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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.62:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.62
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ますます厳しくなるホール事情
ー公立のホールへのアーティストからの積極的な働きかけを-
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●彼女は仙台を離れて名古屋へいった
先日のトリノオリンピックで日本人唯一のゴールドメダリスト、フィギアスケートの荒川静香さんが仙台の出身ということを知っているかたは少なくないと思います。彼女は早稲田大学に入学して東京に出てくる前、高校(東北高校〉までは仙台で長久保裕さんの指導を受け、長野オリンピックに出場しています。なぜ、こんなことを書いたのか。それはたまたま見たTV番組のことに触れたかったからです。この長久保さんはその後も仙台で指導を続け、有望なジュニアを育てているのです。そのなかに9歳の女の子がいます。実は最初はなんとなく画面を見ていたので、名前は開き漏らしましたが、子供の部では何回も優勝している、とても可愛い子です。実は彼女は荒川さんが仙台で凱旋パレードをやったとき、同じオープンカーに乗っていました。
さてこれからが本番。なんでもそうですが、とくにスケートはリンクがなければ練習はできません。その練習リンクの確保にみなさん苦労をしているのです。仙台にもかつてスケートリンクが2つあったのですが、そのうち一つはすでに採算の関係で廃業してしまっているようです。残ったひとつもこのたび採算のとれる冬期だけのオープンに変えてしまったのです。それでは十分な練習ができません。もちろんコーチや選手たちは、反対で、小さいスケーターたちも街頭で署名運動をしました。しかし、採算が合わないということでスケート場の決定を変えることはできませんでした。
それでどうしたかというと、長久保コーチと何人かの幼い選手は、親元を離れ、名古屋に移ってそこでトレーニングを続けることにしたのです。名古屋は、これは周知のフィギュア王国、かつての伊藤みどりさん、現在でも安藤美姫さん、浅田舞さん、真央さん姉妹などがいて、ここでは、他よりはまだまだ練習環境が整っているのです。彼女たちの、出発というか、別れの場面も放映されましたが、本当にかわいそうでした。でも、名古屋に行ける子はまだ幸せなのかも。これまで一緒に練習していたのに、これでスケートを断念しなくてはならない子もいるのです。(一方で、荒川さんたちを集めて行われるフィギュアスケートのイベントは2万円近い入場料なのにあっという間に売り切れてしまったといいます。)
●舞踊公演の場が減ってくる
これは他人ごとではありません。民間経営、営利である以上採算にあわない事業を続けろといっても無理なはなし。劇場にもそれはいえます。つい最近、残念ながら天王洲アイルのアートスフィアも、方針を変え、使用できなくなってしまいました。
それどころか、再三書いているように、公立のホールも指定管理者制度の実施で民間が参入していますし、従来の運営財団が管理者になっても、また自治体の直営館であっても、収支・採算はさらに厳しくチェックされることになります。
現実に、反対運動にもかかわらず閉鎖、転用されるホールは、各地の厚生年金会館をはじめいくつもありうるということを、もうあちこちで聞いています。自分たちの拠点劇場をもたない舞踊団、スタジオは、会場の確保がますます難しくなります。とくに残念ながら、公立のホールの舞台芸術振興や創造についての使命感はもともと高くないところが多いのですが、そのなかでも優先順位からすると、一般的には、舞踊は残念ながらきわめて低いのです。
これは、ホールの自主事業に舞踊をとりあげてくれるかどうかに直接かかわってきます。もっとも望ましいは、各ホールで舞踊団を丸抱え(専属)にしてくれることですが、これは外国では当然のことなのですが、わが国では一部を除きなかなか難しい。それで、まず自主事業(公立のホールが自主的に企画し、経費を負担して行う公演)に舞踊をとりあげてもらうことになります。
●ホールで舞踊公演を企画するには舞踊芸術監督が
これには、まずホールに舞踊のことを知り、関心をもってくれるスタッフを置いてもらうことが重要です。具体的に望まれるのは、舞踊芸術監督の配置です。
