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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.43:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.43
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「コンクールにみるわが国舞踊界の特性
ーダンサー育成の発送転換をー 」
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●百花繚乱・千差万別のコンクール
日本は舞踊のコンクール列島であり、コンクール文化であるということを書いたりいったりしています。私もすべて知っているわけではありませんが、知る限りにおいても、1月から12月まで、小さいのまで入れればコンクールのない月はありません。
一番多いのはバレエ分野のダンサー対象のコンクールで、踊るのは古典、スタンダードのヴァリエーション。しかし、なかにはグラン・パ・ドゥの、また創作作品を踊ってもよいバレエコンクールもあります。さらに、クラシックだけでなく創作作品も同時に踊らないといけないコンクールもあります。現代舞踊、モダンダンスのダンサー対象のコンクールも少なくありません。もちろん、バレエダンサーがモダン部門に出たり、その逆もあります。ほとんどのケースが男女混合ですが、国内でも男子部門が設けられ、それぞれに競うコンクールもできました。男女一緒でも、男女それぞれ、まとめて順に演技するところは増えてきました。
創作コンクールもあれば、バレエからフラメンコ、民族舞踊、なんでもありのコンクールもありますが、なかでも貴重なのはバリアフリー(障害者)部門でしょう。
また、予選、準決選、決選と3ラウンド制あり、一発勝負あり、そしてバレエなど1分野だけのコンクールから、児童舞踊、日本舞踊まで、いろいろな舞踊のカテゴリーを含むものもあります。さらに結果については順位だけを発表するところ、審査員の実名入りで点数を公表するところ、いろいろです。採点法も総合点、また幾つかの要素に分けて採点する方式。順位の決定についても、単純な合計点から上下カット、偏差値などこれもさまざまです。
審査員の顔ぶれも、舞踊家だけ、さらに舞踊評論家、また他のジャンルの専門家、たとえば美術家などを加えるなど、本当に千差万別です。
これに主催者や事務局の体制、表彰の内容や方法、さらに重要なフォロー、アフターサービスの方法なども加えて、きちんと整理してみたいと思っているのですが、現実には大変な仕事です。
●コンクール不参加者から感じた最近の傾向
さて、この3月中旬から5月上旬までに、私が審査員を務めたのは4つ、延べ日数で12日。バレエ、モダン、そして公演形式の中で新人ダンサー、振付者を選定するものでした。具体的には、順に全国舞踊コン(東京新聞)、なにわ芸術祭・合同公演(産経新聞社)、まちだ全国バレエコン(町田バレエ連盟)そしてこうべ全国洋舞コン(神戸新聞社)でした。もちろん、これ以外にもコンクールは仙台、神奈川などであったようです。
たしかに、それぞれに対象分野、伝統や規模、表彰内容などの違いはあります。しかし、全体としてレベルが上がっていることは事実です。又ダンサーに関しては、バレエ分野では、最年少の部門も含めて、決選上位者は、基本、スタイルそして技術も感心させられるものがたくさんいます。また、モダン分野では、個人の、そして動き、作品の個性がさらに大きな意味を持ちますが、この点で新しい動きが生まれてきたような気がします。
ここでちょっと別の視点から考えてみます。それは[参加する人、しない人]です。これは3つのポイントがあります。まず、男性です。児童部門はまだ数的にも技術レベルからも参加が少ないのは当然ともいえますが、この年代全体の参加者が増えているのに合わせて男性の姿もしばしば見られるようになりました。また逆にシニア部門は、もうプロ化してあちこちの舞台に出るのが忙しいのと、またせっかく出場しても上位に入らないとかえってイメージが落ちるというので、参加はあまり多くないのですが、でも最近少しずつ増えてきました。これは賞金目当てもあるでしょうが、むしろ自分を売り出すためという目的も見え始め、これはいいことだと思います。男性もいつまでも希少価値だけでちやほやされる時代はすぎてきた、これもいいこと。こうなると、一部にささやかれる、男性に甘いという誤解?も払拭されるでしょう。
次は所属です。とくに女性は、かつては大バレエ団のソリストクラス、いいかえれば著名人がコンクールに出ていました。私なども顔を知っているダンサーが何人かいました。最近はそういう顔はほんのわずか。上位入賞者の指導者を後から知らされて(もちろん事前にはわかりません)も、大変失礼ですが、初めて聞く名前の方のお弟子さんがたくさんいるのです。もちろん、コンクール数、参加者数がどんどん増えていますから、それだけ各地の中小教室からの参加が増えたということはあるでしょう。それにしても、ジュニア、児童までいれますと、もう大部分が中小の、それも私の知らないところの出身者です。これはそれだけ底辺が広がり、しかもレベルも高いということを示すとともに、参加のニーズ、すなわち大バレエ団と各地の教室との舞台(公演)数の差もあると思います。この点は最後にまた取り上げます。
3番目はモダン、現代舞踊分野です。先に新しい動きといいましたが、これはあくまでモダンダンスをベースにしたもので、新しいタイプのダンスではありません。オフバランスと腕の動きに特に特徴のある、いわゆるコンテンポラリー系のダンサーは何人か見られますが、私のいうのはもっと別のスタイルです。具体的には、ジャズやヒップホップ、ストリート系のダンサーはほとんど見られないということ。ジャズダンスコンはありますが、それとは別にモダンダンス部門にヒップホップのダンサーが参加したら(ものすごくうまいのがたくさんいます)、もっと活性化するのではないでしょうか。でも、採点は大変かもしれませんが。
●中立の育成システムへの夢
いろいろなコンクールを見て、とくにバレエ分野、(モダンも本質は同じです)について、独断と偏見的な夢があります。最近、あるよくしられたバレエ団(名前は勘弁)の公演を見ました。率直にいって、ここだけではありませんが、群舞のレベルがそう高くないのです。技術もですがとくにスタイル的に。ただ、主役はスタイルも動きも一流、それだけに余計群舞との差が目立ったのかもしれませんが。でもコンクール上位者レベルはあまり見られません。
こういうバレエ団は、公演回数も多く、大勢のお客さんに見てもらう機会も多いのです。とくろが、はっきりいって、ここの群舞よりも、優れたスタイルと技術をもっている若いダンサーたちが、中小の教室に籍を置いているためにコンクールと発表会ぐらいしか踊るチャンスがない。これは本人だけでなく、バレエ界にとっても損失です。もちろん、上京して、さらに海を越えて海外に仕事の場を求める若いダンサーも多く、オーディションの機会はありますが、それも一部で大変非効率です。
ではどうするか。それが夢ですが、東京だけでなく、全国主要地に舞踊学校を作る。これは特定の舞踊団関連のものでないこと、したがって自治体など公的に経営する学校が望ましいのです。ここで持論。とうぜん、それは劇場つきであってほしい。ここで育ったダンサーはその劇場の付属舞踊団に入り、あるいは民間のカンパニー、さらに海外に進出するチャンスもあるように。そういうところから狙われるようなダンサーを育てるのです。
ここでのネック。現在のスタジオ、教室の先生方の生活をどうやって保証するか、これは大問題です。したがってすぐに一気にはむり。でも、どこかやろうというところはないでしょうか。自治体に限らず民間の会社でも。舞踊学校は大資本でやっても十分事業としてペイすると思いますよ。
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。