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Interview
インタビュー

内田香 Garden vol.29

華やかさ、強さ、しなやかさ。内田香の放つ魅力は彼女の舞台そのままである。その快活で明瞭な語りに、独自のダンスの向こう側が垣間見える。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi

トゥシューズが履きたくて


「冷めないうちに召し上がれ!」
初めての発表会

「彼女のredな味」とか 「なみだ」、「冷めないうちに召し上がれ」とか、内田さんは早くにご自分のスタイルを打ち出しています。それはどこからきているのでしょう?

言葉にするのが難しいのですが簡単に言いますと閃きでしょうか?インスピレーションから掘り下げることが多いです。
日々日常の中で突然閃いたことを自分の中に幾つも留めておき、心の中の引き出しからイメージを取り出しながら時代の雰囲気や自分の心境とリンクさせて作品のテーマを決めています。例えばテーブルを使用した『冷めないうちに召し上がれ!』では、4人でテーブルを囲み、話し、笑う、こんな雰囲気をダンス化していこうと、実験しながら作り上げていきました。メンバーとは、友達のような感覚です。私は、同じ舞台に出ているので先生と呼ばないでとよく言っています。今は、新しいメンバーも入り年の差も出ていますので友達感覚ではいきませんが、先生と生徒の関係は舞台には必要ないと思います。もうひとつ、『彼女のredな味』では、写真を見たのがきっかけです。砂漠に赤い女が横たわっている。そこから、赤・熱い・甘い・危険・秘密・強さなどイメージが膨らみました。CMでよくみる資生堂の椿みたいな感じです。『red』は、私の作品、人生に大きく影響した作品です。

それがおもしろいですね。5歳からダンスを始められたとか。やはりきっかけはお母様ですか?

私は男兄弟に挟まれていたせいかとても活発で所謂おてんば娘でした。もっと女の子らしく、と躾も兼ねて習わされたのがきっかけですね。モダンバレエの高橋なよ子先生、そのあと小学2年で大久保苑子先生につきました。大久保先生は、モダンダンス以外にミュージカル、タップ、民族舞踊、詩吟で踊ったり、いろいろな分野でもやる先生でした。今では、大変役立っていますが、その頃の私は白鳥やジゼルのような美しい踊りに憧れていました。いつ自分は、トゥーシューズをはけるのか・・・。クラシックバレエとモダンダンスが違うものだと知らなかったんです。(笑)

早くから踊りで行こうと決めていましたか

小学校の文集には、将来はバレエの先生になりたいって書いていましたが、父が航空会社に勤めていたのでスチュワーデスに憧れたり、海外で生活したいとも思っていました。でも高校2年の時、初めてソロを創作しました。これが一番大きく影響したと思います。近くの集会所を借りて練習し、動きや音楽、衣装を考えることにも興味を持ちました。いろいろなオープンクラスや念願のバレエクラスやジャズダンスにも通うようになりました。

それはやはり踊ることにも創作にも向いていた、ということで。内田さんの作品は骨格がしっかりしていてフェミニンですね。

フェミニンという意味では、女性の多面性や日常を取り上げてダンス作品を創ってることが大きいと思います。カンパニー名のRoussewaltz(ルッシュワルツ)は、英語と仏語から作った造語です。赤毛のワルツという意味です。赤い髪が舞ってるイメージで舞台空間を占めてみたいという、これも閃きですね。


HIROE MASAMI

ヴェリーショートじゃ無理ですものね(笑)。

最初は私もショートヘアだったんですがRoussewaltzを立ち上げてからロングヘアになってきました。小さい頃は、髪は長かったものの、お転婆だったのでいつも縛って下ろさせてもらえなくて、憧れていたのですね。リサイタルでは、髪をテーマにしたシーンをいれます。髪の長さや色をわざと強調したり・・・(笑)

ダンスを始めてから迷いはありましたか?

もちろん、作品づくりや技術的なことで悩むことはありました。ダンサーが輝くのは舞台の上だけです。それ以外は、朝から晩まで毎日稽古場通い、練習の日々にいつも疲れていました。しかし、本当に踊りが大好きでひたすらレッスンし、うまくなりたいと思っていました。

舞踊と関わってきてこの10年で環境は変わったと思いますか?

学校教育のカリキュラムにも加わり、ダンスに感心を持ってもらえることは大変嬉しいことです。ヒップホップの人気に勢いを感じますし、バレエも社会人を中心にクラスが増えています。

楽しくダンスを

ご自身についてはいかがですか?

Roussewaltz結成当初は、自分で動きメンバーに振り移し、ほとんど全て私の振付けだけで作品を創っていました。現在はメンバーからもいろいろとアイデアを出してもらって、それを組み合わせまとめ、揃えたり、壊したり・・・話し合うことが増えています。メンバーの個性がもっとうまく引き出せないか、他の方法やり方はないかと選択の幅が広がり楽しいです。

ご苦労は?

小さなカンパニーですので、リサイタルするにしてもお客様を増やすことは、とても大変です。知り合いやダンサー同士だけではなくコンテンポラリーダンスを知らない観たことのない方々が劇場に来て下さると本当に嬉しいです。


HIROE MASAMI

公演の前などは、どのように?

