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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.71:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.71

2006.11/29
 
いやー、ダンスも団体もいろいろありますね
ー5日間に8つの舞台をー 

 
 
●忙しいこの頃
 このところも結構こ忙しくやっています。「こ=小」忙しい、というと、ただ忙しいというより、なんとなく柔らかくというか、少し意味を変えるニュアンスがあります。
 問題。[こ・のつく言葉を5つあげよ]
 こぎたない、こうるさい、こむずかしい、悪い言葉だけではないですね。こぎれい、なんとなく「こいき」な感じもします。こらぼれーしょん、これはこ間違いならぬ大間違い。
 さて、それはそれとして、とくに先週の5日間、さまざまなダンススタイル、それに対する姿勢に触れることができました。5日間で8つ。まずそれをあげておきます。
11月22日  WE WILL ROCK YOU (QUEENの音楽によるロック・ミュージカル・新宿コマ劇場)
  〃    天体のズー (我妻恵美子 大駱駝艦・壺中天公演)
  23日  ワークショップ WELCOME TO BALLET (調布洋舞協会・調布グリーンホール)
  24日  日本のおどり (舞踊集団「菊の会」・タワーホール船堀)
  〃    コッペリア(PORT+PORTAIL・BANKART STUDIO NYK)
  25日  シンデレラ (松岡伶子バレエ団・愛知県芸術劇場大ホール)
  26日  ガーシュイン・モナムール他(武蔵野シティ・バレエ団・武蔵野市民文化会館)
  〃    ニューダンスホライゾン (NBAバレエ団・メルパルクホール)
 日本舞踊からクラシックバレエ、コンテンポラリー、舞踏まで、さまざまな団体が、さまざまな場所、さまざまな方法で活動を行っています。
 それぞれの作品、団体に違いがあり、特性があるのはもちろんですが、意外な共通点があったり、また見所=セールスポイントがあって、結構楽しめました。なお、27日には芙二三枝子さん(池袋)、28日には鈴木惠美子さん(初台)と、延々続きますが、きりがないので。
●日本発世界の文化に
 『ウィ・ウィル・ロック・ユー』は、70年代初頭に故フレディー・マーキュリーなど4人によって構成され、たちまち世界的な人気を博したロックグループ「クイーン」の音楽によるミュージカル。クイーンのメンバーが監修し、豪華なスタッフ、キャストによって作られた大作で2002年ロンドンで初演、わが国でも昨年に引き続き今年から来年にかけて、再び東京、大阪で計70回以上の上演が計画されているヒット・ミュージカルです。歌とせりふが主体でダンス面からはそれほど見るものはありませんが、人間が画一化された未来で20世紀後半のロッカーたちの自由さを求め、支配者に追われる男女が主役で、プレスリー、ジョン・レノン、ジャニス・ジョプリンなどこの時代のビッグネームが多数、その言葉やエピソードとともに取り上げられ、さらにクイーンの名曲、タイトル曲や「ボヘミアン・ラプソディー」などが20曲以上歌われる豪華版です。しかも、字幕は日本人用にアレンジされており、十分楽しめるものになっています。
 もちろんこれは商業ベースに乗っているものですが、客席はクイーン世代というか中年の女性が一杯でした。男性が少なかったのは昼間の公演のためだと思います。もともとは英国版ですが、日本にきたのはオーストラリアのツアーカンパニー。ここで考えるのは、ロックミュージックというスタイルは、アメリカ、イギリス、オーストラリア、そして日本だけでなく、この作品はヨーロッパ、アジアでも上演されるなど、いわば世界の文化になっているということです。
 日本発の世界文化もいろいろありますが、舞踏も間違いなく、その一つでしょう。その日の夜に見た、摩赤見さん率いる大駱駝鑑の壺中天(スタジオシアター)公演では、横浜からわざわざ見にきた、演劇関係者はじめ多くの外国人が客席に見えました。ここだけではありませんが、ワークショップやスクールには多くの外国人が参加しているようです。
 『天体のズー』は若き鋳態(舞踊家)我妻惠美子さんの初振鋳(振付)作品。彼女に加え男女の新進鋳態6人が出演。自分のソロなどやや気負いも見られましたが、ユーモラスな部分もあり、若手が創作に取り組むのはとても良いこと。このいかにも舞踏の本流をいく活動を切らないでほしいと思います。
 日本発世界へという点では畑道代さんが主宰する舞踊集団菊の会もそうです。彼女は日本舞踊の名取りでもありますが、日本舞踊の大衆化、そして国際化に力を入れています。この日も『日本のおどり・伝統と創造』として、ポピュラーな日本舞踊、楽しい狂言舞踊にポップスや歌謡曲を使った舞踊先集を上演しました。大衆化といっても、演者はみなコンクール上位のものばかり、しっかりした内容の踊りであることはいうまでもありません。大駱駝鑑はじめ舞踏のカンパニーが海外のほうが有名というほど、海外公演を行っていますが、菊の会も国際的です。今年もアフリカ各国を訪問、アジア、アメリカにもしばしば出かけ、大きな評判をえています。伝統文化では、歌舞伎、相撲の国際的評価、愛願も良く知られるところです。
