ダンスの動画・コラム・コンクール情報専門サイト

舞台撮影・映像制作を手がける株式会社ビデオ。
HOME > ニュース & コラム > コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.70:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

News & Column
ニュース & コラム

コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.70:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.70

2006.11/21
 
成功の山口県国民文化祭「洋舞フェスティバル」
 ―これをきっかけに舞踊界の一層の充実を― 

 
 
●ようやく国民文化祭(国民文化祭・やまぐち2006)をみることができました
 国民文化祭という催しがあります。皆さんはこれについてどの程度知っているでしょうか。実は私はほとんど実態を知りませんでした。もちろん、名前は前から聞いていましたが、それがある程度具体的になったのは、前々年ですか、福岡県で開催されたときに、北九州で洋舞フェスティバルが行われ、黒田呆子さんが推進委員会の委員長をされて、その出演メンバーのなかに障害をもつダンサーを神奈川県と兵庫県代表として選ばれたことからでした。それは横須賀の伊与田あさ子さんのところの伊与田未亜さんと、神戸の藤田佳代さんのところの安田蓮美さんで、このような方たちが出演するのは素晴らしいことだととても嬉しかったのです。ただ、拝見できなかったので、それ以上のことについてはよく分かりませんでした。
 今年は、その国民文化祭が山口県で開催され、そこの推進委員長の加藤燿子さんからお話をいただいて見にいってきたのです。それで、自分がなんとなく抱いていた国文祭のイメージと相当違ったので、もう少し全体を掴んでみようと思いました。加藤さんは山口市在住、そこでスタジオ(加藤舞踊学院)を経営、広くモダンダンスの活動を行っておられる方で、社団法人現代舞踊協会の中国支部長をはじめ、多くの役職、そして多くの賞を受けておられます。

●国文祭と国体(国民体育大会)
 国民文化祭についての私の最大の誤解は、国民体育大会の文化・芸術版だと思っていたことです。実は国民体育大会のこともよく知らないのですが、マスコミ報道などから、次のように理解していました。すなわち、全国的、総合的なアマチュアスポーツの祭典であり、都道府県で男女別にそれぞれ天皇杯、皇后杯を目指して競うもので、そのために過当とも思われるほどの準備、つまり選手の育成をはかっている、といった感じです。
 たしかに、この解釈が正しいとすると、これをそのまま芸術分野にあてはめるのには無理があります。まずいえるのは、芸術の世界では、アマチュアとプロとは、ある部分で区別がつかないが、反面では大きなレベルの違いがあることです。スポーツの世界でも現在ではプロ化が進んでいますが、野球やサッカー、あるいは相撲のような特別な種目を除いては、まだアマ中心でそこに世界的なトップアスリートがたくさんいます。
 したがって国民体育大会のように、全国からトップアーティストが集合するとしたら、それは音楽、演劇、舞踊など、ほとんどプロになってしまうでしょう。
 実は、こう思っていたのです。国民文化祭には、日本各地から優れた著名な芸術家が集合する。そして、自治体ごとに得点を争うわけにはいきませんが、アーティストはそれぞれ地元の栄誉のために全力で演技し、演奏し、踊るのだと。
 これは私の大きな誤解、実態はまったく違うものでした。俳句や短歌のように全国から作品の投稿を求め、募集する分野もあるのですが、それも個人の問題で、例えば県別対抗といったものではないようです。また、全国各地から芸術家、団体が集まるイベントもあるのですが、それもアマチュアで、いわゆるプロの団体は含まれていないようです(例えば合唱、吹奏楽)など。ちなみにオーケストラは全国から個人(アマチュア)が応募し、一般、大学、ジュニアに分かれて合同練習、そして演奏会を開いています。
 ここで今年の山口国民文化祭の全体を整理しておきましょう。
 今回は第21回です。開催は11月3日から12日まで10日間。開催場所は山口県の各所、16の市と町、公演形式、展示形式、全体で百を超える催しが行われました。
 ジャンルも非常に多岐に分かれ、音楽、演劇、舞踊、伝統文化、文芸、映像、美術など11に大別され、それぞれに多彩な催しが行われたのです。例えば生活文化というカテゴリーでは、「食の祭典」として全国から料理人が集結し、各地の名物料理をたべさせるといったものもあります。(正直、これはどうかと思いますが)