ホームページでお知らせし、公演の告知映像などを作りアピールしています。おかげ様で映像を見て来て下さる方も増えています。

カンパニーにはいろんな方がいらっしゃるんですか?

子供の教えやヨガの講師、学校のダンス部のコーチをしていたり、大変ですが仕事やアルバイトをしながら踊っています。

ほんとに皆さん偉いですね。

限られた時間の中でいろいろな思いをしてリハーサルに来てくれています。だから私は、そのメンバーの為にも自分の為にも、いい作品楽しい作品をつくりたいと思います。リハーサルでは生き甲斐になるような時間、もちろん辛く厳しいこともありますが、踊っていても観ていても楽しい活力が沸く、そんな作品を目指します。コンテンポラリーだからといって難しくある必要もないと思いますし。

だからイメージ豊かでわかりやすい内田さんの作品が女性の観客だけでなく男性にも支持されるんでしょう。

私にはそれがすごく大事なんです。とにかく、明るい作品でスッキリしてお客様には帰っていただきたい。もちろん暗いテーマのなかにもおもしろさもあるし、映画でもすごくスッキリする作品もあります。ただ暗いだけじゃなくて。

内田香

内田香 Kaoru Uchida

(Rousseewaltz主宰/振付家/舞踊家)

各コンクールにて第一位、文部大臣賞を受賞。
現代舞踊協会制定新人賞「ラ・ギャルソンヌ」、群舞賞「彼女のredな味」、村松賞、舞踊批評家協会新人賞などを受賞し、文化庁派遣在外研修員としてパリに留学。
帰国後 2003年Roussewaltz(ルッシュワルツ)を設立。
現代女性の多面性や日常をスタイリッシュに描く作品を次々に発表している。
2006年1月には「冷めないうちに召し上がれ」をニューヨークとサンチャゴで上演。N.Y.タイムズ紙では「絶えず魅力的な舞台、Roussewaltzの全プログラムを観ることが出来たら、何と素晴らしいことだろう。」と評される。
2006年舞踊批評家協会賞「なみだ」、現代舞踊協会制定江口隆哉賞受賞。
2012年 現代舞踊協会制定時代を創る現代舞踊公演優秀賞受賞「moon」。
2015年 都民芸術フェスティバルにて新作「concentrationー記憶のカケラー」を発表。

 

(2015.3.24 update)

内田香 Garden vol.29

華やかさ、強さ、しなやかさ。内田香の放つ魅力は彼女の舞台そのままである。その快活で明瞭な語りに、独自のダンスの向こう側が垣間見える。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi

まず生徒より稽古すること

ところで、ご自分ではお年というけれど、内田さんは肉体的にもほんとにお若い。長く踊り続けて、ご自分に課していることはありますか?

生徒より稽古すること。ダンスのレッスンはもちろんですが、いろいろな意味での身体づくりをしなくてはならないですね。足を高く上げる、たくさん回転する為の練習ではなくて、自由な身体になる為の稽古。また、作品を創っているのですから常に感じると言いますか、アンテナを自由に張り巡らせて小さな物事に敏感かつ繊細に反応したいです。これをダンスにしたら、どうだろうか?楽しいか?広がるか?とか。最終的には、面白いだけではダメなのですが、まずおもしろい作品を創ろうと思っています。

おもしろい、とは?

いろんな意味で魅力的であったらいいなと。人間、生き方、・・・らしさが見え隠れするような。直接言葉で伝えるのではなく、人が人に何かを感じる。おもしろいことだと思います。感じ合えるかどうかは、どちらかが閉じていては成り立ちません。舞台上でダンサーが解き放されて、音や光、空間がひとつになり、その世界にお客様も引き込まれて繋がって、何かを感じ合う瞬間が生まれればいいな、と思います。

「spur」KOUTAROU NEMOTO

チャレンジする人が好き

カンパニーを率いていらしてダンサーに求めることは何ですか?

素直でチャレンジを怖がらないこと。舞台上で演劇的なこともします。ピルエットで何回転も出来てもハッと驚いた表情できる?と言いますと、怖がり恥ずかしがってしまう人とすぐに反応できる人がいます。やはりチャレンジする人が好きです。そういう人はとても素直だと思います。動きや世界観に限界なく、何でも取り込めるダンサー。柔軟な肉体と精神を備えるためにも日々の稽古は大切だと思っていますので、稽古しない人は、私はダメですね。

チャレンジすることは自分の解放につながるといわれますが、これがなかなかむずかしい。でもやっぱりダンサーとして舞台に立つということは、観客にも解放感を分けてあげることだから。大変ですが、稽古を重ねてできていくこともあるでしょうね。

ほんと、私たちダンサーは自由に舞台に立てるために稽古しているんですよね。


「真実」 根本浩太郎

静止、歩く、走るはいつまでたってもテーマ


ニューヨークにて
「ブルーにこんがらがって・・・’99」

華々しいキャリアを積んできた内田さんにとって、プレッシャーはどうですか?

