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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.20:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.20

2004.6/16
「舞踊界に変化の予感

ー最近のいろいろな動きからー」


 わが国の芸術家、芸術家集団の、とくに音楽、舞踊、演劇などの舞台芸術活動に関しては、全体としてなかなか厳しい状況にあるということは、このページでもたびたびとりあげてきていますし、もちろん一般的にもそう認識されています。そのなかでもとくに舞踊については、公的助成、公立施設事業などの公的にも、民間企業メセナなど社会的にも、一段と低いところにあることは残念ながら事実です。
 こういった厳しい状況のなかで、わが国の舞踊界は大変な自助努力をつづけ、質量ともに高いレベルにあることには敬意を表しているところです。
 ただ、舞踊界をとりまく問題は、これまでのような努力ではもう解決しにくいところまできているのではないかと思うようになりました。このことを詳しく説明するには大きなスペースが必要となりますので、要点だけにしておきます。
 まず、問題は、社会全体としては少子化と経済停滞です。少子化については年金にからめてとりあげられている、合計特殊出生率 1.29(1人の女性が一生の間に生む子供の数、女性は人口の約半数ですから2人生んでとんとん)、端的にいえば毎年生まれる赤ちゃんの数がドンドン減っているということです。別の見方をしますと現在の日本では15歳未満のいわゆる子供の比率が人口全体の14%を切っています。これは20年前には20%ほどあったことからみれば、大変な減りようです。アメリカや中国では現在でも20%を越えていますし、フランス、イギリスでも18%以上です。つまり、日本は、世界的にみて子供の割合は全く低いし、さらに減りつつあるということ。これが舞踊界にどう影響するかは次のようになります。まず生徒さんの月謝やチケット負担で維持されている部分の多い舞踊界にとっては大変な打撃です。またこの若年層の減少、高齢層の増加は当然に経済を弱らせ、国の予算にも深刻な影響を与えます。つまり、子供の生徒さんを増やして団の維持や公演活動の基礎を固めることも、そしてこれまで少しづつでも増えてきた公的助成や企業支援に頼ることもこれからは期待しにくくなります。このことは舞踊界に進もうという人材、そしてとくに日本国内で頑張ろうという優れた舞踊家の減少を誘います。
 これらの状況について、一部のアーティストやカンパニーではいろいろと新しい対策への指向がみられるようになってきてはいます。ただ、まだ多くにところでは、従来型の努力にとどまっているようです。
 今回のテーマはここからです。このような従来の延長的な活動で、なんとか業界としても個々の団体としてもやってこられた状況に、このところ少しづつ変化が生まれてきたということを取り上げてみたいのです。ただ、今回は具体的な個人名や団体名は省略させていただきたいと思います。それはまだ進行中のものもありますので、それに迷惑をかけてはいけないこと、そしてここでのテーマは大きな動きについてであって、個々の問題ではないからです。
 これはまだ変化の段階ですから、それがどう落ち着くか、どういう結果を生むかはこれからですが、たしかに水面下を含めて動きが出てきたことは事実です。
 この一つは、主としてバレエの分野ですが、人気や力のあるダンサーの移籍、移動が目につくようになったということです。これまでもとくに男性ダンサーのフリー化はどんどん進んできていましたし、新国立バレエ団との契約やとくに登録ダンサーにかかわっては女性も含めて結構動きが見られました。それに加えて、最近は日本で活躍していたダンサーが、海外のバレエ団に入団するというケースがしばしば見られます。また、若手でも海外で仕事をしたいという、潜在的な海外指向者が増えてきてもいるのです。
 これは端的には収入と踊る舞台数、大網的にいえば労働条件の問題です。諸外国、とくに欧米では、ダンサーとバレエ団とは労働者と企業の関係、つまりビジネスとしての契約の問題としてとらえることができるというのが、中堅、若手のダンサーにとっては魅力なのでしょう。
 さらに国内でもこのような視点、踊る機会などから理解することのできるダンサーの移動が見られるようになりました。ただ、まだ海外ほどビジネスライクにいかないのは、バレエ団、ダンサーの双方にその条件と意識が確立していないためだと思います。これからは、双方がきちんと条件を出し合って、それぞれが納得の上で退団、入団の契約を行うようになること、つまりルールの確立が必要だと思います。
 もちろん、現在の日本のバレエ団の状況では、それができるところは非常に少ないのです。それには、まず年間の公演数、それに伴う出演料、あるいは専属報酬の明確化ができなければなりません。ただ、それをめざすところ、あるていど実現しかけているところも出てきていることも事実です。
 このためには、いろいろな解決すべき課題があります。冒頭に述べた国や社会の理解、支援もありますが、それに相応しい実力内容を備えることが絶対条件になります。そのひとつが外国人に頼るのでなく、自前のスター、人気者の育成、売り出しです。もちろん団体だけでなく、本人にもその努力が求められます。これは簡単ではありません。しかし、それができなければバレエ団として存続できないという意識が必要です。コンテンポラリー分野では、生徒の授業料やチケット負担に頼れませんから、必死になってファンづくり、売り込みに努力しています。この点についてもすでにたびたび取り上げています。
 バレエ界としては、もうひとつ、いずれ再編成が絶対に必要になります。これは、レベルアップの問題と、長期にわたって組織を持続、発展させる青写真、将来像が書きにくいところがいくつもあるという現実からです。そのためには、経営体制の合理化、強化がダンサーの育成、確保と同様重要な条件です。そして育成と創造の役割と場をきちんと分けることが望ましいのです。
 この問題に関連して、注目すべき動きが出てきました。それは、所属ダンサーの賃借ということです。賃借というと誤解を招くかもしれませんが、バレエ団同志が話し合ってそれぞれの公演の作品にふさわしいダンサーを融通し合おうというものです。これがうまくいけば、舞台のレベルもバレエ団の手間やコストも、そしてダンサーの踊る機会や収入の面でも現在よりも安定することが期待されます。ある有力バレエ団のトップ同志でこの話が俎上に上がっています。成功すれば、再編成の引き金になるかもしれません。でも、あまりあせらずに、じっくりと機会をつかんでほしいと思います。
 現代舞踊は、もちろん歴史的な、あるいは舞踊の性格特徴からの難しさもありますが、この点では一層の努力が必要です。そのためばかりではないでしょうが、このたび現代舞踊協会の会長に初めて協会以外からの方が就任されました。何か新しい動きが出てきそうです。
 とくに急ぐことはありませんが、ぜひ堅実、着実に、観客に支持され、舞踊団も舞踊家も一層発展する現代舞踊になってもらいたいと思います。それだけの素質や力はあるのですから。

 
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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