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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.57:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.57

2006.2/1
 

厳しさを増す舞踊界の環境
 ー期待すべき動きも少しずつー


 
 
●環境が厳しく変わっている
 1か月ほどお休みしました。その間にもいろいろなことがありました。でもお正月、昨年の回顧、そして今年の展望、なんてほどのことはではありませんが、いくつかのポイントをあげて、感想を述べてみたいと思います。
 まず、舞踊界全体をとりまく環境について。全体の流れとして、「官から民へ」、「中央から地方へ」、「自由化、自己責任」、そして「一層のリストラ(再編成)」が、政治、経済の分野で進行しています。これは政治的には財政再建、経済的には国際競争力の強化が主要な目的です。私はこれらの動きをもろ手をあげて歓迎しているわけではありませんが、このような動きは舞踊界にも影響を与えないわけがありません。
 まず、舞踊界の外圧としては、現在進行中の公立文化施設(ホール)の指定管理者制度の実施です。この問題については、すでにこのページで何回もとりあげ、解説もしましたので、詳しくは述べませんが、要はホール運営に採算とか効率化の考えを強く取り入れようということです。こうなると、ホール側としては採算の悪いもの、集客率の悪いものは取り上げないということになりかねません。さらに特殊法人問題もあって、ホールそのものが採算いかんによっては閉鎖、売却など切り捨てられる恐れがあります。
 この動きはすでに始まっていますが、今年はさらに具体的になってきます。
 では、この動きのなかで、舞踊界はどんな状況にあるでしょうか、それをジャンル別に考えてみましょう。
●現在の舞踊界概観
バレエ界
 昨年は一言でいえば、「新国立バレエは少しずつ存在感を増し、Kバレエカンパニーもいろいろと話題を提供、松山、牧、東京バレエ団、それに続く中堅バレエ団もそれぞれこれまでの行き方をベースに、少しずつ工夫を加えながら活動を行った」、ということでしょうか。たしかに多少の新しい動きはあったにせよ、全国的に従来の枠組みは変わらず、とくに首都圏では外来団体を含めて多くの観客を集めています。ダンサーにも話題になるような大きな変動はありませんでしたが、現在はまだ決定打に欠けるとはいえ、新国立など一部に若手の進出がみられるようになりました。

モダンダンス界
 伝統的ないわゆる現代舞踊界では、首都圏と各地の関係も含めてとくに大きな変化は感じられませんが、現代舞踊協会のバックアップもあって、中堅・若手のなかに積極的な活動を始めたものが現れ、文化庁芸術祭優秀賞を受けた井上恵美子さんをはじめ受賞、顕彰面でも注目される活動がみられました。コンテンポラリー、舞踏系も、カンパニーやダンサーの間の大きな変動はなく、大御所、トップクラスは活発に活動を続け、それらを中心にマスメディアの注目度はいぜんとして高いのですが、あとに続く新しい力がやや弱いのが、このジャンルの特性からすると気になるところです。

フラメンコ、ジャズ
 フラメンコは、全体として若手、中堅ダンサーのレベルが上がり、とくに見所ある男性が少しずつ増えています。ただ、それは小島章司さん、小松原庸子さんなどこれまでの舞踊団の層を厚くしているのであって、業界全体を動かすような新しい力は鍵田・佐藤さん以後現れていません。
 ジャズダンスも、一部のトップカンパニーとそれに続くものとの差はまだまだ大きいのですが、ジャズダンス芸術協会などで底上げの動きが見え始めました。

コンクール
 コンクールはますます盛んになり、海外との提携の強化といった拡大化、国際化の一方で、地元ダンサーのレベルアップのための指導を主体とするローカル化の動きもあちこちに生まれています。今や国内でもコンクールの行われない月はなくなりました。

●舞踊界に内在する問題
 以上、舞踊界全体を概観しましたが、率直にいってインフラ(よって立つ基盤)を含めて、大きな変化はありません。バレエを中心にダンスを習いたいという人は、老若男女依然として増加傾向にありますし、TVドラマや映画への進出、またダンスをテーマにした番組もお笑いを含めていくつか見られるようになっています。
 したがって、これでずっとやってきたんだから、これで頑張ればいいんじゃないの、無理して変えなくても、という考え方もあると思います。
 たしかに、舞踊界のなかで大きなトラブル、問題があるわけではなく、反乱がおきているわけでもありません。しかし、本当に今の姿でいいのでしょうか。
 私はいくつかの問題、重要な問題があると思います。それは次の点です。

