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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.4:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.4

2003.10/29
「子たちにも感じてもらったバレエ、ダンス」
 ー見せ方もだが、大事なのは本物、よいものー

 私のお手伝いしている全国公立文化施設協会は、全国に北海道から九州まで7つのブロックを持ち、それぞれが文化庁の委嘱によるアートマネジメント研修を行っています。その一つがすでにこのページでもご報告した、8月の北海道ブロックでの札幌における舞踊をテーマとした研修です。その時にもちょっと触れましたが、さらに10月の香川県丸亀市での中四国ブロック研修でも「子どもと舞台芸術の出会いづくり」のテーマのなかで舞踊をとりあげてもらいました。
 この点について、これからのための参考の意味もふくめて少し詳しくまとめてご報告しておくことにします。
 この企画の目的は具体的には、子どもたちに芸術のよさを知ってもらい、親しんでもらうための舞台の作り方のサンプルとするということで、これまでこのブロックのセミナーで行っていた、芸術を鑑賞してその気分にひたり、心を安らげるための音楽演奏のパートを、これに代えてもらったものです。
 ただし、時間も予算も、そして舞台(丸亀市民会館大ホール)も、それまでよりは随分いろいろと配慮してもらったのですが、それでも研修会の一部という事情もあり、とくに1時間という時間、そして1時半開演のためリハーサルは当日午前中だけという制約があって、企画に苦労したことは事実です。
 それで次のような条件のもとでのベストを狙いました。
 できるだけ近くの地域から出演者を選ぶ。これは交通費や移動時間のこともありますが、会場の使用経験があったり事前の会場チェックもやりやすいということ。さらに、このセミナーのもう一つのテーマ「地域文化資源の活用と問題点」にも、地域の舞踊家の紹介という点でかかわってくるからです。もちろん、そのなかで舞踊の魅力と知識をできるだけ広く伝えられるようなメンバーを選ばねばなりません。
 ということで、多少の曲折(若手、新進を選ぶ場合にウィークディの昼間という条件のハンディ、すなわち学業、あるいは仕事との関係など)がありましたが、結果として次のような出演者、内容になりました。
 
  タイトル:クラシックバレエからコンテンポラリーダンスまで

第1部 地域の新星によるバレエの誕生とその特徴
 丸亀の近藤バレエ研究所所属の中山奈緒美さん、絵美さん姉妹と、高松の島田芸術舞踊学校丸亀支部所属の松尾恵美さん、3人によるバレエの基礎の実演と、クラシックのヴァリエーションの披露。
 バレエの基礎はアン・ドゥールの意義から足の5つのポジション、滑る、跳ぶ、打つ、回るなどのステップの基礎、簡単なマイム、アダージュ(なんと私がサポート)など。ヴァリエーションはそれぞれが得意な『ダイアナ』、『パキータ』そして『メドーラ』(海賊)を踊りました。
 15歳から20歳までの3人、多少の緊張はあったと思いますし、バレエの基礎は当日の朝だれがどんな事をやるかを決めたのです(なにしろご本人に会ったのがその日が初めてでしたので)が、一生懸命にやってくれました。
第2部 クラシックバレエの華、グラン・パ・ド・ドゥ
『白鳥の湖」より“黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ”
オディール 正木 志保さん
王   子 貞松正一郎さん
2人は神戸の貞松・浜田バレエ団のプリンシパル。貞松さんはここで踊った経験がありますが、正木さんは初めて、でも朝のリハーサルで調整して、本番は見事な演技をみせました。
第3部 モダンからコンテンポラリーダンスへ
 新しいスタイル発生のプロセス、どのように動きは作られるかといった話を出演者にも聞きながら解説。そして作品を上演しました。
 出演は、お隣の愛媛県松山市に本拠をもつカンパニー、ヤミーダンス(Yummy Dance)。アマンダ・ミラーさんのワークショップから生まれたグループで、作品は『Second
Body』。照明や美術などもいかにもコンテンポラリーらしい作品で、ダンサー6人が伸び伸びと自分のダンスを踊っていました。
 
  客席は、セミナー参加者だけではせいぜい数十人、しかし主催者や地元の舞踊関係者の努力で、小学生役400人を含めて500人以上が集まりました。これも研修としては珍しいことです。
 ただ、小学生たちはちゃんと聞いてくれるかどうか、解説する私にとっても大変気掛かりでした。バレエのほうは目先が変わるし、華やかですからなんとかなるとしても、コンテンポラリー作品は約20分、舞台も暗いし、大きな変化もないので、正直のところ子どもたちは退屈したり、気が散ったりするのではないか、と心配だったのです。それでなんとか、作品や出演者に興味をもってもらうようにと意識して話しかけるようにしました。たとえば、解説のところでやってもらったステップが次の踊りのどこにでてくるかとか、グラン・パ・ド・ドゥでは女性が男性を誘惑しているのだが、それは果たして成功したかどうか、など。またダンサーたちは地元生まれでで頑張っていて、今は日本のあちこちで踊っている人達なんだ、などなど。
 そして、バレエはなんとかどころか、演技中に拍手が起きたほどよく集中していましたし、コンテンポラリーも意外といってもよいほどしっかりと見てくれました。
 これは、私の解説がよかったとかいうよりも、いいものはいい、子どもだからといって軽くみてはいけないということだろうと思います。むしろ先入観なしに見ているのです。
 セミナーの後も、何人かの参加者のかたから、バレエを初めてみたがとても素晴らしいものだということが理解できた、とか、バレエはみたことがあったが、コンテンポラリーは話に聞くだけだったが、今日みてなんとなく分かったような気がした、などの言葉をもらいました。
 もちろん、これだけですぐあちこちのホールで舞踊公演を取り上げてくれるようになるとはいえないでしょう。このような努力を積み重ねることによって、いくらかでも関心をもってくれる人が増えればいいと思っています。

 
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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