なるようになれと(笑)。目の前の作品にただ夢中でした。学生時代も美しく踊る自信がもてなかったのと激しい感情の表現がしたくて、女の情念をテーマに『夜叉ケ池』など、おどろおどろしい世界につかっていました。

それを目指してらした。

本当に美しく華麗に踊る人はたくさんいましたし、私の個性は妖艶な世界を表現することだと思っていました。でも何度かニューヨークへ行った時、ちょっと楽しく踊りたくなったんです。内面にこもる自分だけでなく、もっと解放した作品を踊ってみたくなりました。思い切ってずっと伸ばしていた髪をバサッと切って下ろして踊る。ココ・シャネルをイメージして、当時タイツにジョーゼットが多かった衣装を私は素足とワンピースで踊りたい。今回は、ファッションから作品をつくろう、こういうのもあるかもしれない・・・。そして、『ラ・ギャルソンヌ』ができました。新人賞を頂いた作品ですが、ここから作風が変わってきたかもしれません。

内田さんの先生は金井芙三枝先生。金井門下の方々は優秀ですね。

金井先生がストレートにわからないと言ってくださった。当時は辛かったけれど、今にして思えば大切なこと。何をやりたいのか、何を考えて踊っているのか伝わらないと。コンクール作品では、ここで多くターンして、もっと高く跳びなさいと注意されがちですが、そうではなかったです。当時から、作品づくりを意識して指導されていました。私も若かったので当時は理解できてないことがほとんどでしたけど(笑)。

それはすごい大きなご経験ですね。金井先生の言葉で強く残っていることはありますか?

たくさんありますよ。最初のころは、そんなにガンガン動くんじゃない!止まりなさい!と。その止まることの大切さを言われました。私も負けずに一生懸命新しい振りを考えて、先生に見てくださいと踊りますが、動かないで、歩くだけでいい、と。それは、もう大変でした。

それはご自分のなかで生かされていると思いますか?

とても生かされています。動くことより何もしないことが、今の自分の中でも課題になっています。身体がきいてよく動く踊りでも、ふとしたことがこちらにグッと響いてこない。要するに止まることが生かされていないから。止まろうと思うのはすごいことで、いつ動くかいつ止まるか、その選択が大切。静止、歩く、走るはいつまでたっても課題です。

踊りは奥が深いですね。

(2015.3.24 update)

内田香 Garden vol.29

華やかさ、強さ、しなやかさ。内田香の放つ魅力は彼女の舞台そのままである。その快活で明瞭な語りに、独自のダンスの向こう側が垣間見える。

Interview,Text : 林 愛子 Aiko Hayashi

自分のなかの踊りの神様

もうひとつ印象的だったのは、「内田さん、あなたは何のために踊っているの?」と金井先生から聞かれ、いろいろ考え「お客様のためでしょうか・・・」と答えました。「違うわよ、自分のためよ」と。「自分の中の踊りの神様のためよ」と言われたこと。ああ、神様ありきだなと思いました。もちろんお客様は大切です。けれども、まず踊るにしても、創るにしても・・・私のため!
今でもよく覚えています。

自分のなかの踊りの神様。いい言葉ですね。それから、踊りは本能の力も大きい。

それはものすごくあると思います。ちょっとした動きでその人の育った経路や生き様が見えたりします。

小さい規模でもリサイタルを


「彼女redな味」 山口晴久
「PICNIC」 根本浩太郎

そうですね、計算じゃないものが出ます。そうやって生まれた内田さんの赤は強烈ですね。

最初につくった群舞作品が『彼女のredな味』そこから赤いイメージの作品が増えました。私の髪も赤に染まり、抜け出せなくなりカンパニー名までになりました。

さて今後についてはどのようなビジョンをお持ちですか。

一作一作大切に創って、大切に踊りたいと思います。より自由に進化し続け自分の世界を深めていきたいです。劇場の規模は小さくても大きくても構わないのですが、作品を創っていきRoussewaltzを幅広い方々に観ていただきたいと思います。

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思い出の品

「納豆」
納豆は、常に冷蔵庫に入っています。リハーサルを続けて、大詰めになると納豆を食べたくなるのは、やはり落ち着くからなんですね。子供の時から、贅沢盛りの時は卵を入れて、からしとお醤油、ごはんで食べるのが大好きでした。だから、かき混ぜるのはむちゃくちゃ速いですよ。子供の頃は母が用意してくれるものを食べていましたが、今は「うまあじ」というのが気に入っています。納豆は私の元気の素なんです。

 

思い出の品

「練習着」
赤い稽古着は、見つけるとつい買ってしまいます。本番では、必ず身につけます。

 

思い出の品

「ノート」
いつでも持ち歩き、思いついた時にアイデアを書き留めておく。

 

林 愛子 (インタビュー、文)
舞踊評論家 横浜市出身。早稲田大学卒業後、コピーライター、プランナーとして各種広告制作に関わる。そのかたわら大好きな劇場通いをし、’80年代から新聞、雑誌、舞踊専門誌、音楽専門誌などにインタビュー、解説、批評などを寄稿している。
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