ある程度の力(これは難しいのですが、海外と比較してあまり遜色のないレベル)をもち、定期的に公演を開                                 いている団体は、圧倒的に東京に多いなど偏在し、全国の舞踊ファンが等しく楽しめるという状態になってい ない。しかもこれらの団体は、新国立劇場バレエ団など一部を除いて常打ちの劇場をもたず公演のたびに劇場  を借りているという不安定な状況。
これらのプロの力をもった団体にあっても、その団員で舞台活動だけで生活できるものはほとんどおらず、  女性ではチケットノルマによっってむしろ持ち出しにならざるをえないものが多い。しかし、それでなければ踊る機会がない。
コンクールは、踊る場の少ないダンサーにとっては貴重な機会なのである。
力をもった団体であっても年間50回を越える公演を行っているっところはきわめて少ない。しかし、団体の数は多く、優れたダンサーは分散し、中堅以下の団体では公演と名乗っても生徒を出演させ、プロとアマ、公演と発表会の区別が付きにくいものも少なくない。男性がフリーになりたがるのは、自由にあちこちにゲスト出演し、収入を増やさなければならないからである。
世界のどこでも、入場料収入だけで団体が維持できるところは少なく、公的助成、民間の支援があって、団員にもきちんと給料が払えるし、病気や怪我にも対応できるのだが、わが国ではこの体制ができていない。わが国でこれに代わるのが、生徒からの授業料などの収入である。しかし、これでも団員への給料を払うまでには至っていず、せいぜい指導料、授業料として収入が期待できるだけである。現役ダンサーにとっては生徒に教え、発表会などをひらかなければならないのは、大きな負担である。
多くの団体にとって深刻なのは後継者問題である。これは個人経営、家族経営のところだけでなく、集団指導制をとっているところでも、個人の力に負っている面が多く、同じ問題が生ずる。
●問題解決の動きとこれからの要点
 以上のような舞踊界固有の問題に加えて、冒頭に述べた、劇場にかかわる問題、公的助成にかかわる問題が追い討ちをかけます。これは端的には、劇場確保の困難性、助成の減少のおそれが大きくなることです。
 もちろん、これらの問題に対応した動きも少しずつではあるが生まれてきています。
 新国立劇場バレエ団、新潟市のりゅーとぴあの金森穣さんのノイズム、京都府のA.A.P(アルティ・アーティスト・プロジェクト)などでのダンサー、団体のレジデンス化の状況についても、すでにこのページでいろいろ紹介してきましたし、多くの知るところでしょう。佐賀の野村一樹さんのプロ・ツアーカンパニーの試み、そして広島(福山)のY.O.D.P(イエロー・オーク・ダンス・プロジェクト)による、本物の舞台を見せる努力、これらも再三取り上げています。Kバレエカンパニーも、熊川哲也さんが真のプロ化、近代的経営について、これまでと違う戦略をとろうとしているようです。
 そして多分、後継者問題についても、それぞれいろいろと考えていると思います。
 しかし、これらはそれぞれ大事なことではあっても、個々のレベルの施策です。舞踊界全体についても重要なことがあると思います。そのキーワードは「再編成」です。
 産業界ではもちろんのこと、地方自治体(市町村)、さらに特殊法人、省庁など、合併、再編成ばやりです。たしかに行き過ぎも、やり方の問題もありますが、弱者の乱立では、顧客に十分なサービスもできませんし、合理化もできず、海外との競争にも負けてしまいます。
 舞踊界も同じではないでしょうか。もちろん、それぞれには歴史の重みもあり、愛着もあるでしょうが、大同団結をしないとやっていけないような時期が必ずくると思います。これは東京や大阪、名古屋といった都会の舞踊団体をまとめるだけではありません。むしろ重要なのはそれ以外の各地です。それぞれの土地の教室が団結して充実した舞踊団を結成すること。こうすることによって、質の高い舞台を提供できるだけでなく、助成、支援も受けやすくなると思います。
 今、名古屋で意欲的なプロジェクトが始まろうとしています。まだ全貌がよく見えませんが、関心と期待を持って見守るだけでなく、それが望ましい方向であれば私としてもできる協力はしようと思っています。これは私としてはA.A.P、Y.O.D.Pに続くあと押し第3弾になるかもしれません。

 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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