この件についても、このページだけでなく、あちこちで書いたり、喋ったりしてきました。最近では、(社)全国公立文化施設協会のアート・マネジメント・セミナーに、「公立文化施設と芸術監督の役割」というテーマでシンポジウムを行いました。
これは舞踊だけでなく、舞台芸術という広い視点でその必要性と機能について考えてみようということでした。
出席者は音楽関係では元沖縄シュガーホールの芸術監督中村透さん、演劇から愛知県のパティオ池鯉鮒(知立)の芸術総監督伊豫田静弘さん、愛知県芸術文化センター舞踊学芸員の唐津絵里さんが舞踊関係、唐津さんは芸術監督ではありませんが、ある意味ではそれ以上の企画、実践を行っています。
司会(私)の不手際から、話が少し細かい実務のほうにそれてしまったので、ここで私の考える芸術監督の機能について、とくに舞踊に焦点をあてて整理しておきます。
・自ホールの性格づけ、役割についての基本方針設定への参画
・上記に基づく舞踊に関する長期方針、計画、(予算、体制を含む)の立案
・上記の実行計画(年間、あるいは半期)へのブレークダウン(展開)
・個々の舞踊事業の具体化、実行およびその結果に対する責任(内容、収支など)
たとえば公演やワークショップの企画、アーティスト、(演出・振付者、ダンサー、音楽家、美術家など)の選定、折衡、広報などのプロデュース(制作)。ばあいによっては直接作品の演出、振付、出演者、スタッフの指導など
・長期の、あるいは事業ごとのスポンサーの依頼、獲得
[小生原稿「自主事業推進のための舞踊芸術監督の役割」芸術情報アートエクスプレス、(社)全国公立文化施設協会発行 vol.22より]
これは民間の独立した舞踊団体、たとえばバレエ団の芸術監督とは、形の上では同じ部分もありますが、公立文化施設における芸術監督は、上記に関していわば最大のスポンサーである県や市などの自治体、教育委員会、あるいは議会、場合によっては納税者への説明責任が生じます。ここで必要なのはプレゼンテーションの巧拙もありますが、もっと大事なのは舞踊を真に愛し、その振興についての強い信念をもつことです。さらに、彼、あるいは彼女をとりまく施設の他の職員の協力、バックアップです。
したがって、単に舞踊についての深い知識、広い情報、そして高い能力をもっているだけではつとまりません。
しかし、逆にいえば、設置者(自治体)の協力があれば、経費的にもいろいろな事業を行うことが可能となります。新国立劇場の舞踊芸術監督牧阿佐美さん、新潟市の市民芸術文化会館りゅうとぴあのレジデンスカンパニー、ノイズムの芸術監督金森穣さんは、もちろん、いろいろな面で責任は重く、難しいものがあるにしても、そうとう大きな仕事ができる可能性をもっており、事実活動を行っています。
●舞踊界からのホールへの働きかけを
ただこれらの劇場はアーティストをすでに専属させているわけですから、その点では範囲はかぎられています。わが国の特徴である民間のフリーのカンパニーやアーティストが圧倒的に多い実態からは、とりあえず愛知芸術文化センター方式、すなわち=原則として地元のアーティストを前提、あるいは主体として企画をたて、公演やワークショップを行う=、が全国各地に広がるように進めるといいと思います。それにはまずそれぞれの地区の舞踊界が団結、協力してそのカをアピールすること、そしてホールの担当者に働きかけること、さらに舞踊についての専任担当者、できれば舞踊芸術監督を置いてもらうことです。
そのためにはその地区の舞踊のレベルを高める、プロのレベルにすることも必要です。
これは鶏と卵で、地元で充実した舞台が増えれば、優れたダンサー、アーティストも育つし、また集まってもくるでしょう。
問題は、上記のような人材がどれだけいるか、ということです。何人かはいると思いますが、舞踊アーティストは組織に縛られるよりフリーでやりたいという人が多いのも事実、そこが難しいところです。しかしながら、このような、つまり多少不自由な部分があるかもしれない公立の組織のなかで創造活動に力を発揮することができる人材を発掘し、育成して、送り込むことが、とくに全国各地の舞踊界としては多少長期的には必要かもしれません。
私も公立文化施設協会において、セミナーや寄稿、そしで直接に各地のホールにこのようなことを伝えています。
舞踊に興味をもち、企画をしてみたいという人が各地のホールに増えるように頑張りましょう。 |
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。