●成功だった洋舞フェスティバル
 さて、舞踊部門ですが、これは次の4つからなっています。すなわち、「ジャズダンスフェスティバル」、「たまがわde! フラメンコ」、「社交ダンスフェスティバル」に、今回見に行った「洋舞フェスティバル」です。ジャズ、フラメンコ、社交ダンスに、「洋舞フェス」にはクラシックバレエ、モダンダンスの両方を含みます。なお日本舞踊は能・狂言などとともに伝統芸能部門に入っています。
 「洋舞フェスティバル」は前記したように、クラシックとモダンからの参加。まず地元山口県からは、山口県洋舞連盟の出演で、最初がモダン合同公演、最後がクラシック合同公演、そしてその間に交流の舞として、全国からモダン、クラシック4つづつ、計8団体が参加しました。モダンは静岡県現代舞踊協会として佐藤典子さんの構成・振付作品、秋田県からはたなはしダンスカンパニー(棚橋鮎子さんの振付作品)。そして福岡県の黒田バレエスクールが黒田呆子さんの作品、そして東京都からは坂本秀子舞踊団が坂本さんの振付作品を上演しました。クラシックは宮城県の佐藤悦子さん、岡山県は井上敬衣子さん、徳島県の洋舞家協会からは島田輝記さんの作品、そして新潟県の渡辺珠実バレエ研究所は牧阿佐美さんが橘秋子さんの作品の再振付した作品を上演しました。
 ホスト県の山口の県洋舞連盟のモダン作品は加藤燿子さんの構成・演出・振付作品『まど・みちお作品集』。まど・みちおさんは山口出身の詩人、子どものための童謡に力をいれた方で團伊玖磨さんの作曲による「ぞうさん」はよく知られているところでしょう。加藤さんはここから9曲を選び、90名の児童からシニアの出演者を駆使して、詩的な世界を作りあげ、感動とほほ笑みを呼びました。話がそれますが、山口県には、ほかにも中原中也、種田山頭火、金子みすヾなどユニークな文学者を生んでいるということも、今回改めて認識しました。最後を飾ったのは県連盟のバレエ作品、貞松正一郎さん振付の『アイ・ガット・リズム』です。この作品はすでに何回も上演されている、ジョージ・ガーシュインの音楽による楽しくしゃれた作品です。ここでは連盟の女性メンバーがゲストの渡部美咲さん、そして貞松・浜田バレエ団の男性ダンサーを相手に作品にチャレンジしました。
 千数百名のキャパをもつ周南市(前徳山市)文化会館はほぼ満員。洋舞フェスティバルは成功裡に終わりました。
これ以外の作品については別のメディアでとりあげます。

●国文祭舞踊団は無理としても―
 たしかに、前提条件を認めればこのフェスティバルは大成功といえるでしょう。事実、加藤さんを始めスタッフたちは大変な努力をされていましたし、他の参加団体もそれぞれ成果をあげました。でも例によってつむじ曲がりの私は、国民文化祭そのものにも要望はありますが、取りあえず洋舞部門に限っても次のようなことを考えました。
 これは私の持論ですが、日本の舞踊界は、首都圏を中心に中部、関西などの都市部に集中してしまっています。もっともっと全国各地の舞踊界のレベルをあげ、活動を活発にしてほしいのです。この国民文化祭をそのチャンスとして、開催地はもちろん、全国各地で舞踊界が結集してほしい。そして、その各地のトップメンバーによって編成され、国文祭に参加した団体が、その後国文祭舞踊団のようなものを結成して、プロのカンパニーを目指すようなことはできないのでしょうか。
 東京や大阪など大都市にはかなわない?そんなことはないはずです。国民体育大会でも、高校総体でも、甲子園の野球でも、大都市が強いとはかぎりません。野球でいっても、たとえば、札幌はプロも高校も日本一を争っています。超大都市東京のジャイアンツなんかひどいものです(高校はハンカチ王子で人気ですが)。なんとか舞踊の世界でも、このような方向に向かってほしいのです。それには、行政や地域財界の協力が必要ですが、国文祭はそのいいきっかけになるのではないでしょうか。
 もちろん、簡単にはいきません。超えるべき障害があまりにも多いのも事実です。ただ、すくなくとも、国民文化祭を契機に、なにか舞踊界が変わった、というようになってほしいのです。
 これからの国文祭は、多分徳島、茨城、静岡、岡山といった順で開催がきまっており、これらの各県ではすでに準備に入っているようです。ぜひ、国文祭が開かれたので、舞踊界が一層団結し、活発になったとか、地域社会の舞踊(だけでなく芸術文化全体)に関する関心が高まった、といわれるようになってもらいたいと願っています。

 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

TOPへ