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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.58:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.58

2006.2/14
 

舞踊界に一石を投じるプロジェクトとして
 ーダンサーズ・スコーレへの期待ー


 
 
●舞踊界のインフラとしての舞踊教室の功罪
 海外と比べてわが国の舞踊界を特徴づけているのは、良くも悪くも舞踊教室、スタジオの存在であることは否定する人はいないでしょう。小さいもの、カルチャー教室なども含めると全国で1万5千とも2万ともいわれる教室。これが実質的にわが国舞踊界のインフラストラクチャー(支える基盤)であり、ここからの収入が多くの指導者の生活を支え、活動の資金源となり、さらに生徒やその関係者がチケットを負担することによって舞台活動を可能にしているのです。全国津々浦々の才能と意欲のある若者への受け皿としての役割も重要です。一方問題点としては、プロのカンパニーが作りにくいこと、プロとアマの区別、発表会と公演の区別がつけにくく、一部の大都市圏を除いてはプロによる舞踊公演がしにくいことでしょう。これは指導者の収入にもかかわるため、教室を1本化する大同団結することがきわめて難しく、それぞれが発表会など独自の活動を行っているのです。
 さらに実態をいうと、バレエ教室は生徒が集まりやすいのですが、モダンダンスその他はこの点で難しい状況にあります。したがって、内容は別として多くがバレエ~とかモダンバレエ~などと呼称しています。
 いずれにしろ、舞踊教室は個人経営がほとんどで、きちんとした総合的な教育システムをもっているところは一部を除いて決して多くありません。
 このような状況のなかで、個人でなく組織としてダンサーの育成システムをつくりあげていこうという試みがスタートしました。

●豪華な顔触れのダンサーズ・スコーレ
 それは、本拠を愛知県尾張旭市におく「ダンサーズ・スコーレ」です。これは国内外の一流の指導者、振付家、舞踊家を講師として教育プログラムを組み、受講者はそれらを自由に組み合わせて選択できるオープンスタジオ形式でスタートします。そしてその経営団体である「ダンスソフィア」をNPO(特別非営利)法人にしようとしています。
 実は、前回このページに[名古屋で意欲的なプロジェクトがスタートした]と書いたのがこのことです。
 このダンサーズ・スコーレがこれまでのオープンシステムのダンススタジオと違う点がいくつかあるようです。そのひとつは、芸術論、舞踊史、音楽理論など、プロのダンサーとして必要な知識も学べることです。そして、クラシックだけでなくモダン、コンテンポラリーも一流に舞踊家から教わるようになっていること、そして振付など創造性を高める講座も設置することになっていることも、類似のものが東京にはありますが、中部では初めてですし、その顔ぶれが豪華なのも魅力的でしょう。
 この開校記念のスペシャルプログラムが先日(2月11日)に行われ、それに参加してきました。ワークショップ(レッスンデモンストレーション)として、クラシックはイルギス・ガリムーリンさん、コンテンポラリーは白河直子さんという魅力的な顔触れ、そして記念のシンポジウムが行われました。この2日間以外にも講師が予定されている人たちが、地元だけでなく東京や大阪からも顔を見せ、賑やかな会となりました。

●きちんとしたシステムをもつ学校を
 ただ、ここでこのスコーレ(スクール)を取り上げたのは、それを宣伝するためではありません。むしろ、きちんとした舞踊学校を作るには、わが国の舞踊界がかかえていると同じ問題に直面するということをはっきりさせたかったからです。
 たしかに、オープンシステムのダンススクールは欧米にもあります。日本からもたとえば文化庁の海外研修生でそういう所で学んでいる人もいます。プロを目指す、ある程度出来上がった人でしたら、そこでたとえば個人教授的なかたちで研修するというのはいいと思います。ただ、わが国ではもう少し別のシステムがより必要な気がします。
 それはオープンな自由選択というシステムよりも、きちんとしたカリキュラムをつくってシステマティックに教育する(学ぶ)ことです。
 つまり、わが国で必要なのは、プロが学ぶのではなく、プロになるために学ぶ場なのです。それでは、自分のやりたいことだけをやるのではなく、プロになるためにやらなければならないことをやる、ことです。そして、個人の素質や進捗度に合わせてきちんとクラス分けして教育することです。
 もちろん、趣味のクラスがあってもよいのですが、それとプロを目指す人たちとはきちんと区別しなければなりません。ここでは、基礎をまずしっかり身につけることから始まって、あせらずに着実に向上していくことです。人間としての向上、その意識を持つことも重要です。いろいろな段階で厳しく選抜することも必要になります。

●現実には大きな壁が
 細かな内容は別として、基本的にはこのような教育理念、システムに反対する人はいないでしょう。しかし、ほとんどの人はいうと思います。『実際は無理だよ』と。
 たしかに、このようなスクールを作り、運営するには、いくつかの問題、障害があります。まず、これをきちんとしたら儲からないというより、赤字でやっていけないでしょう。なぜなら、こんな厳しいシステムの下で学ぼうという人はそうたくさんはいない一方、人件費をはじめ経費はそうとうかかるからです。それを解決するには高い授業料を設定しないとなりませんが、そうすればなお受講生は減ってしまいます。
 海外でも、学校は公立ないし、多額の助成、寄付がないとやっていけません。わが国でも新国立劇場のバレエ研修所は、多彩なカリキュラムをもっていますが、これももちろん採算は合いません。
 したがって、ある程度コストを減らし、収入を増やすための施策が必要です。寄付をつのるのもその一つですが、しばりをゆるめて受講者を増やすことも考えなければなりません。ただ、普通のバレエ教室やオープンスタジオ、カルチャースクールと同じでは仕方がありませんので、特徴は必要です。それはやっぱり、一流のプロの育成、というこでしょう。そのためには、あるていど長期的、システム的な教育プログラムを組むことです。

●就職先としての舞踊集団
 もう一つ、基本的な問題があります。それは卒業生をどうするかです。つまり、プロを育成するということは、ダンスを仕事とするわけですから、就職先、あるいは仕事の場を用意しなければなりません。そのために望ましいのは舞踊団を作ることです。それをしないと現実には学校は成り立たないと思います。ここでもNPO法人として舞踊団をもつことを長期的には考えることが必要となります。
 この点にもかかわって別の障害があります。それは既存のバレエ教室、ダンススクールとの関係です。今回のスコーレでもそうですが、周囲が認めるのは精々オープンスタジオまでで、きちんとした学校、いわんや舞踊団を作るといったら、協力はまずえられないどころか、妨害があるかもしれません。
 これもある意味では当然なのです。というのは、戦後60年、多くの舞踊団や教室は厳しい環境のなか、必死に努力して生徒を育て、団体を発展させて今日を築いたわけで、それを侵すような相手、つまり生徒を奪うような存在を排除しようというのは、しごく当たり前の行動だからです。ただ、それでも、私は、舞踊家のための学校を作るのなら、今までと同じものでは意味がないと思っています。なんとか、スポンサーを見つけ、収入の道を探して、システムをもったプロのための学校を作り、将来はダンサーカンパニーを持つことも考えて欲しいと思います。
 なぜなら、このページでもたびたび書いているように、舞踊界の環境は内外ともにますます厳しさを増すことは明らかであり、これまでのようなやり方をしていては立ちいかなくなる団体が必ず現れてくるからです。
 もちろん、愛知でも強いところは残るでしょうが、これまでのやり方に一石を投じることも重要なことだと思い、この[ダンサーズ・スコーレ]にこの役割を期待したいのです。

 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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