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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.25:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.25

2004.9/8
「指定管理者ってご存知ですか

 ーへたをすると日本の芸術はつぶれますー」


 毎年(前は時期はいろいろでしたが、最近は)夏に、芸術見本市が開催されます。会場は今年は池袋、東京芸術劇場を中心にその周辺で、セミナー、展示、プレゼンテーションなどが3日間に渡って行われました。主催は実行委員会ですが、主体は(財)地域創造、これは総務省(もともとは自治省)管轄で、宝くじの売上の一部を主たる財源にしている全国各地域の芸術文化の振興を目的とした組織のようです(正確には知りませんが)。
 そこに顔を出してきました。この催しの1つに、私がお手伝いしている(社)全国公立文化施設協会(公文協)が共催しているシンポジウムがあったからーーだけではありませんが、それをメインにあちこちと。公文協は文化庁の管轄、会員である施設の払う会費と文化庁から委嘱された芸術情報プラザ(私はここに所属)に対する国の予算によって運営されています。もちろん、この2つの組織はサービスの対象は違うわけですが、現実には似たような企画が実施されています。たとえば、公立文化施設を対象とした調査やプロジェクトなどはどちらも行っていますし、これ以外にもこのような舞台芸術に関するフェア、あるいは調査・研究などやっている組織(たとえば芸団協)があって、この辺の調整はできないのかなと思います。ただ、今回のテーマはこれではありません。
 ひとつは、上記したシンポジウム「公立文化施設の明日を考えるー政策評価と指定管理者制度ー」、もうひとつはインターナショナル・ショウケース「日本のコンテンポラリー・ダンス」を聞いて(見て)感じたことを述べてみたいのです。
 まず、シンポジウム。とくに指定管理者制度についてです。政策評価はこの制度に関連して取り上げられたもので、現在公立文化施設の間ではこれが最大のといっていいほどに重要な問題になっているのです。
 指定管理者制度といっても、一般の人はもちろん、よく劇場やホールにでかける人も、あるいはそれを利用する芸術団体でさえなんのことかよく分からないのではないでしょうか。ごく簡単に説明します。まず現在の公立施設のほとんどは地方自治法に基づいて建設されたものです。この目的は同法によれば「住民の福祉の増進~」であって、文化施設だけではないのです(たとえば体育施設、社会教育施設、公園などなど)。
 文化施設はその1つですが、館名の頭に都道府県、市区町村名がついているのがそれにあたります。たとえば東京では東京文化会館(都)、練馬文化センター(区)、八王子市民会館(市)などがそうです。同じ公立の文化施設でも郵便貯金会館、厚生年金ホールなどは地方自治法とは別の基準で設置されています(最近は正式名とは別に愛称をもっているところも増えてきました)。参考までに、オーチャードホール、サントリーホール、アートスフィアなどは私立(民間)の施設です。
 現在の問題は、地方自治法に基づいて設置された施設の管理・運営について、それを定めている条文が改正されたことに発しています。つまり、この管理運営の主体を見直さなければならなくなる施設が多数生まれるということなのです。
 これも一般の方はご存じないでしょうが、この管理運営の方式には大きく分けて2種類あるのです。一つは直営といって県や市が直接行うもの、もう一つは委託といってそのための組織を別に作ったり。既存の組織に委託するもので、この組織はいろいろありますが、たとえば(芸術)文化振興財団(事業団、協会)など。公立文化施設は全国で2500近く、その約3分の2が直営ですが、大きなホールでは委託が多くなっています。
 いずれにしろ、これらの施設では委託先の再検討を行わなければなりません。
 もちろん、委託先が変わったからといってすぐに観客や利用者に影響があるわけではありません。では、なぜ今問題になっているかというと、一つは場合によっては現在の職員が職を失ってしまうかもしれないということ、それから施設つまり会館、ホールの活動の内容が変わるかもしれないということからです。なぜ、こういうことが心配されるかというと、今回の改正がコスト削減、業務効率化に主眼を置いているからです。
 今、日本全体に民営化の嵐が吹き荒れています。その目的は活性化とかなんとかいっていますが、本音はコスト削減、収益性の向上という名目での不採算部門の切り捨てです。その典型が郵政事業、多くの反対にもかかわらず小泉内閣はその民営化を強行しようとしています。2~3年前に、このページで道路公団の民営化にふれて、芸術文化における効率化とはなにかについて書いたことがありますが、当時は現在の制度の下での効率化でしたが、今回は制度、体制そのものにメスを入れなければならないまでに、公立文化施設は追い込まれているのです。
 現在でも国や自治体の負担する文化予算は欧米に比較して名目でも、実質でもはるかに少なく、文化施設も芸術団体も大変な苦労をしながら活動を続けているのです。たしかに国の財政は逼迫、赤字は増える一方です。しかし、防衛費に5兆円なのに文化費に1千億円、これはないよ、と思いませんか。それでいて小泉さんは文化日本なんていっているのです(今はひっ込めたのかな?)。
 前にもいいましたが、ムダ遣いはいけません。しかし、効率や採算を主体に芸術文化活動を考えていては、質の高い創造活動はできません。従来の委託先を指定管理者に変えるとき、原則として公募し、審査委員会で審査することになっています。しかもここで問題は、この委員は行政側で選ばれ、最終的には議会できめるということですから、そこの意識がどうかということが結果を大きく左右します。とくに心配なのは、金のかかる、採算の悪い芸術創造事業はやめて、金のかからない手軽なもの(地元のカラオケ大会)、お客の入る商業的なもの(テレビで人気のタレントやロックのコンサート)、あるいは貸し館事業(それも芸術団体にではなく、結婚式や議員先生の報告会)に重点を移して採算を良くするところ(業者)に管理が移ってしまうおそれがあるということです。
 事実、これまで応募しているところには、タレントのプロダクション、ビル管理会社などの営利企業(株式会社)が含まれています。
 つまり、再三私がここで主張している、芸術監督とアーチストを専属させ、付属の養成機関を設置するといった方向は、ますます出にくくなるのです。
 多くの施設の担当者は、良い芸術を提供しようと思っています。このような意識と努力がムシされ、否定されることのないようにするには、われわれ芸術関係者、愛好者がバックアップすることも大事です。しかし、もっとも大事なのは国の文化政策の総元締め、文化庁が芸術の重要性、必要性を、この制度に関連させてもう一度明確にすることだと思います。すでに、文化芸術振興基本法は制定されています。僅かずづにしろ、文化予算もこれまでは増えてきました。ぜひ、この方向を変える事なく、世界の平和は芸術文化から、ということを強く訴えてほしいと思います。
 コンテンポラリーダンス・ショウケースの件については次の機会に譲ります。

 
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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