 もちろん、クラシック、モダン・コンテンポラリーの分野でも、海外からの輸入超過から、徐々に海外進出も増加しています。
●新しい試み、新しい人材
 他の公演でもいろいろと特徴があります。まず、古典的なところからみていきますと、松岡伶子バレエ団は、バレエ王国愛知を代表する団体。この『シンデレラ』でも、2日間、主要キャストはダブルを組める厚みをもっています。若手も台頭してきました。名古屋ではその前々週に越智インターナショナルバレエが、越智實さんの傘寿を記念して『白鳥の湖』を新制作、この週23日に私は伺えなかったのですが、後藤千花さんのステップワークスが上田遥さんの作品で公演を開いています。
 武蔵野市は(財)武蔵野文化事業団が中心になって、質の高い音楽・舞踊公演を行っていることで知られています。財団が主催する武蔵野シティバレエ団公演ももう21回になりました。このところ深川秀夫さんの作品をずっと取り上げていますが、今回は『ガーシュイン・モナムール』。独特のタッチで見応えのある、楽しい舞台をつくりあげますが、今回は若いダンサーに注目があつまりました。それは新国立劇場バレエ研修所の第2期修了生、そのなかでも期待されている酒井麻子さんです。彼女は『パキータ』で木村和夫さんとエトワールを、そして『ガーシュイン・モナムール』でも主要なパートを踊りました。パキータではやや緊張と固さが見えましたが、ガーシュインでは伸び伸びと可憐な個性を発揮、高い将来性をみせました。もう1人新国立劇場の下拂桃子さんもしっかりしたダンススタイルの持ち主。もう1作、中原麻理さんのクラシックをベースにコンテンポラリーの手法を加えた『Fish
Tail』も、人魚姫のエッセンスがよく表現されていました。
 NBAバレエ団はわが国ではじめてNPO法人化したバレエ団で、歴史的な作品の発掘、初演版の復刻など古いものに力を入れると同時に、新しい試みにも積極的にチャレンジしています。今回のニューダンスホライゾンは映像を利用しての作品化を試みました。
 もちろん、CGやリアルタイムの映像とのコラボレーションや、映像の世界と現実の舞台との一体化などはすでに試みられており、たとえばパリ・シャトレ座のラモーのバロックオペラ『レ・パラダン』の新演出(モンタルヴォ/エルヴェ)などでも見たばかりです。
 これに対して今回のNBAの特徴は『ガートルードへのレクイエム』(執行伸宜さん作)でも、『N.Yの恋人』(安達哲治さん作)でも、ストーリーやダンスを補強するために映像が利用されています。それは時空を越えた、別次元との交流であったり、過去の出来事の再現であったりして、ある意味で映画的な手法といえるもの。それだけに映像のディレクション、そして音楽、演技とのシンクロが大変だったと思いますが、ある程度の効果はあげており、興味ある試みでした。
●スタンダードを自分なりに料理
 『コッペリア』といえば、E・T・A・ホフマン原作の人形が活躍するコメディバレエの傑作ですが、それを取り上げた前衛的なグループがあります。PORT+PORTAILという、彼らに言わせると「演劇以上、コンテンポラリーダンス未満、キッチュでポップな手法で深遠なテーマに挑戦している」、97年結成の団体です。
 せりふとダンスで進行するのですが、構成が独特。まず、紙芝居で基本的なシチュエーションや登場人物が紹介されます。そのあと、登場人物ごとそれぞれが主役となるストーリーがあって、どれが見たいかを観客が入札で決めるのです。この日は1500円でスワニルダ(ここではキナコ)のストーリーが選ばれ、一応舞台装置も用意してある別のスペースで演じられました。登場人物はフランツ、コッペリウス(いずれも別の名前)など、音楽家も2名、コッペリアのワルツもテープで流されたりします。
 場所は狭いし(BANKART NYK=日本郵船(株)スタジオ)、ダンスも正直いってまだまだ、学生っぽさが残っていますが、7回公演(1回せいぜい30人とはいえ)もやる勇気には感心しますし、スタンダードバレエを自分達なりのコンセプトとスタイルで処理するという姿勢は評価できます。(『コッペリア』はかつてイデビアン・クルーもとりあげています。またラ・ダンス・コントラステは『コッペリア』に加えて、つい先週『くるみ割り人形』を独自の解釈でダンス化しています)。マシュー・ボーン、マッツ・エックを持ち出すまでもなく、外国では古典の現代版、独自の解釈版がたくさんあります。日本でもぜひトライしてもらいたものです。遊び心って大事ですよね。
 調布舞踊協会のワークショップでは、高部尚子さん、坂本登喜彦さんがそれぞれ独自の目的で若いダンサーを指導、そしてこの2人と指揮者の福田一雄さんと私で「チャイコフスキーの3大バレエ」について話合いました。興味ある内容で、いろいろと感じることもありましたが、大変長くなってしまいましたので、この詳細は次ぎの機会に譲ります。
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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