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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.11:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.11
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「公立文化施設とダンス、人間と舞踊 |
-体験が人間を変える-」
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私が舞踊アドバイザーをつとめている全国公文協(社・全国公立文化施設協会)では、毎年2月にアートマネジメントセミナーを開催しています。これは会員である公立のホールや会館などの文化施設(約1200)の担当者向けの研修ですが、同時に舞台芸術フェアも行われており、芸術団体や関係者、アートを学ぶ学生にも開放しています。このセミナーについては、これまでたびたびページでも取り上げてきました。
今年も2月の18~20日の3日間、このところの恒例となった国立オリンピック記念青少年総合センター(通称代々木のオリ・セン)で開かれます。
再三述べていることですが、公立文化施設は現在いろいろと厳しい状況に直面しています。まず、基本的には当然のこととして、地域の人々に優れた芸術を提供すること、さらに創造の場として芸術の発展に尽くすことが望まれています。そのために優れた創造的な自主企画事業を積極的に行っている施設は、民間施設も含めて審査によって文化庁芸術拠点形成事業に指定され、活動の一部が助成されるという制度が実施されています。しかし、その一方では地方自治体の財政悪化により、多くの施設では予算が削減され、効率化のために管理委託制度が指定管理社制度に改正され、施設管理の民間業者など(民間だけではありませんが)への外部委託の動きが強まっています。しかも、この1月下旬に内閣府が発表した「文化に関する世論調査」によると、劇場や美術館に足を運ぶ人は最近ドンドン減っているとのこと。その理由は、[時間がない]が多いが、[余り関心がない]の比率が7年前(96年)の27.8%から39.5%と大幅に増加しているのです。また、日常生活の中で文化芸術の鑑賞や活動が大切だとする人も前回より6ポイント近く減少しました。
この前の私のページでウクライナの話を書きましたが、これに比べると日本民族は基本的に芸術がそれ程好きではないのかな、貧すれば鈍するのかな、と思ってしまいます。少なくとも政治家や経営者、そして自治体の長のほとんどはそのようです。もちろんそうでない人もいるのでしょうが、残念ながらそういう人達の声は聞こえてきません。”関西から文化力”はいいのですが、その分関東が減ったのではなにもなりません。
話を戻しますが、こういった状況のなかで、文化施設の担当者の方々は「いい仕事」をしなければならないのです。「いい仕事」とは何か、その基準が難しくなってきたわけですが、私は、もちろん無駄遣いはいけませんが、しかし効率だけで芸術を測るのは絶対に間違っていると思います。なぜなら芸術とは本質的に心を豊かにするものだからです。世知辛い気持ち、しみったれた気分でいい芸術を作ったり、提供したりできるはずがありません。
それは贅沢とか、金銭的、時間的余裕というのとは違います。もちろんあるていどのものは必要ですが、もっと大切なのは芸術が本当に好きで、その仕事をすることに喜びと充実した気持ちを感じることではないでしょうか。そのためには、少なくとも舞踊についてはまずそれに触れて、良さ、楽しさを知ってもらうことだと思います。それで、今回のセミナーでもそこに焦点をあてて企画しました。
一つはデモつきワークショップ「一度に体験、バレエとダンス」。これは昨年もやって好評だったものをさらにバージョンアップしたものです。好評というのは、具体的にはここから札幌(北海道)のセミナーや相模原のワークショップにつながっていったことがあげられます(この点についてもすでにこのページで詳しく説明しました。)
バージョンアップとは、今回はバレエダンサーを加えて、作品演技をダンスだけでなく、バレエでも行うことにしたことが主なものですが、できれば参加者にダンスとともにバレエも体験してもらおうと思っています。デモンストレーターはダンスが北村成美さん(ワークショップ指導も)、バレエが伊勢田由香さんです。講師はJCDN(ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク)の佐東範一さんと私、北村さんのワークショップは、結構理詰めでなかなか面白そうです。
もう一つはシンポジウム『コンテンポラリーダンスと公立文化施設』。東西の仕掛け人にダンスの魅力と仕掛け方(公演開催の要点、こつ)を話してもらおうと思っています。東京は民間の制作者、高樹光一郎(ハイウッド)さん、関西からは公立施設の担当者船阪義一さん(京都
アルティ)、大谷燠さん(大阪ダンスボックス)、 コーディネートを榎本亮一さんにお願いしています。いい点、問題点、率直な話が聞けるのではないでしょうか。コンテンポラリーダンスは、大都市圏ではじょじょに注目され、公演数も観客も増えてきています。ただそれ以外のところではまだ触れる機会は少ないのです。最近はJCDNが、「踊りにくいぜ」シリーズで全国を回り始めましたが、さらに公文協ではJCDNの協力を得て、ダンス普及のためのビデオ「コンテンポラリーダンスの魅力に迫る一公演・ワークショップの開催に向けて」も今制作中です。これらの動きが一体となって、さらに広がるといいと思います。
現代舞踊(モダンダンス)は各地で意外にといっては失礼ですが、健闘しています。とくに北の方(北海道、東北、北陸)は盛んでレベルも高いのです。さらに現代舞踊協会の広報努力によって、「本物の舞台芸術体験事業」では、全国各地から多くの上演希望がでてきています。なお、公文協では普及のためのビデオ、舞踊第1回としてすでに「バレエ、モダンダンスの魅力」を作成しています。
文化施設の方々には、舞踊だけでなくて結構ですが、舞台芸術に知識と理解、そして愛情をもってその振興に努力していただきたいと思っています。
前回ワークショップに参加された公立施設の方(男性)で、ダンスはまったく初めてで見学のつもりだったのに、実際に体験したらそれにはまってしまい、オフィスでも踊ってしまうという方がおられました。それについては公文協の機関誌、アートエクスプレスに寄稿していただいています。百聞は一見にしかず、そして百見は一体験(実行)にしかずです。これと似たようなケースがもう一つ身近なところにありました。大学の同僚教員(女性)ですが、初めてバレエ(白鳥の湖)を見たところ、すごく感動して人生が変わったような、なににでも挑戦できるような気がするようになったとのこと。なにをやっていてもこのチャイコフスキーのメロディが、自然に口に出てくるのだそうです。この方も、失礼ですがそう若くはないのですが、相模原のワークショップに生まれて初めて参加されます。ここでも、バレエからダンスまで、その特徴、変還をデモンストレーションを加えて説明しながら、実際に体験してもらいます。どうなるか、ワークショップを運営するほうとしては、こういう方にいかに満足して(楽しんで)もらい、それを将来につなげられるか、これが重要なポイントになるでしょう。
追:相模原のワークショップ終わりました(2月6日)。定員30名のところ40名を超える参加。一番多かったのは30代、さらに10代のバレエを習っている女性が10人近く、コンテンポラリーの即興的動きに挑戦していました。上に述べた初体験の教員も果敢にオデットになったつもり?で舞台の上で楽しんでいました。
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。