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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.66(2):ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.66(2)

2006.6/29

 
うらわよみ舞踊用語辞典(承前)・―独断と偏見による用語解説―
(後半)

 
●拍手
 観客が舞台、出演者などへ手をたたくこと。
 観客(あなた)はなぜ拍手をするのでしょうか。もちろん、基本的には称賛、感嘆の気持ちを表現し、伝えるためでしょう。またウェルカム、待ってましたの拍手もあります。では、どんなタイミングで。これは簡単には決められません。いい踊りや演技には、遠慮なくといっても、それだけで拍手をするには勇気がいります。古典バレエでは、踊りが独立していますし、踊り終わるとダンサーが観客に挨拶、拍手を求めます(オペラや現代バレエでは拍手が起こると、最後のポウズのままそれを受けることが多いようです)ので、そのタイミングは比較的分かりやすいのです。さらにパ・ド・ドゥの場合には、男性が何回もパートナーの女性を舞台前に導き、消えちゃった拍手を再び強要することがあります。これはとくに発表会で顕著です。でも、発表会では女性はたくさんお金をだし、ゲストの男性はたくさんお金をもらうのですから、このくらいのサービスはやむをえないかも。
 それ以外に微妙なところもあります。ひとつは、ソロやパ・ド・ドゥなどでなく、群舞の場合です。これは、一般には踊り終わって全員が最後のポーズをすれば拍手、ということになりますが、かならずしも拍手があるとは限りません。そこに異様な静寂がうまれる場合があります。とくにポーズをせず、そのまま引っ込んでしまう場合には。生オケですと指揮者がすぐに演奏にかかりますが、テープで拍手の分をあけているとやや悲劇です。といっても、拍手がなくてもその踊りが称賛に値しないというわけではありません。それはその時の観客にもよります。たとえば2日公演で、初日は拍手がなかったが、2日目は同じところで拍手が起きたというケースは少なくありません。これは初日より2日目のほうがよかったということには必ずしもならないのです。なんとなくお見合いをしてしまって(このニュアンスが分かりますね、野球ではよく使います)タイミングを失うことがあるのです。多分、だれかが拍手すると皆が続くことになるのでしょう。でも、拍手をしてもだれも後に続かない場合もあります。そのときは気まずいことこの上ありません。
 解説つきなどの場合には、いいなと思ったら遠慮なく拍手を、というと日本の観客は素直ですから、途端に拍手が多くなります。1幕の終わり頃おそるおそる拍手したらみんなした。それに味をしめて2幕は拍手の嵐というケースも少なくありません。
 拍手を計算するのは邪道かもしれません。でも演出・振付によって拍手の数が変わることは確かにあります。踊りでもそうですが、とくに感じるのは登場の場面です、主役はもとより、その場の芯になるダンサーにも拍手があった方が、見る方だけでなく踊る方にもとてもよいことです。この登場のさせ方にも工夫が必要ではないでしょうか。もちろん、これは出演者の魅力、見せ方の問題でもあります。
 
 ただ、いい演技に拍手をするというのは観客にとっても気持ちのよいものです。でも、ずっと気持ちよく眠っていて、拍手だけはちゃんとする人がいます。二重に気持ちいい、これは玄人の技です。
 拍手はお国柄にもよります。日本人は全体的に静かで、自分の気持ちを強く出さないといわれます。でも最近はそうでもなくなってきました。
 最高の称賛、それはスタンディングオベーション(立ち上がっての拍手)です。前が立つと後ろの人は見えなくなってやむをえず立つこともありますが、日本では舞踊においてはまだ少ないようです。これは国民性か、それに値する舞台が少ないのか。
 それはそうとして、日本国内でも地域性があります。ごく大ざっぱにいうと、拍手は西高東低です。それがもっともはっきりするのが、踊りの途中の拍手。関西ではフェッテが始まるともう3~4回目から拍手が起こります。その点、関東では32回のフェッテでも後半からが多いようです。でも拍手が始まったとたんミスして終わっちゃったというケースもあります。そのリスクを避けるためか、最近では関東でもすこしずつ早まっているようです。これは拍手というより手拍子、音(リズム)に合わせての拍手のはずですが、感動の拍手と手拍子が混じり、しかも手拍子も音とずれたりして、ダンサーはやりにくいだろうな、と同情することもあります。
 古典バレエではまだ少ないのですが、リズムのはっきりした乗りのよい曲がでてくると、観客がそれに乗って手拍子が起こることがあります(ラデッキ-行進曲状態)。カーテンコールなどでは盛り上がっていいのですが、上演中は微妙なところがあります。ある海外の著名な振付者が、こういう状態について、観客は作品をちゃんと見ているのだろうか、舞台そっちのけで自分達だけが楽しんでいるのではないかと疑問を呈したことがあります。そのときは決してそんなことはない、舞台と一体化しているんだと説明しておきました。
 私は、拍手を称賛、儀礼、そして舞台との一体化に大きく分けています。最近心からの拍手が形式的なものよりも増えてきたのは嬉しいことです。舞台との一体化は心の中ではあっても、一緒に手拍子は年齢が邪魔しますね。でも、こちらが舞台上にいる時は別ですよ。
 掛け声の話もしたかったのですが、長くなりそうです。別の機会に取り上げたいと思います。

 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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