News & Column
ニュース & コラム
ダンスだけでなく、ワイン、フェスティバル、市場などなど、フレンチ生活を山田マミさんによる独自の視点でお伝えします。動画によるダンス映像の配信も見所です!
2020年10月
やっと新シーズン開幕!と思いきや…
舞台芸術はやっぱりマイナーなのかなあ、劇場が開くのか開かないのか、政府からの発表はいつも後回し。禁止は即日でも、開幕するかどうかはのらりくらり。舞台作品はながーい準備期間が必要だということがわからないのか!と怒鳴りたくなる。
10月からあちこちで上演が始まった!と思ったら、10月29日、恐ろし首相の演説「美術館、映画館、劇場は閉鎖」と。今回も「劇場」という言葉は一番最後。ぶぉ~~~
劇場閉鎖前に見れてよかったプレルジョカージュの新作「白鳥の湖」
チャイコフスキーの曲にミックスを加えて、休憩なしの1時間半。現代に時代を移して開発による自然破壊を訴える作品で、ホリゾントいっぱいに映し出されるCGが衝撃的。
森を散歩中に黒服の男たちによって白鳥に変えられてしまった少女。白いドレスがあっという間にチュチュのような衣装に変化する早替えは、なかなか面白いアイディアだ。
一転して高層ビルの広間。給仕たちがテキパキと準備をする後ろに、筍のようにニョキニョキと伸びる高層ビル群のCG。新宿の高層ビル群と重なった。セレブな夫婦主催の次期開発計画のお披露目パーティ会場だったのだ。つまり、開発事業で儲ける権力者の息子がシーグフリードで、彼は父親の事業に全く関心ないから父とは仲が悪く、母親に甘えたい世間知らずのおぼっちゃま風。古典作品との大きな違いは、権力者の両親(古典作品では王と王妃)が踊る場面が多く、最後まで物語の要となっていることだ。また、息子(シーグフリード)と白鳥の出会いも違う。森を散歩中に暴漢に襲われて倒れているところを、白鳥が介抱するのだ。おお、こういう出会いもあったのか。さて、ロットバルトはというと、権力者の事業を乗っ取ろうと企む悪者という設定。そして見事に権力者の全財産を奪い、自然を破壊して建設された工場からの汚水が原因で白鳥は死んでいくというのが筋書き。
白と黒、モノトーンを基調とした美術に、アクセントのビビッドカラーが目を引く。感情に大きく触れる印象はなかったけれど、プレルジョカージュならではの振り付けに「さすが!」と言わざるを得ない場面があって、やっぱりすごい振付家なのだなあ。
この公演の前にプレルジョカージュが女性の受刑者とともに作った作品「Danser sa peine」のドキュメンタリー映画が上映された。これが素敵だった。
9㎡の独房から唯一外の空気を吸えるリハーサル室。やる気のない若い女性と面と向かって話し合い、調和が取れなかったグループが段々と変化していく。そして、プレルジョカージュの本拠地、エクサン・プロヴァンスのパビヨン・ノワールでの公演からモンペリエダンスフェスティバルでの上演までを描いている。ダンスを通して変わっていく女性たち。元気をもらえる作品です。「Danser sa peine」でクリックするとヒットするかも。
今から思えばクレルモン=フェランにいたのは正解だった。劇場閉鎖になる前にこの作品が見られたから。この後12月に予定されていたパリ公演は中止になった。
それにしてもシビアーな入場だった。荷物検査→手の消毒→配布されたマスクに代えてから会場に向かう。指定席もへったくれもなく、係員に指示された席に座り、開演まで席を立ってはいけない。つまりトイレにもいけないのだ。パンデミックが起きたら即刻劇場閉鎖だから係員は皆ピリピリしている。そしてそれに従順に従うフランス人にも驚いた。舞台の半分しか見えない席に案内されて、文句を言うのは私くらいだった。。。
もう一つ、クレルモン=フェランの新しい劇場で見たのが「Société en chantier」。
スイスの演出家シュテファン・ケーギの作品。これがあっと驚く演出で、劇場の舞台、客席、舞台上の回廊などをくまなく使って、時間と空間を一致させる演出におったまげた。すごいなあと思って家に帰ってからチェックしたら、日本でもすでに何度もパフォーマンスやインスタレーションをしている気鋭のアーティスト集団リミニ・プロトコルなのだった。お勧めです。
パリ・オペラ座公演も見た~
パリ・オペラ座は、二つの劇場が改装工事で閉まっているはずだったけれど、ストにコロナで収入激減+舞台に立つチャンスがほとんどない=これはまずい と言うことなのだろう、オーケストラピットを塞いだ張り出し舞台で2演目、「ルドルフ・ヌレエフ」と「オペラ座のエトワール」。
ロイヤルボックス以外の桟敷席に照明や音響設備を置いての公演。
