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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.15:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.15
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「注目すべき公立施設の文化ネットワーク活動 |
-フランス・ダンス・03の成果と今後」
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先日(04. 3.22)、「新しい出会い/新しいネットワーク」~フランス・ダンス・03を 振り返って~という公開シンポジウムがありました。これは昨年10月から12月にかけ、フランスのアーティスト、ダンスカンパニーを招いて、全国10地区延27か所で行われた公演、ワークショップ、さらにレクチャーなどによるフランス・コンテンポラリー・ダンス・フェスティバル。この実行委員会が主催した、フェスティバルにかかわるプロデューサー、ディレクターによる、総括と今後の展望、展開についてのシンポジウムです。このシンポジウムのメンバーが、すべて公立の施設やそれを運営する財団の方々でしたので、私も参加してみたのです。参加者は公立文化施設や大学など、フェスティバルにかかわった組織のメンバー、さらに舞踊研究者、スポンサー企業の関係者もいたようです。
パネリストは(五十音順)大谷燠(ダンス・ボックス・大阪)、楫屋一之(世田谷パブリックシアター・東京)、岸正人(山口芸術情報センター・山口)、志賀玲子(アイホール・兵庫)、報告者がフェスティバルの代表プロデューサー佐藤まいみ(神奈川芸術文化財団・神奈川)、そして進行をプロデューサーズ委員会委員長高荻宏(世田谷パブリックシアター)の各氏がつとめていました。
これから記すのは、このシンポジウムのレポートではありません。これを聞きながら、独断と偏見によって感じたこと、考えたことです。したがいまして、初めて聞いてなるほどと思ったこと、感心したことももちろんあります。さらに、こういうのはどうだろうか、こうして欲しいというものもでてきます。
ただ、この会はあくまでフランス・ダンス・03をベースにしたものであり、時間も無かったので、こちらからはとくに発言はしませんでした。
まず感心したのは、公立施設でこのような積極的、かつ大きな活動が行なわれたことです。再三書いていますが、私は(社)全国公立文化施設協会の舞踊アドバイザーをやっており、全国二千を遥かに超える公立文化施設のなかで舞踊にいくらかでも関心のあるところは本当に少ないということを身をもって感じてきましたので、余計強く感じました。これまでも、海外から多くのカンパニーやアーティストを呼んだり、日本側と共演したりということはたくさんあります。しかしそれは民間の企業であったり、特定の協会のような組織であるケースがほとんどで、公立の文化施設のプロデューサー、ディレクターたちが集まって実行委員会を作り、このような全国的な規模の国際ダンス・フェスティバルを主催するというのは大変に画期的なことです。もちろん協力者には日仏多くの芸術家、企業、さらに大使館や文化庁などの公的な組織が並んでおり、一部助成も受けていますが、これらを巻き込んだのも実行委員会の努力だと思います。
そもそも佐藤まいみさんが、アメリカで行われたフランス・ダンス・フェスティバルの成功を知り、そのプロデューサー(AFFA=フランス芸術文化活動協会)に出会って話し合ったというのがスタートのようです。しかし、それをそのまま日本に持ってくるのではなく、現地訪問したり、数多くのビデオを取り寄せたりしてフランスのダンスの状況を詳しく調査して、カンパニー、アーティストをセレクトしたそうで、しかも、それは実施する会場ごとに環境や予算を勘案して決めたといいます。したがって、マギー・マランやアンジュラン・プレルジョカージュのような大物?を上演するところもあるし、フィリップ・ドクフレの新作を発表するところ、また小グループのワークショップやトークを行ったところなど、様々な形になっているのでしょう。なお、参考までに記しておきますと、参加カンパニー/アーティストは10、実施会場は水戸から山口まで、9都府県に広がっています。なお、セレクトの基準として、観客に分かりやすく楽しんでもらえるものという表現がパネリストからあったのは大変に結構なことです。
さて、本論の『ネットワーク』ですが、まず実行委員会そのものが公立文化施設のスタッフの集まりですから、それ自体ネットワークであるといえます。それぞれの施設のかかわり方は、上に述べたように具体的にはまちまちですが、いずれにしろ実行委員としては各人がきちんと役割を果たしたのだろうと思います。この13人が核とならなければ、国際的な活動はできなかったでしょう。
では、フェスティバルとしてはどうだったでしょうか。私個人は、ちょうど文化庁芸術祭期間だったので、ホンの一部しかみていませんので、カンパニーや上演作品、あるいはワークショップなどの質的な評論はできませんし、経済的な側面についても、データはないので分かりません。したがって、この判断はできないのですが、感じとしては、パネリストもいっていたように、凝集性、盛り上がりの面ではやや十分とはいえなかったような気はしています。これは、広報、パブリシティの問題もあるでしょうが、ひとつは会場が分散したことです。これは必然的に期間的にも集中を欠きます。
理想をいえば、フェスティバルとしては、たとえば首都圏で1か月ほどのあいだにあちこちで複数日の公演が行われ、メッセのようなものも行われて全国の施設や業者が買いにくるとというかたちが望ましいのです。ただ、わが国のダンスの現状からは、これはいくらコンテンポラリーダンスが盛んになっているといっても無理な話でしょう。
ただし、これだけのカンパニーが各地で公演やワークショップができたというだけで、大変な出来事、これはネットワークの効果であることは間違いないでしょう。
さらにこの日の発言のなかに、共同制作の話、さらに日本のカンパニー/アーティストのフェスティバルのアイディアもでていたのは注目すべきことです。
私の公立の文化施設についての基本的な概念は、まず創造的であること、芸術文化(ここでは舞踊文化)と芸術家(舞踊家・振付家)の育成・向上に貢献すること、そしてそれを広く発信するという機能をもつことです。そうなると、究極には、カンパニーを抱えるという方法に至ります。これはぜひ考えてほしい、新潟では金森穣さんを芸術監督に招いてノイズムというプロのダンス・カンパニーをたちあげ、6月には早くも新潟と東京で公演を行います。絶対に成功してもらいたいと祈っています。
私は以前から、少なくとも4面舞台をもっているところではバレエとオペラ、そして学校を、ということはあちこちで言ったり書いたりしています。今回のネットワークメンバーの施設でも、ダンスのカンパニーをかかえることをぜひ目標にしてほしいのです。
話はとびますが、現在指定管理者制度という、なんとも気に障る制度がいろいろと反響を呼んでいます。これは広く公的法人や企業を対象とした民営化の動きの一環ですから、それが必要な分野、組織もあるかもしれません。しかし文化施設担当者は、芸術文化は効率優先の活動とはまったく別物だということを、はっきりと示してもらいたいものだと思っています。
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。