ダンスの動画・コラム・コンクール情報専門サイト

舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオ。
HOME > ニュース & コラム > コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.73:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

News & Column
ニュース & コラム

コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.73:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.73

2007.1/30
 
全国舞踊通信・地域の動向
ーいま、各地でなにがー

 
 
●舞踊界の新しい動き
 昨年の暮れから今年の初めにかけて、いろいろと舞踊界を回顧をする機会がありました。そこには、年間概況や年間ベスト、あるいはこの10年を振り返るという内容のものなど。
 最近の傾向をみると1つの動きがあるように感じます。すなわち、従来の、バレエ教室の生徒と家族、友人をベースとした、つまりおさらい会の延長、展開としての舞踊団化・公演活動から、もっと開かれたものにしようという、別の言い方からすると、新しい視点での体制、活動をしようとする、さらに具体的にいうと舞踊団体、舞踊家の職業化、プロ化の動きです。バレエ団、ダンスカンパニーという団体がまずあって、そこにオーディションなり、勧誘なりで必要な人材を集める方法、そして上演企画があり、それをだれか個人か組織がプロデューサーとなって人材を集めて具体化するという方式です。
 前者の団体中心のものとしては、新国立劇場バレエ団、Kバレエカンパニーがその典型、新潟県の金森穣のノイズム(りゅうとぴあ)も良く知られています。さらに長い歴史をもつところでも、積極的に外部からダンサーを集めようとするところが増えてきました。後者のプロデューサー方式としては新国立劇場の現代舞踊部門がそうですし、振付者中心のものとしては昨年文化庁芸術祭大賞を取った篠原聖一のダンス・フォー・ライフが、さらに愛知県芸術劇場では、まず企画をたて、それに合わせて振付者や出演者を一部公募しながら集めて舞台を作っています。統括団体、たとえば日本バレエ協会、現代舞踊協会の主催する合同公演も形式は似ていますが、これは目的が違います。これらは企画先行でなく、会員に機会を与えるところに主眼があるからです。
 これらの動きは注目に値しますし、充実した高いレベルの活動ではありますが、わが国の舞踊界の仕組み全体を大きく変えるまでにはいたっていません。

●厳しい環境にある地域の舞踊界
 私のこのページの相変わらずのいいかたですが、今日のテーマは多少は関係がありますがこれではありません。
 それは全国各地域の動向についてです。このページだけでなくあちこちで書いたり喋ったりしていることですが、わが国の舞踊界の特徴の1つである大都市集中、この状況に新しい動きが生まれているかどうかということです。
 わが国では大都市圏に舞踊団、舞踊公演が集中し、そのなかでも圧倒的に東京が中心になっています。あとは名古屋が人口比では東京に匹敵しますし、京阪神3地区もそれぞれ頑張っていますが、それ以外は率直にいってないに等しいのです。具体的に考えてみても、東京、愛知、大阪、兵庫、京都以外に、人工百万人以上の都市でも「バレエ団」あるいは「バレエカンパニー」とよべる専門的な舞踊団体があるところはありません。(上記新潟は例外中の例外ですし、特殊な例として毎年夏の山梨県清里のフィールド・バレエを加えてもよいかもしれません)。
 もちろん、優れた指導者、舞踊家は全国あちこちに多数存在していますし、また多くのダンサーがそこから国内だけでなく全世界に羽ばたいているのです。東京、名古屋との比較で考えれば、人工の面では職業バレエ団の1つや2つあってもおかしくない都市もあるのですが、残念ながらマーケットがなく、継続的に職業団体を維持するだけのバックグラウンドがないのです。
 したがって各地の優れた意欲ある舞踊家は、機会を見つけて自分の教室の生徒を主体に、出身の優れたダンサーを呼び戻し、あるいはゲストを加えて公演を行っています。これらのなかにはきわめて充実した、興味ある舞台があるのです。
 問題はここからです。これは、私の個人的な感じで詳細な調査をしているわけではありませんが、どうも、最近各地でのこのような質の高い公演、つまりバレエスクール公演、スタジオ公演が少なくなったような気がするのです。たとえば、各地に質の高い舞台をという意欲的なプロジェクトは生まれるのですが、それがなかなか続きにくいという実態はたしかにあります。もちろんこれには独特の理由もあったかもしれませんが。
 これはもしかすると東京は別としても全国的な問題かもしれません。
 これには理由がなくはないのです。正しいかどうか分かりませんが、一つは地域格差です。地域経済が活発でないと当然財政も苦しくなります。さらに生活にも影響します。一方で少子化も進み、街そのものの活力も失われます。そうなると、人材と資金を必要とする舞踊公演はますますやりにくくなるでしょう。いささか大胆な判断をしますと、にもかかわらずコンクールが増加の一途をたどっているのは、実は公演に代わるものとしての役目をはたしているのかもしれません。
 今年は、この辺に少し焦点をあてて、考えていきたいと思います。

●全国各地の動向は
 ということで、このページでも、できるだけ東京以外の、しかも独自の活動をしている、あるいはしようとしているところを取り上げることとします。
 まず、年末は、これはこのページでもすでに取り上げた北海道の札幌舞踊会、ここは毎年確実に充実した公演を行っています。北海道はいま問題になっている夕張など厳しいところも多いのですが、札幌地区の舞踊は全体として頑張っているといえます。
 今年に入ると、大都市横浜でグランドバレエを一手に引き受けている日本バレエ協会関東支部神奈川ブロックの『眠れる森の美女』、またおなじバレエ協会の群馬地区ではぐんまバレエ・アテリエとして、アドバイスを主体としたソロパフォーマンス、そして翌日に合同公演を開いています。バレエ協会では大阪でも関西支部の合同公演を行ったようです。
 1月の下旬には京都でユニークな舞踊公演が行われました。府立府民ホール“アルティ”主催のA.A.P.第3回ブヨウ公演「音舞に脱個」です。これはアルティ・アーティスト・プロジェクトといい、芸術監督を置き、アーティストを登録して、研修と公演を行いながらプロ化を目指そうというプロジェクトで、舞踊部門が先行して一昨年スタートしたのです。第2回の昨年は「温故知新」として、マーサ・グラハムカンパニーの折原美樹さんを招いてグラハムをテーマとした舞台を作りました。今年は、舞踊芸術監督の望月則彦さんなど4人の
振付家が音楽家とコラボレートした作品が上演されました。
 多くの登録ダンサーから、原美香さん、福谷葉子さん、クードリャ・アンドレイさんなどのトップダンサーを含む四十数名が出演、クラシックからコンテンポラリーまで多彩な作品が発表され、3日閑ほぼ満員の観客を集めています。ここも指定管理者制度を実施していろいろと厳しい条件もあるでしょうが、ぜひ続けてもらいたい貴重な活動です。
 また月末には大阪の北山・大西バレエ団・大西緑バレエスクールの発表公演が、佐々木大さんなどのゲストを交えて行われ、的場涼香さん、美羽礼加さんはじめその独特のテイストに堪能させられました。ここもこれからどう進んでいくか、興味ある団体です。
 これからは、もっと具体的に地域の動向を取り上げていくつもりでいます。

 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

TOPへ