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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.47:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.47

2005.07/11
 

国内、外来、物凄い舞踊ラッシュ
   ーその裏に解決されない本質問題がー


●7,8月に集中する理由
 このところ、世界ではテロあり、あちこちで天候不順の被害あり、国内では地震もいつまた起こるかという状況、それに郵政民営化もあって、ほんとに変です。
 こういったなかで、わが国舞踊界は大変な賑わいよう。といっても本質的な問題はまったく解消されていないのです。この賑わいがあだ花にならずに、舞踊界の将来の大変動に備えての体質強化につながることを願いつつ、この状況をまとめてみたいと思います。前にも書いた記憶がありますが、とくに7,8月は毎年同じ傾向があります。それはひとつはコンクールラッシュ、そしてもうひとつはガラ公演、フェスティバルの集中です。この理由ははっきりしています。ます学校が休みのこと、これは主としてコンクールにかかわります。さらに、海外では舞踊シーズンがオフになること、こちらは国際的なガラ公演やフェスティバルにつながるのです。もちろん、このもとには、わが国の舞踊界の特殊性があるわけです。それはコンクール好きのダンサー、外国好きのダンサーそしてファンの存在です。これがあって上記の条件のもとでの7,8月であるわけです。
 もうひとつ付け加えますと、ワークショップ、短期講習会好きも日本の特徴。講師はもちろん海外からの旧([超]のミスプリではありません)有名人、また外国人だけでなく、海外で活動している日本人も一時帰国で大もてのようです。この理由も同じです。
 この特殊性を分析していると長くなりますし、すでにこのページをはじめいろいろなところで書いていますので、これは、わが国の地域性、国民性を端に発しているというに止めておきます。なお、この問題については、(社)公立文化施設協会発行の「ダンス マップ オブ ジャパン」、それに8月の(社)日本バレエ協会主催の「全国合同バレエの夕べ」のプログラムにも書く予定です。

●ますます熱くなるコンクール列島
 というわけで、前に進みますが、今年はこれらの従来の状況にさらに、いくつかの状況が加わりました。その最大のものは エクスポ2005=愛・地球博の開催です。さらに、これは偶然が重なったのだとおもいますが、7月には英国ロイヤルバレエと、アメリカンバレエシアターと、英米を代表するトップクラスのバレエ団が競演することも大きなトピックです。
 まず、愛・地球博にあわせて、これまで常に(3年毎)2月に行われていた「世界バレエ&モダンダンスコンクール」が7月開催になったことです。しかも、今回は前回迄名誉総裁を務められた故高円宮殿下をしのび、開会式を殿下のメモリアル・オープニング特別ガラ公演とし、それを愛・地球博EXPOドームで行い、さらに第5回を記念して、「スーパーガラ公演 メダリストたちの競演」を東京、名古屋を始め、札幌から福岡まで全国9か所で行っているのです。ここには、来日のロイヤルバレエのプリンシパル、吉田都さん、そのパートナー、フェデリコ・ボネッリさん、さらに新国立劇場にゲスト出演していたザハーロワさん、ウヴァーロフさん、6月来日のベルリン国立バレエからもセミョーノワさん、さらにABTの対抗馬、ニューヨーク・シティバレエからも加わるなど興味ある顔ぶれ。コンクールも世界30カ国からの参加で、国際化は進むばかりです。
 さらにコンクールは7月の埼玉、8月の日本バレエ協会、名古屋ではなんと8月に3か所で、そして1年おきの北九州でも今年が実施年です。それ以外にもいくつかあるはず。コンクール列島は一層熱くなるでしょう。

