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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.49:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.49

2005.08/10
 

「わが国の舞踊システム、そして作品の問題について
ー世界B&MDコンクール記者会見に思いを新たにするー」


●問題が現実になってきたコンクール
 このページでも度々書いていますが、わが国の舞踊コンクールは依然として増加傾向にあり、当然に時期も重なってきます。例えばこの8月中旬には全国3か所で同じ日程で行われるようなことになっています。こうなるとさすがに参加者は分散、現実に参加者の減少が見られるコンクールも現れてきました。こうなると、なお一層コンクールごとに特徴を明らかにし、出場者へのサービスを充実させることが必要になってくると思います。
 ときどき、コンクールの権威(端的にはコンクールの順位、どのコンクールがいいのか)について聞かれることがあります。これについては、伝統・歴史をとるか、賞金などの報償か、その後のフォローか、対象範囲・スケールか、あるいは具体的な入賞者の実態(レベル)か、さらにはコンクールの運営や判定システムか、などいろいろあり、これは参加者の判断にまつより仕方がない、せいぜい私にできるのはそのような情報を伝えることだとお話ししています。むしろ、参加者、出演者の意見や満足度調査(アンケート)をやってみてもよいかもしれません。
●名古屋の世界コンクールでの2人の審査員の発言で感じたこと
 といっても、今回のテーマはこれではありません。[第5回世界バレエ&モダンダンスコンクール]のなかで感じたことです。
 このコンクールは、愛知県の県・市、東海テレビ放送など公私の団体によって構成される実行委員会が主催し、3年に1回名古屋で行われているもので、少なくともスケールの点では、国際的な広さをもつ、わが国最大のコンクールであるといえるでしょう。
 そして、これも前に書きましたが今回は愛知世界博、いわゆる愛・地球博との共催で、これまで2月に行っていたものを7月に変更したのです。
 このコンクールそのものについて具体的に述べるのではありません。ここでは、最終日の結果の報告と、記者会見の場で感じたことが、私が日頃から考えていたこととかかわりがありますので、そのことについて少し記してみたいのです。
 それは審査員の発言についてです。審査員は(社)日本バレエ協会、(社)現代舞踊協会の幹部、地元の責任者に加え、マイヤ・プリセツカヤさん、マッツ・エックさんなど、世界各国の著名な舞踊家、指導者が当っています。ただ、きちんと記録をとっているわけではなく、また多分に私の我田引水的な引用になるというか、その話を聞いて感じたことを記そうと思いますので、どなたがどういったかということ、氏名はあげないようにします。
 ここでとりあげるのは、バレエ関係の方、モダンダンス畑の方、1人づつの発言に関してです。
●バレエ界の教育システムの現状
 まず、バレエ関係の方の発言です。これは下記の内容からもう日本人審査員ということはお分かりと思います。
 その方の発言趣旨=今回参加した国々を初め、海外ではほとんどの国で公立の、あるいは民間にしてもきちんとしたバレエ学校があるのに、わが国にはない。個人的な教室が多く、率直にいって体系的な教育が行われているとはいいにくい。しかし、そのような状況のなかで、上位に入賞した日本人ダンサーがいたのは大変うれしいことである=
 この日本人ダンサーは、女子銅メダルをとった米沢唯さん。彼女は18歳、ジュニアで日本のコンクールを総嘗め、昨年のヴァルナでもゴールドメダルを受賞している、いわば別格の存在。シニア、ジュニアの区別のないこのコンクールで、多くの海外の経験深いダンサーに混じってこの結果を出したのは立派です。入賞者ガラでの演技も見事でした。ちなみに、金のヤナ・サレンコさんは21歳、銀のイリーナ・コレスニコワさんは25歳です。
 それはそれとして、問題はこの発言にある、わが国のバレエ(舞踊)教育制度、さらにその延長線上にあるカンパニーの状況についてです。今回は主として旧ソ連邦諸国、東欧諸国、中米、さらにアジア諸国からも多数参加していますが、そのほとんどが国公立のバレエ学校、芸術大学卒か在学中、そして国公立のバレエカンパニーに所属しています。
 それに対して、日本人出場者は米沢さんを初めとして全員がプライベートのバレエスタジオ、スクール出身で、バレエ団所属といってもその多くがスタジオの生徒を含むプロとはいえない団体です。
 たしかに、このことは周知の事実で、私も再三再四このページだけでなくあちこちで問題提起してきてはいます。ただ、このような内外の有議者のいる場でバレエ協会の幹部からでた意見として、これをどうするかを突っ込んで欲しいと思ったのですが、時間切れになったのは残念なことでした。
 最近は海外のコンクールでも、日本からの参加者は多いのですが、結果は同じアジアの中国や韓国に遅れを取っているような気がします。バレエ人はもう少し本気で危機感をもってもいいのではないでしょうか。もちろん、コンクールの結果だけでいっているわけではありません。
●モダンダンスの作品の創作姿勢について
 次は、モダン・ダンスについての問題です。これは日本人の作品についての感想(なかなか上位に入らないということを背景として)を求められてのものです。これは実は現代舞踊協会の幹部の方の発言です。
 発言の趣旨=日本人ダンサーは技術的には高いレベルにある。しかし、作品をみて、演技をみて、なにをいいたいのか、なにを表現しようとしているのかがよく分からない。たとえば現代に生きる人間として、社会とのかかわり、お互いの関係について、もっとしっかりとした意見をもち、それを的確に表現するという点で物足りないものが多い=
 今回の入賞者のなかには日本人は2人いるのです。しかし、いずれも外国のダンサーとの共演。金メダルの高頂(たかね)さんは中国の谷亮亮さんとの、そして銅の小尻健太さんはバレエ畑、N
D Tの所属で同僚のスペイン、アイルランドのダンサーとの共作、共演でした。
 たしかに入賞者のパフォーマンスをみても、作品のテーマやアイディアはさすがと思わせるものがありました。現在の日本のダンスシーンでは、身体を動かす力は負けていないのですが、非常に難解な作品か、逆にきわめて私的で日常的な作品が主流になっており、社会的でありながら知的でしゃれたものが少ないような気がします。
 これも私の持論ですが、今日的なテーマを説明的でなく、ダンス用語で分かりやすく表現し、伝えてほしい。見た人に理解できるか、通じるかということにもっと気を配って欲しいということではないか、とその方の発言を聞いていて思いました。
 

 
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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