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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.33:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.33

2004.12/29
 
「全国に舞踊評論家が生れる条件 ーダンスマップ制作にあたってー」

 


 海外からのゲストダンサーや、海外である程度のキャリアをもって日本で活動しているダンサーたちと話していて、日本の舞踊界に初めて触れたときに、とても不思議に思うことがあるという話になります。この点については前にもこのページで書いたことがありますが、つい最近もある外国のダンサー(アントワープで勉強、シュツットガルトで活動)と話ししていてこの件がまた出てきました。
 それはなにか。日本のカンパニーが本拠地(劇場)をもたないこと、逆にいえば、劇場にバレエやダンスのカンパニーが専属していないことです。もちろん、欧米にも劇場をもたない団体、団体を専属させていない劇場もありますが、それはツアーカンパニーを別にすれば少数派です。
 日本ではごく最近の例外的なケースをのぞけば、バレエ、モダンダンスなどの舞踊に関しては、民間の個人的なスタジオ(教室)を基本とした師弟関係のもとで発表会が行われ、その一部がプロフェッショナルに近い団体、カンパニーに進化し、年に数回から数十回の公演をホール(それもほとんどが舞踊用でなく多目的ホール)を借りて行うのです。ホール側も、民間もですが、とくに公立の施設は地方自治法に基づいて建てられたものですから、よほど首長やホールがその気にならないかぎり、芸術団体をかかえるどころか、特定のところに優先的に貸し出すこともせず、一流の芸術団体にも、地元のアマチュアコーラスにも区別なく貸し出すという姿勢を強くもっているのです。むしろこれからは、指定管理者制度が現実になると、地域住民への福祉やサービスなんてことが大義名分になり、一層芸術団体が締め出されかねません。一流バレエ団も、ダンスカンパニーも、ますますホールを安定的には借りにくくなり、上演の場を探し回る根無し草になる恐れがあります。
 このことは口が酸っぱくなるくらいここで取り上げてきました。しかし、外国のダンサーから改めて指摘されると、本当に情けなくなってしますのです。 例によって、これが本論ではありません。
 これも前から再三書いていますので詳しい説明は省きますが、全国公文協の舞踊アドバイザーとして私が考えているのは、〔全国の公立ホールで舞踊の自主企画を活発にする〕こと。そのための企画の一つとして、現在「ダンスマップ・オブ・ジャパン」(全国舞踊地図)の制作が進んでいます。これは全国を幾つかの地区、たとえば北海道、東北…に分けて、それぞれの舞踊事情を整理して、公立施設の自主事業に利用してもらおうというのです。
 正直いって、もちろん例外はあるのですが、多くのホールでは舞踊の自主事業はおこなっていないか、極めてわずかです。やっていますよ、といっても海外の2流カンパニーを廉価で買い上げて上演するくらい。地元の舞踊界と協力して新しい試みをやるなどというのは、04年から05年にかけて愛知県芸術劇場でおこなわれている「ダンスファンタジア」程度ではないかと思います(コンテンポラリーではそれに近いものはありますが)。
 今回の「ダンスマップ」は各地域のダンスシーンを、とくにレベルの高い、魅力的な団体やダンサー、振付者を中心に描くことが主体です。さらに舞踊に関する自主企画の立てかた、このマップの使い方などについても解説するつもりです。
 本論はこれからなのです。この企画は当初は私が基本的にはすべてまとめようと思っていたのです。ところが、物凄くいそがしいものですから、とうてい納期(05年2月)には間に合いません(このHPの執筆も毎回死ぬ思い)。
 それで、全国に執筆網をもつ某バレエ専門誌に編集を依頼したのです。
 そこで分かったこと。それはわが国の舞踊ジャーナリズムの実態、具体的には東京偏重の事実です。東京(首都圏)には舞踊評論家、ジャーナリストはたくさんいます。ある人の調査では100人くらいはと。
 ここでいう評論家、ジャーナリストとは、たとえば、自分の住んでいる市や県、あるいは地域のバレエ、モダンダンス、コンテンポラリーダンス、フラメンコなどの状況について、情報をきちんと片寄らずにもっている人がどのくらいいるのかということです。個人的な好き嫌いには別にして、仕事としてはまんべんなく見ることが必要です。こうなると東京でも少々怪しくなります。それで、舞踊に関して見たり書いたり審査したりという活動を主たる仕事としている人を含めます。それでも東京以外となると、関西、中部は何人かいるにしても、それ以外のところはきわめて厳しい状況です。
 例えば北海道、全道は広いですから1人ですべてをカバーすることは難しいでしょうから、札幌、函館、釧路、旭川などの拠点に、そこでの舞踊公演のほとんどを(仕事として)見ている人がいるのでしょうか。これは、九州でも四国でも同じです。率直にいって公演回数はきわめて少ないにもかかわらず。皆見てるというファンの方はいるのでしょうか。
 今回の仕事に関連して知るかぎりでは、そういう方は極めて少ないです。ほとんどが文化芸能一般で舞踊はほんの一部か、舞踊専門でなくインタビューが専門でたまたま舞踊家にもインタビューしたという方など。私なんかが、東京以外あちこちからお声がかかるのは、それぞれ地域に専門の批評家が少ないということの証明ではないでしょうか。
 しかし、専門家のいないこと、そのことを責めるわけにはいきません。
 問題は、大都市以外では舞踊活動が活発でないということです。もちろん数が多ければいいというわけではありません。しかし、優れた才能をもった舞踊家が、十分にその力を発揮できる場のある地区がどれだけあるでしょうか。東京だって怪しいもの、他よりはいいといったところかも。だから海外に出ていってしまうのです。
 ダンサーの質は世界的に見ても決して劣っていません。作品にしても海外に負けないものがいくつもあります。
 劣っているのは、バレエやダンスを楽しもう、盛り上げようという社会の力です。負けているのは、それぞれの地域に立派な芸術を打ち立てようという公的な意思と実行です。現実には各地で生まれたダンサーは東京か、さらに海外に出ていってしまいます。仕事はないし、認められないから。もしも札幌に立派なオペラハウスがあり、そこで年間100回の公演のできる条件があれば、熊川哲也さんは札幌で踊っていて、本州から大勢の観客が札幌にでかけていたかもしれません。また、福岡にその条件がそろっていれば、下村由理恵さんはそこで田中ルリさんとダブルキャストでグランドバレエに出演しているかもしれません。そうすれば、その地区にも専門の舞踊評論家も生まれるでしょう。
 日本ではこれはまったくの空想、こんなことまじめにいっても、なに考えているんだと馬鹿にされるだけでしょう。でも欧米ではこれが普通の状態なのです。欧米のほとんどの国よりも経済的に豊かで、しかもバレエやダンスを習いたい(習っている)という子供は間違いなく多いのです。それなのにどうしてこれが現実にならないのでしょうか。

 
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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