「ルドルフ・ヌレエフ」は、ヌレエフが振り付けた作品の中から6作品の抜粋。くるみ割り人形、サンドリオン、マンフレッド、ロミオとジュリエットにドンキホーテ。ん?5作品だけ?レオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェが踊るはずだった「眠りの森の美女」は、怪我なのかコロナなのか、上演されなかった。残念。
久々のガルニエ宮でウキウキしながら中に入ったら、なんと最前列の席!うわ~い!!と興奮したけれど、近すぎるし写真を撮ったら鼻の穴しか見えない。
ドロテ・ジルベールとポール・マルクは「くるみ割り人形」の一幕と二幕のアダジオを踊って、2回登場。ジルベールはいつも通りの安定した踊りを見せ、対するマルクは少し緊張気味だったけれど、まずまず。エトワールの中にプルミエダンサーのマルク。う~む、これはエトワール昇進の匂いがする。
アリス・ルナヴァンとフローリアン・マニュネの「サンドリヨン」も悪くない。コンテンポラリー専門と言われがちなルナヴァンだけれど、トウシューズのテクニックだって一流
ときっちりアピール。
「ロミオとジュリエット」を踊ったミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマン。これは、涙うるうるものの出来栄え。好きよ、好きよ~、好きよぉ~~、ときめくわ~のドキドキ感が自分のことのように感じられるほどの臨場感のある踊りで、これだけで今日は終わっても良いというほどの満足感が得られた。
「白鳥の湖」を踊ったアマンディーヌ・アルビッソンとオードリック・べザール。「ロミオとジュリエット」があまりにも素晴らしかったからか、この二人の「白鳥の湖」が味気なく感じられた。
今日活躍したのは、プルミエダンサーのフランチェスコ・ムーラ。
まずはソロで「マンフレッド」を感情豊かに踊って大喝采。ラストの「ドンキホーテ」でもヴァレンティーヌ・コラサント相手にキレのある踊りを見せて、今日のスターという感じ。
コラサントはキトリのような役が似合う。
コロナ禍ゆえ、ソーシャル・ディスタンスを取るために50%の客入れ。いつもより人が少ないからかちょっと寂しい。
ん?いつも立ち寄るショップの反対側に、別のショップがあることに気がついた。
中に入れば、
きたろうのお父さんがいっぱいいると思ったら、スピーカーなのだった。これしか売っていない。売れてるのかなあと余計な心配をしてみた。
さて今度は「オペラ座のエトワール」
幕開きはマチュー・ガニオのソロ、アラステア・マリオット振り付けの「月光」で、立っているだけで惚れ惚れする美しさ。踊れば更なる奥深さ。進化するエトワールに心奪われた。
次のリュドミラ・パリエロとユーゴ・マルシャンのハンス・ファン・マーネン振り付け「3つのグノシェンヌ」は、悪くないけれど何か物足りない。
マーサ・グラハムの「ラメンテーション」をセウン・パクが感情を込めて踊ったけれど、踊れるダンサーにこの作品はもったいない。
「椿姫」の名場面を期待したけれど、全く盛り上がらない。ステファン・ビュリオンはもたもたしているし、ローラ・エケに至っては振り付けを追っているだけにしか見えない。お互いに目が合った時だけにっこりして、それ以外の表情は硬いまま。これが愛する二人の光景か?初日にキャストミスと酷評されていたけれど、本当だった。
「瀕死の白鳥」を踊ったリュドミラ・パリエロ。さすがテクニック的には完璧だけれど、これまた一味足りない。あっさりと美しく朽ちていったからかな。
最後はユーゴ・マルシャンの「ダンス組曲」。チェロ奏者との掛け合いがオシャレなロビンス作品だ。お茶目に踊っているけれど、いつものダイナミックさが感じられなかったのはなぜだろう。
めっちゃ期待していたオニール・八菜とヴァンサン・シャイエの「ヘルマン・シュメルマン」がなぜか上演されなくてがっかり。このがっかり感が最後まで尾を引いたから、今夜は何を見ても面白くなかったのかも。う~悔しい!ちなみにこの二人のデュエットはだれもが絶賛する出来栄えだったらしい。
カルダン劇場の客席に唖然
ソーシャルディスタンスもここまでくればお見事。
椅子そのものを引っこ抜いてる。引っこ抜けなければ、布を貼って完全封鎖。
ここはテアトル・ド・ラ・ヴィル(パリ市立劇場)の工事中に使っているエスパス・カルダン。コンコルド広場の近く、シャンゼリゼ大通りから少し入ったところにある。
係員が同伴の人数を見て案内してくれる。3人連れなら3席並んだ席にという具合に。良い席はやはり早い者勝ち。
