー系で、動くことによって自分を表現する、それを体験してみようというのが多いのです。それに対してクラシックバレエのワークショップというのはなかなか難しい。それはなぜかというと、クラシックは動きも意味の表現も決めごとがあり、自由に動き表現するダンス系とくらべて、それを体験するというのは簡単ではないからです。つまり、クラシックには技(わざ)を身に付けるには長い訓練を必要とする、いわばプロの仕事になるのです。もちろんダンス系でも、とくに伝統的なモダンダンスでは舞台に立つには厳しいトレーニングが必要ですが、アマチュアなりにそれぞれのステージ(レベルの段階)で個人の感性での表現を体験することはできるのです。一方、プロの仕事であるクラシックの場合でも、それを鑑賞するには、その基礎知識、決めごとを理解しておいたほうがよいことは明らかです。とくに、このセミナーの対象である、文化施設の企画担当者にとっては、舞踊事業を企画するにも、その知識を具体的にもつことが望まれます。
 そこで、このレクチャーワークショップは考えられました。これは、以前はデモ=デモンストレーション=つきワークショップといっていたものです。つまり、クラシックについては実演付きで、その基本、ステップの基礎とマイムを解説、そこからモダン、コンテンポラリーへの流れ、そしてそれぞれの意味、本質について説明します。次いで参加者に動いてもらうワークショップをモダン系のかたにやってもらい、最後にクラシックとモダンの模範演技(小品を踊る)を見て頂くという、3部構成になっているのです。
 最初のクラシックのデモンストレーターは谷桃子バレエ団の瀬田統子さん、小柄ながらテクニシャン。もうベテランですから、ぶっけで言葉(テクニカルワード)を動きにしてみせてくれるでしょう。アダージュは不肖私が相手を務めます。
 ワークショップのトレイナーとモダンのデモンストレーターは川野眞子さん、彼女も素晴らしいダンサーで振付けもやります。ペットボトルを使うユニークなワークショップを考えていうようで、私も楽しみにしています。模範演技の小品は内緒、それぞれのスタイルがはっきり理解できるものになるでしょう。
 もちろん、ワークショップの本来的な意味は制作工房、共同して作品を作り上げる場でして、その意味ではクラシックバレエでもありうるし、現実には名称は別にしておこなわれているかもしれません。ここではその一部を体験することになります。
 クラシックバレエの基本概念は、均衡、均整のとれた美、天上の(日常を離れた)美です。したがってそのために、動きに{外に、上に、そして安定}が求められたのです。伝統的なモダンダンスは、その概念のもと動きの範囲を広げていったもの、コンテンポラリーダンスはその動きの自由さとともに概念そのものも自由になってきたと、いうこともできると思います。別のいい方をすると、バレエとモダンダンスは上にも述べたように、厳しい肉体的トレーニングを必要とします。それにたいしてコンテンポラリーダンスでは、トレーニング無用とはいいませんがそれよりも個人の感性や表現のユニークさが重視されるのです。
 つい先日(1月26日)、桜美林大学学生のダンスコンサートにいってきました。客員助教授の木佐貫邦子さんが指導しているグループ(オーディションによって選ばれた学生)が出演したのです。指導はまだ1年だそうですが、さすがは木佐貫さん、よく学生さんたち(20名ほどの男女)を使って楽しいものに仕立てていました。学生さんもリハーサルは大変だったでしょうが、生き生きと楽しげでした。
 なぜ、このことをとりあげたかというと、前にあげた話に関連があるのです。このなかに、間違いなくクラシックバレエをそうとう勉強していたなという女性がいました。なぜそう思うかというと、まず身体の芯がしっかりしていること、手の上げ方も全然違うのです。彼女は多分バレエを忘れて振付けを一生懸命踊ろうとしたでしょう。それも良く分かり、カーテンコールで心なしか眼がうるうるしていたのがとても印象的でした。もう一人、ロンブーのとんがったほう(氏名不知)みたいな男性、踊り心と身体能力をもっています。彼なら1年のトレーニングでここまでになるかもしれませんが、動きに爽快さがあるのです。これが現代のモダンダンス(たとえばH・アール・カオス)のセンス、たとえばオフバランスでも安定感があるし(でないとしっかり踊れません)、細かいことをいうとダンスブーツの爪先が鋭く伸びていました。この作品でのそれが良いか悪いかは別として、こんなことを考えながらみていたのです。
 話を全国公文協のセミナーに戻します。もう一つ舞踊の企画があります。これは特別プログラム・舞台芸術鑑賞として、谷桃子バレエ団に出演してもらうものです。これもポリシーに添ったもので、バレエについての理解と関心を高めてもらうためにおこないます。そのひとつはバレエのいろいろなスタイルを見てもらうこと、そのために3種類の作品を上演します。谷桃子さん振付けの、「レ・シルフィード」スタイルの美しいアプストラクト『ロマンティック組曲』、松島勇気さん振付けの楽しく激しいジャズダンス『MUTATION』、そしてお芝居の面白さを全面にだした『シンデレラより第1幕』(原振付けスラミフ・メッセレル)です。そして簡単な解説をつけます。
 今、公文協での仕事として、舞踊をベースにしたホールとアーティストのネットワークについて考えています(機関紙の”アートエクスプレス”に佐東範一さん=踊りに行くぜ=と、佐藤まいみさん=フランスダンス03=に寄稿をお願いしています)。現在はみなコンテンポラリー系ですが、バレエでもできないかな、というのも、この特別プログラムの目的の一つです。なんとか繋がるといいのですが。
 

 
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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