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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.46:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.46
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劇場と芸術団体。芸術を大切にする社会
ー日本におけるドイツ2005/2006にみるー
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●日独の違いと友好
今、「日本におけるドイツ2005/2006」というタイトルのもとに、いろいろなイヴェントがおこなわれています。
今年は第2次世界大戦終結60年です。この開戦はなかなか複雑な様相をしているのですが、最後は、米、英、仏、中、そして露を勝者とし、日、独、伊が敗戦国となって1945年に終結しました。付記しますと、現在問題になっている国連はこの勝者が作り上げたもので、上記の5国だけが安全保障理事会で拒否権をもつ常任理事国になっているのです。そしてこの改革案として日本、独逸などが常任理事国になるという案が現在いろいろと話題となり、米や中の言動が問題となっているのは舞踊関係者でもご存じのことでしょう。
さて、ここからは外国名をカタカナにしますが、わが国とドイツは、敗戦国でありながら経済的に大きく成長したという点では似ていますが、それ以外のところではある意味で対照的な経過をたどっています。このことを詳しく書くわけにはいきませんが(本当はこういうことが書きたいのですが、残念ながら舞踊関係のページですので)、要点だけにします。日本は平和を基本に経済一筋でやってきましたが、最近アメリカとの関係をさらに強め、規制緩和や軍事に傾斜を始めました。。それに対してドイツでは、経済とともに文化、環境などにも力を入れ、自由だけでなく規制も重視するヨーロッパの社会民主主義の中心となっています。戦後処理についても対照的です。
このように、行き方の違いがますます目立つ両国ですが、決して仲が悪いわけではなく、いろいろな面で友好関係を強めています。この「日本におけるドイツ2005/2006」もそのひとつだと思います。
●2つの演劇集団 本拠地にも歴史が
このせいか、このところドイツの舞台芸術をも見る機会が多数ありました。
とくに6月の20、21,22の3日、そして1日おいて24日、みんなベルリンからの舞台、そのなかの2日はドラマでした。
ドラマはまず、世田谷パブリックシアターで上演されたシャウビューネ劇場(ここを本拠とする演劇集団)の『ノラ/人形の家より』(6月17日~21日)を20日に。なお同じ劇団の『火の顔』が24日から26日に上演されています。この劇団は62年にベルリンで設立され、若々しい感覚をもった集団として名声を高め、その後同じベルリンの新しい劇場にうつり、現在演劇とダンスの2部門をもっています。
この作品を演出したトーマス・オスターマイアーさんは30歳そこそこでここの演劇部門の芸術監督に就任、世界的に活躍している新鋭演出家です。この作品はイプセンの女性の自立を描いた歴史的価値をもつ戯曲。その19世紀の世界を現代の企業家の家庭に置き換え、ロックミュージックなどを使用しながら、原作と異なる衝撃的な結末を用意し、新しい問題を提起しつつ終わるのです。
もうひとつのドラマは、新国立劇場でのべルリナー・アンサンブルによる『アルトゥロ・ウイの興隆』です。この団体は1948年にベルナルト・ブレヒトによって創設され、最初は本拠を持たなかったのですが、54年にシッフバウアーダム劇場を本拠地とします。
そこでブレヒトの戯曲を主体に上演してきました。ブレヒトは58年に亡くなりますが、この作品は60年に初演、好評でしたが、95年に時の芸術監督ハイナー・ミュラーの演出で興行的にも大成功をおさめたといわれています。ミュラーは同年暮れ死去。
これはヒトラーのパロディー劇で、ヒトラーが同志も粛清しながら総統となってナチス独裁体制を築くまでを、シカゴのギャングの世界に置き換えて描いたものです。このなかのみものはアルトゥロ・ウイ(ヒトラー)を演じるマルティン・ヴトケさんの熱演というか怪演で、まさにカルカチュァライズされたヒットラーそのものです。かつての自国の支配者をこれだけおちょくってしまう感覚には驚かされます。ここで感じたのは舞台上では出演者がやたら怒鳴ること、アルトゥロ(ヒットラー)はギャングの世界ですから分かるのですが、『ノラ』の場合も、家庭内なのに皆突然大声を出すのです。これは演出の問題か、ドイツ人の習性なのでしょうか。
それよりも、この2つの劇団ともしっかりと本拠地をもち、ベルリナー・アンサンブルは民間化したようですが、それでもベルリン市からしっかり助成を受けているようだということです。
●3つのオペラハウスのバレエ団が合併したベルリン国立バレエ団
舞踊関係は、新生ベルリン国立バレエ団です。ここは、昨年1月にベルリン所在の3つの劇場に所属していたバレエ団、すなわちドイツ国立歌劇場、コーミッシェ・オペラ、そしてドイツ・オペラ・ベルリンのバレエ団が合併して、ベルリン・オペラ財団が管轄する3つのオペラハウスのためのバレエ団として新発足したものです。
芸術監督は2002年にドイツ国立歌劇場の芸術監督に就任していたウラジーミル・マラーホフさんがつとめています。
ドイツはクラッシックバレエとしてはそれほど華やかな歴史をもっているわけではありませんが、シュツットガルト・バレエのジョン・クランコのもとからは、ノイマイヤー、キリアン、フォーサイス(敬称略)など現代バレエの旗手たちが巣立っています。さらに、ミュンヘン、ハンブルグ、ドレスデンなどにも立派な劇場とバレエ団があります。ヴッパタールにはピナ・バウシュさん、その他コンテンポラリー系にも逸材がいます。
さて、ベルリン国立バレエ団ですが、マラーホフさんの改訂版『ラ・バヤデール』とベジャールさんのワグナーによる大作『ニーベルングの指輪』が上演されました(21日と24日に所見)。
この作品の批評をするのが目的ではありませんが、『ラ・バヤデール』は改訂の意図がはっきり分かって面白かったですし、『~指輪』(リング)は上演時間5時間近くいささか疲れましたが、個性的で力(体力?)のあるダンサーがたくさんいないとできない作品だということがよく分かりました。
ベルリン国立は、ダンサーとしてのマラーホフさんに、ディアナ・ヴィシニョーワさん、『リング』のミカエル・ドナールさんなどのゲストもいますが、3団体からピックアップしたためでもあるでしょうが、若いダンサーが多く日本人も3人ほどいて、これからが楽しみの団体だと思いました。
秋にはシュツットガルトバレエ団の来日も予定されており、ドイツの舞踊、演劇文化に触れる機会はまだありそうです。もちろん音楽もあるでしょう。
わが国にとって、ドイツからは芸術面も重要ですが、私の関心事である劇場と芸術団体のありかた、助成の在り方など、芸術と社会の関係、すなわちこの意味での社会の文化について学ぶことが多いのではないでしょうか。
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。