今日はアクラム・カーンの「チョット・クセノス」。「チョット」は日本語が由来で、カーンがソロで踊っていたものを、ダンサーと演出を変えて作り替えた作品シリーズ。日本では「チョット・デッシュ」が上演されていた。
カーン版の「クセノス」は、第一次世界大戦にインドの宮廷舞踊家だったダンサーが突然徴兵されて戦地に送られる話だったけれど、「チョット」版は愛情深く生まれて育った子供が戦地に送られる設定。大きな蓄音器は実は監視の目で、違反をすれば警告音が流れるスピーカー。そして前線へ送られて、銃弾が飛び交う恐怖の日々を過ごす。毒ガス防御マスクを犬に見立てて一人で遊んで気を紛らわすシーンが悲しい。遠く離れた故郷を、平和だった日々を思い出して、それが唯一の心の支え。仲間はどんどん死んでいく。そして彼もまた神の手に包まれて旅立っていくラスト。
カーン版はめちゃ重かったけれど、チョット版は少し軽いので見やすいかも。演出変わればここまで変わるのかと、新鮮な気持ちで見ました。演出はマリオネットで有名なスー・バックマスター。
コロナ第2波到来で、新たな流行語が飛び出す
やっぱり来たコロナ第2波。9月の新学期を迎えて学生が戻ってきた途端に始まった。
6月の規制解除後の感染者拡大は、結婚式などで海外に住む親族を招待した事に始まったと聞いた。入国はスルーだったからね。今回は学生だ。体力がある若者たちは重症化しにくいから、自分には関係ないと思っているのだろう、顎マスクで濃厚接触を堂々としている。これじゃあなあ、、、。新規感染者が1日で5万人出たな~んて、嬉しくもない記録を更新しつづけている。
そしてマクロン大統領はついに切れて、10月14日夜のテレビインタビューで、パリとその近郊イルドフランス地域圏と8都市、リヨン、エクサンプロヴァンス、マルセイユ、モンペリエ、グルノーブル、リール、サンテティエンヌ、ルーアンに夜間外出禁止令を発令。これを「クーヴル・フー」と名付けた。これは中世に火事を防ぐために暖炉や窯の火に蓋をして消せと言った規制に始まって、第2時世界大戦中にも発令された言葉。
3月の外出禁止令の時は「コンフィヌモン/confinement」だった。辞書には「閉じ込める(閉じこもる)こと、隔離、密閉とある。いっそのことなら最近フランス語にもなった「引きこもり」にしてくれてもよかったのになあ。
10月17日の週末から4週間、様子によっては12月初めまで、夜9時から朝6時まで外出禁止となり、違反するともちろん罰金で、1回目が135ユーロ、2回目が200€、4回目ともなるといきなり3750€と6ヶ月以下の禁固刑つき。こりゃたまらん。
もちろん例外も認められる。保険医療機関関係者や通院、薬の購入、仕事、フライトや列車の到着が9時以降の場合、介護、そしてペットの散歩。以前に鶏だの羊を連れて歩いていた人が罰金を取られたという話を聞いたけれど、夜遅くにペットのワニでも連れて歩く人が出るのかも。
6人以上の集会は公私とも禁止という事は、家でパーティもできないわけで、じゃあ9人家族はどうなるのだろうかと素朴な疑問。店舗では一人当たり4㎡の距離を保つようにと。小さな店は、客が一人でも満員御礼ということになる。順番待ちは外ですか。
レストランや映画館のオーナーはこの規制に激怒。1時間延ばして夜10時からの規制にしてくれれば、どれだけ経済的に救われることかと。多くの劇場は「ついに来たか」と言う感じで、時間を繰り上げての上演をするところが多い。ただ、席は一人空席を設けてとなると、すでに満席の公演は頭が痛い。客として9時までに家にたどり着けなければの心配は、入場券を見せれば許されるそうなので安心した。
とっころが、10月28日夜8時、大統領がテレビで「30日午前0時から外出禁止です」と。
びええ~。今私パリ、引越しの準備中。明日中に自宅に帰れってことか?じゃあ引っ越しできないわけ?
11月1日まではバカンスに出ていた人の帰宅は認めます、明日詳細を発表しますというけれど、またどんな発言が飛び出すかわからないから、慌てて帰ることにした。しかし、慌てたのは私一人ではない、みんな列車の予約サイトに殺到したから、ネットがパンク。夜9時過ぎだから駅の窓口なんぞ開いていない。格闘すること1時間。いつもの3倍の値段で切符が買えました。この際帰れるだけマシと思わなくてはいけないのだ。
そして翌日29日、外に出てみたら、パリを脱出する車で裏道まで見たこともない渋滞。マクロンさん、お願いだから禁止令は1週間の余裕を持って出してください。もうぐったり。
マスクの新しい使い方・効用発見
フランスの公共交通機関に乗るときはマスク着用義務です。で、パリ脱出の列車に乗りこんだ。席に着いたら、
臭い!
