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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.65:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.65

2006.5/24
 
舞踊の実態を用語で考える ーうら(わ)よみ辞典

 
 
●裏から鋭くおかしく解説する辞典
 劇作家であり、演出家である別役実さんの著書に『うらよみ演劇用語辞典』(小学館、2003年刊)があります。これは書名どおり、演劇に関係ある用語をうらから、意表をついて楽しく解説しながら問題の本質を鋭く指摘した書物です。
 全体で80項目、1項目1ページ半ほどで、「なるほど」、「そのとおり」、なかには「へー、そうかな」などいろいろ。「眼からうろこ」、「あっはっは」、もあります。
 この香りを短く紹介するのは不可能ですが、たとえば[客]という項目ではこんなことが書いてあります。
ーかねてより演劇人は「客のいない演劇」というものを夢想してきた。その時こそ演劇は演劇それ自体の法則のみに従って、ほとんど理想的に展開される、と考えられたからである。そして演劇から客を締め出す試みがいろいろ行われてきた。罰金制度もその一つであり、これが入場料であるが、これは言い換えれば罰金さえ払えば客席に入ることができるということで、客が罰金(入場料)を払ってでも客席に入るのは、「演劇を理想的に展開させてなるものか」という客の衝動が強い証拠だ。
 それで客が舞台を妨害しなくする方法を考えた。一つは椅子を居心地悪くする方式、もうひとつは居心地良くする方式。もちろん、前者は早く帰らす、後者は居眠りさせるためである。しかし、どちらも効果なく、さらに客席を暗くして客が見えなくする、開幕のベルをならさずにさっさとやってしまう方法などいろいろ工夫してみても、みな失敗ー
 これだけでなく、さらにさまざまな方法、そのすべてがうまくいかない理由などが半分納得、半分眉唾で述べられているのです。結論は、客がなぜ演劇を見にくるのか分からないのだから、どうしたら見にこなくなるか、その方法など考えられるはずがない、なのです。
 もちろん、このような演劇の本質?にかかわる哲学的なものばかりではありません。たとえば[ダメ]、や[ドサまわり]のように、実態らしきものを述べて、ものもつ意味や問題を描き出すものもあります。これらを紹介していると、それだけで終わってしまいますし、著作権者から文句が出ますので、これ以上知りたい人は、本を買って読んでください。私は何回も読んで、そのたびに楽しくなります。

●舞踊実態のうらわよみ辞典?
 そこで、これをまねて『うらよみ舞踊用語辞典』をやってみようかと思うのです。もちろん、別役さんほどの知識もセンスも筆力もありませんから、まねするなといわれるより、全然まねになってないじゃないかと怒られそうですが。もしかしたらかもしれません。とりあえず次の2つの言葉を。
 [場あたり]
 本番前に、舞台の広さに合わせて空間の使い方、動きやポーズの位置を確認すること。
 望ましいのは音楽を流し、踊りやマイムを本番どおりに進めることですが、主には自分の使う場所、他の出演者との位置関係を確認、調整するためです。
 外国のように、本拠の劇場があり、つねにそれを使って振付からリハーサルを行っている場合には、場当たりは必要ありません。海外のカンパニーやダンサーがあらためてこれを必要とするのは、旅公演やゲスト出演で、初めての、あるいはなれていない劇場を使う場合だけです。ところが、日本の場合には、ほんの一部の例外(新国立劇場バレエ団、りゅうとぴあノイズムナなど)を除いては十分にリハーサルに使える劇場をもっている団体はないわけで、本舞台での練習はせいぜい1日か2日だけなのです。キャストもいろいろと変わります。
 したがって本当はゲネプロ(本番並みの総稽古)をしっかりやらなければいけないのですが、装置などの仕込みの時間もしっかりとれない状況、しかも本番当日まで出演者全員がそろわないという状況があちこちで慢性化しているのです。したがって本番直前に必要な部分だけ、しかもとくに男性ダンサーが振付をおぼえたり、ダメを出されたりしながら、なんとかかっこつけつけざるをえないのが多くの実態です。つまりきわめて「場あたり的」なのです。
 「場あたり」が切実なのがコンクール。ほとんどの出場者はその舞台を踏むのははじめてなのです。したがって舞台をうまく使うには、事前の本番並みのリハーサルが望ましいのですが、それは実質不可能、したがって少なくとも場あたりは絶対条件です。
 たしかに、どのコンクールでも場あたりの時間はとってあります。休憩といわれますが、これはお客さんのためでも、審査員のためでもありません。出場者の場あたりのためなのです。しかし、実際には何十人に15分か20分。全員一緒にやりますから舞台はまさにラッシュ状態、こうなると場あたりではなく場所とりの競争になります。図々しい方が勝ち、負けた子は端の狭い場所で回転やポーズの練習をするのが精一杯、広い舞台で踊る小さいお子さんなんかとてもかわいそうです。
 それで、あるところでは、コンクールにでかける前に地元のホールを借りて、本番のステージと同じ大きさを設定、そこでリハーサルをくりかえしています。さすがにこういうところはつねにいい成績をあげています。
 本当は、コンクール前3~4日はステージ、あるいはステージと同じスペースのリハーサル室が解放されていて、もちろん使用時間配分は必要ですが、出演者が十分に舞台が使いこなせるようになってコンクールに出場することが望ましいのですが。
 [舞台監督]
 ステージ・ディレクター、あるいはステージング・ディレクター
 公演に際し、舞台設定の準備・実行、本番の進行に関する一切を仕切り、それらに権限と責任をもつ役。ブタカンなどということもありますが、なんとなくこ太りで、ブーブー文句ばかりいっているイメージになってしまいます。でも、私の知っているブタカンはみな紳士で真摯な方ばかり。敬意を表して舞台監督か、せめてブカンさんと呼ぶべきでしょう。
 しかし、具体的になにをやっているのか外からはよく分からないのです。同じスタッフでも、音響、照明、美術(装置、大道具、小道具)、衣裳は分かります、そしてこれらの基本的方針を出し、統合するのは演出・振付者のはず。緞帳の上げ下げは操作担当者がいますが、そのタイミングを指示するのはブカンさん?舞台にゴミが落ちていたら拾うように指示するのも?でも、それだけではないでしょう。舞台の出入り、場面転換などの指揮、仕込みやリハーサルのスケジュール管理など。
 踊りの世界で大変なのは子どもさんたちの発表会。おむつのとれない幼児が固まったりすると、もうお手上げ。もちろん親御さんが責任をもって面倒みるのでしょうが、親の方が頭が真っ白。こうなるとブカンさんや助手さんたちは保育園の園長さん化するのです。
 振付者や出演者は、いいブカンさんだととても楽、安心だと、大きな信頼を寄せています。なぜと聞くと、どんなことを頼んでも必ずなんとかしてくれるんだもの、と。もしかしたら全部おまかせ。ー美術も照明も…
 本番後の打ち上げでは、出演者から一番大きな拍手をうけるのも舞台監督なのです。カーテンの裏の力持ち、とても不思議な存在。

 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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