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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.2:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.2
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「独断、偏見、かつお遊びのコンテンポラリーダンス論 |
ー私的コンテンポラリー度チェックポイント」
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「そんなのどうでもいいじゃん」とか、「こだわる必要ないよ」などという人も多いと思います。それは、「コンテンポラリーダンスってなに?」とか、「モダンダンスとどう違うのかしら」といった疑問についてです。
芸術のスタイルを厳密に定義することなどできません。とくに現代芸術はなんでもありみたいなところがありますから、それを分かるようにきちんと説明するのは不可能といってよいでしょう。にもかかわらず、このような質問は私もよく受けますし、いろいろな説明が行われています。先日(9月19日)に開かれた日本ダンスフォーラム(JDF)のシンポジウムでもこのことがとりあげられました。
ある人は『現代(今)でなければ生まれないダンス』といいます。『一人一人のダンス』などといういい方もあります。たしかにそういうことではありますが、ではそれは具体的にどういうダンスなんだ、といわれると判然しません。そこでさらに創造性と身体性、技術性、あるいは目的と手段、手法の関係などが問題にされるわけです。ただ、率直にいってこの辺の議論をつきつめればつめるほど、モダンダンスと具体的にどう違うのかが分からなくなってきます。というのは、モダンダンスサイド、たとえば現代舞踊家といわれる人だって、自分もそう思ってやっているというに違いないからです。
私も、本質論とはいえないのを承知で、質問に答えて、あるいはこのページでも、目に見える、あるいは具体的に指摘できる部分で「舞踊」の流れのなかで、[コンテンポラリーダンス]を性格づけしてきました。ここで、多少(相当)の遊び心で、それをもうちょっといろいろな面からとりあげ、モダンダンスと対比させてみたいと思います。
いいかえれえば、コンテンポラリー度チェックポイント。これを10の項目から取り上げてみました。本気になって怒らずに読んで下さい。
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コンテンポラリー度チェックポイント |
1.テーマ、作品構成 |
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a.抽象的、哲学的、深淵で難解、重いテーマが多い、全体の組み立て、文脈に意味をもたせる |
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b.日常的、個人的、どちらかというとユーモラスな感じのものが多い。コント、エピソードのようなものが並び、文脈という意識はあまり感じられない |
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*a.では「芸術」、あるいは「哲学・思想」にこだわる面が多い(とくに評論としては)。b.では「日常性」「エンターテイメント性」に重点があるようです。この分類には異論があるでしょう。 |
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2.動き、踊り |
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a.技術の高さは重要。たとえば、爪先、ひざ、回転や跳躍などの動きの壮快さ、あるいは群舞の統一性、相互のコンビネーションなどにこだわる |
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b.従来の意味での技術が高くない。自由気まま(カジュアル) な、コミカルな、そして日常的な振舞いが主体の動き、倒れこみ、素人っぽさがむしろ重要で、ユニゾンも自分の動き(ピタットそろえるという意識は弱い)。 |
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*ここも異論が大きいところ。オフバランスのダイナミックな動き、絶え間ない上体、腕、脚のアンバラスな動き、あるいは暴力的ともみえるデュオはb.という人が多いでしょう。でもこれは上記のb.とは、動きにたいする基本的なコンセプトが違う、むしろ従来のa.の発展形と思うのです。これがスタイル判定の重要なポイントであり、ダンス観の基本であるともいえるかもしれません。 |
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3.出演者の性格 |
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a.個々が象徴的な意味、具体的な役割をもつ、あるいはダンサー(動き手)として登場し、全体として作品の意味を表現する |
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b.本人(個人)そのもの、あるいは記号的人間 |
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*私は、ここが一つの重要なポイントだと思っています。舞台上にいるのは何かに扮したダンサー、あるいは作品の意味を表現するための手段としてのダンサーか、それに対してAさんやBちゃんそのもの
か、あるいは架空であってもそのあたりにいそうな人間かの違い。これがa.b.の決め手になるような気がします。
たとえば、H・アール・カオスの白河直子さんは稀有の存在感をもつダンサーですが、作品における彼女は「白河直子」ではないのです。それに対してコンドルズや珍しいきのこ舞踊団のダンサーたちは、どの作品でも彼、彼女自身ですよね。 |
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4.衣装、美術、装置 |
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a.役に会わせた衣裳、チュニック、爪先の切れたタイツ、あるいはスラックス、パンツにブーツ、抽象的な美術 |
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b.日常的な衣装、スポーツシューズ、スニーカー類、小道具やバックも日常的なもの |
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*ここもたしかにa.を2種類に分けることができます。いわゆる現代舞踊規格のソフトなチュニックやパンタロンと、黒を主体としたパンツ、スラックスやワンピーススカートにダンスブーツ。男性は上体は裸。しかし、舞台衣装という点では同じでデザインが違うだけ。一方、b.ではそのまま街を歩いてもいいような私服が主体で、舞台衣装というものに対する観念が違うのです。これは当然に上記1~3にかかわっているわけです。 |
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5.メイクアップ |
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a.役に合わせてきちんと顔をつくる |
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b.ノーメーク(素っぴんの本人) |
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*これも4.の衣装、美術に関係します。a.でもノーメークの場合があるかもしれませんが、それはそれが「役」にふさわしいからで、b.におけるように彼、彼女自身として登場するからではないでしょう。
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これで半分、これだけでほとんど違いがはっきりしてしまう、あるいは問題点が明らかになったような気がしますが、あと5項目、多少むりして選び出しました。これは次回に取り上げることにいたします。
最後にいろいろと具体的な例でコメントしますが、ここでもとりあえずこの基準は、当然のことながら決して「良い」、「だめ」の分類をするものではないということを申し上げておきます。 |
うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。