かなり強烈。向かいの席に座っている女性が匂いの元らしい。全席指定席だから席は移動できないし、満席。このまま3時間半耐えるのは不可能。どうすべ。あ、そういえば今私がしているのは布マスクだ。これを95%花粉症カットのマスクにしたら、
匂わない!
密度の高い不織布はコロナ対策だけでなく、匂いカットにも有効だったのだ!
不織布マスクよ、ありがとう。あなたは臭い体臭をフェロモンと思って撒き散らすフランス人社会で生き抜くための必要不可欠物資だったのね。
ちなみに体臭がほとんどない私のことを「考えられない」「異常だ」と人は言います。
フランスは世界中のイスラム教とを敵にしたかも
学校の教師がイスラム教の預言者ムハンマドの絵を授業で生徒に見せたことで、斬首された事件。マクロン大統領が「フランスには表現の自由がある」とこの教師を擁護したことで炎上した。
宗教を持たない私には、なぜ授業で他宗教の反感を買うようなことをするのか理解できなかったのだが、
「授業では口で説明したことは目で見せて確認させるのが当たり前。見せなければ想像力豊かな子供たちは、より危険な方向に進んでしまうかもしれないから。」
という答えが返ってきた。これがフランスの教育方針。ふ~む、そういうものか。。。
それにしてもフランスは寛容な国だと思う。多くの移民を受け入れ、生活保護を与え、教育を無料で受けさせる。教師を殺した若者は、チェチェンからの政治的亡命者で、100km離れた場所からやってきて事件を起こしたという。しかも、20年有効の滞在許可証を持っていたと。フランスではフランス国籍を取らない限り永住権はなくて、10年ごとの滞在許可証の更新が普通。それなのに、この亡命者は20年有効の滞在許可証を持っていた。なんで?10年ごとのしち面倒くさい更新手続きでイラつく私には羨ましい限り。亡命者になったろか~!
教師斬首事件の後、パリ近郊のモスクの偉い人がラジオのインタビューで「彼はイスラムの掟を破ったから頭をなくした」という表現をしたことに驚いた。「殺された」とは言わない。「頭をなくした」のだと。宗教観の違い、文化の違い。
「これまでの人類の歴史の中で、宗教は宗教の名の下に人を殺してきた。だから私は宗教をやらない。」といった知人の言葉が蘇る。
しかも犯罪者がテロリストでもそう簡単に国外追放できないらしい。人権優先なのだそうだ。
そういえば、もう一つ驚くべき法律がある。
他人の家をスクワットしたが勝ちなのだ。
バカンスから帰ってきたら、あるいは自分の別荘に行ったら知らない人が住んでいた。鍵を変え、電気の名義を勝手に変更して、自分の家だと主張する強者もいるらしい。自分の家なのに住めない大家は慌てて警察に連絡するも、住んでいる人を保護する法律があるからすぐには追い出せない。大家は裁判を起こして勝訴となっても何も状況は変わらず、さらに次の手続きをして、警察の強制退去を行ってもらわない限り自分が住むことはできないのだ。ここまでするのに3年かかるのが普通。
しかもフランスの法律では、11月から3月末までは家賃を払わなくても住んでいる人を追い出すことはできない。さて、4月になったら追い出せるのかというと、そう簡単にはいかない仕組み。次に住む場所が見つからなければまた追い出せない。そんなわけで軽く3年かかるのだ。しかも、不法侵入者に金はないだろうから、弁護士代、行政手続きなどの費用は大家の負担。
なぜ自分の家なのに住めないのか?
今年はこのように家をスクワットされた人が続出。これはおかしいとようやく政府が法律を変える動きに出たとの報道。でも法の改正に何年もかかるのだろうなあ。
今月のパリ
ガルニエ宮を隈なく観察したい方は、どうぞ、ここから覗いてください。
その横の機械では、オリジナルコインの販売。商売商売!
パリは北京を目指す。
パリ市長の計画は着実に進んで、自転車優先道路がどんどんできている上に、コロナのおかげで自転車が売れている
メトロは結構混んでます。3密を避けるのはム~リ~。
フランスの食材
お隣さんからもらったカボチャ。でかい。夏の水不足のおかげで水っぽくないカボチャだった。
ウズラ、使用前と後
とにかく原型を想像しないことがコツ。鶏なんか頭や足の爪付きのこともありますから…。そうすれば、美味しい~!とほっぺたが落ちること間違いなしのフランチ!
劇場で開かれる市場は人気のイベント。ウズラはここで買いました。ウズラの卵は日本でもお馴染みだけれど、親を食べる習慣は日本人にはないと思う。