●名前がこんがらかるほどのガラの競演
 ガラ公演もますます盛ん。上のコンクール関連「メダリストガラ」に引き続き目白押しです。新しい企画が、Bunkamura主催で渋谷オーチャードホールで5日間(6回)3プログラムで行われます。クラシックから現代バレエまで、仏独蘭(蘭=オランダ)有名バレエ団の若いスターダンサーが10人ほど集まる「エトワール・ガラ」です。これが7月下旬。次の大物は8月上旬の(財)橘秋子記念財団の主催する「日本バレエフェスティバル」が3日間。第15回を迎えるこの公演は、国内外の著名ダンサー、これからが期待されるダンサーを集めた、もっとも由緒ある催しです。1日ものとしては、7月末に大阪でMRB(松田敏子リラクゼーションバレエ)主催の「バレエスーパーガラ」が関西のダンサーを主体に、全国各地、そして海外からも集め、どちらかというと若い力を感じさせるもの。8月1日にはNBAバレエ団が主催する「ゴールデン・バレエ・コー・スター」が。ここの特徴は海外帰国組と韓国などのアジアのダンサーが多数見られることです。なお、北海道でも、先の「エトワール・ガラ」のメンバーなどによる公演を行うようだと聞いていますが、詳細は分かりません。ほかでも重なり、だれがどこで何を踊るのか、整理するのが大変です。

●国内の舞踊公演も各地で盛ん。
 国内のバレエ公演も負けていません。ブルノンヴィル生誕200年を記念した井上バレエ団、小林紀子バレエ・シアター、東京シティバレエ団も毎年7月が公演月。さらに佐多達枝さんも多彩なメンバーを集めて新作を発表しました。谷桃子バレエ団も創作による「クリエィティブ・パフォーマンス」。服部有吉さんはハンブルクバレエ団の仲間を連れて帰国、東京と大阪で自作の『藪の中』などを上演します。名古屋ではこれも定期的に行われる松岡伶子バレエ団の創作主体のアトリエ公演。8月には東京バレエ団が『眠れる森の美女』、Kバレエカンパニーが『プロディガル・サン』など。東京バレエ団は別に斎藤友佳理さんの芸術選奨文部科学大臣賞受賞記念公演も行います。日本バレエ協会は「全国合同バレエの夕べ」を主催、全国各支部が集まります。この間には愛知県芸術劇場では3回目の愛知ダンス・フェスティバル「ダンス・コスモス」が。名古屋を主体に各地のダンサー、振付家による古典から現代創作まで。これも1種のフェスティバルかもしれません。これ以外にも全国各地で公演、記念発表会が行われます。
 7月末から8月にかけて、山梨県清里、萌木の村でも恒例の「清里フィールド・バレエ」が3プログラムで、13回公演されます。

 他のジャンルの舞踊も紹介しておきましょう。定例は7月の東京新聞主催「現代舞踊展」、2日間にわたり現代舞踊界の実力者が集結します。コンテンポラリーでは若手の登竜門、「トヨタコレオグラフィーアワード」の最終審査会も定例になりました。7月末にはアサヒアートスクェアでの「アサヒ・アート・フェスティバル」に、この分野の中堅、若手が登場します。8月には金森穣さんがタップの熊谷和徳さん、さらに海外のメンバー、帰国組とともにフェスティバル形式のノマディック・プロジェクトの第2弾。岐阜、仙台などでは現代舞踊系ながらユニークな存在が公演を行います。児童舞踊系も加わりますが、そのイメージを一変させる熱い作品が登場するのです。
 フラメンコも、7月中旬に蘭このみさんの芸術祭大賞作品、末には恒例の小松原庸子さんの日比谷野外公演「真夏のフラメンコ」、鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団も東京と全国各地で『曽根崎心中』を。

●舞踊ラッシュのおくに隠される本質問題
 大変な舞踊ラッシュ。居ながらにしてこれだけのレベルの高い、バラエティに富んだ、しかもわが国だけでなく世界各国からの作品やダンサーが見られるのは、幸せというべきなのでしょう。個々人それぞれに好みはあるでしょうが、舞踊ファンにとってはどれを見たらよいか迷うところ。たしかにこれは、わが国の舞踊のレベルの高さであり、マーケットの大きさ、さらに会場・施設の充実さを示すものといえるのかもしれません。
 しかし一方で、本拠としての劇場をもっている(付属している)バレエ団、ダンスカンパニーはほんの1~2しかない、という現実、4~5都市以外にはプロの舞踊団体がないという現実とのギャップの大きさに驚くばかりです。つまりにぎわっているのは東京をはじめとするほんの一部分。各地ではコンクールのためのトレーニングがやっと。
 最近は、舞台を楽しむ一方で、この現実がなんとかならないのかということが常に頭を去らず、何か書いたりしゃべったりすると、どうしてもここに話がいってしまいます。

 
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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