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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.75:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.75

2007.4/12
 
ユニークで活発な愛知舞踊界ーその2
ー3月上旬の3つの公演からー

 
 
●名古屋市が主催するユニークなバレエ公演
この前にも書きましたが、『今、愛知(名古屋)がすごい』。2月に引き続き、3月にも東京ではめったに見られない催しがありました。
 一つは「バレエ フォー カラット」(3月9、10日 名古屋市芸術創造センター)です。これは名古屋市芸術奨励賞受賞ダンサーによるバレエ公演と銘うっており、その授賞者が4人いるので、4Carat(カラットは宝石の質量の単位)と呼んでいるのです。その4人とは受賞時期順に大寺資二さん(平成5年度)、小川典子さん(9年度)、徳山博士さん(12年度)、そして後藤千花さん(16年度)です。大寺さんはいまさら説明する必要もない松岡伶子バレエ団の重鎮、小川さんは佐々智恵子バレエ団のエトワールで智恵子さんを補佐、徳山さんは越智賓さんに師事、現在はフリーとして広く活動、後藤さんはステップワークスというカンパニーを主宰し、主演しながら創作の上演に力をいれています。
 この4人を中心に、仲間たちが集まって公演が行われました。主催は(財)名古屋市文化振興事業団と名古屋市、賞を与え、受賞者に発表の場を与えるところが素晴らしい。作品は2つ『愛のかたち・恋のゆくえ』と『ハムレット』です。
 前者は受賞者4人で振付、全体の演出は徳山さん。「ジゼル」と「白鳥の湖」をモティーフに、主要な役を男女入れ替えて組み立てた意欲的な作品。ジゼル役は大寺さん、アルブレヒト役は後藤さん、ジークフリードが小川さん、オデットが徳山さん、それぞれが男装、女装するのでなく、物語の上で男女を入れ替えているわけです。したがって役名もそれぞれ男性と女性の名に変えられています(例えばジゼルの大寺さんは男性のゼフィレッソ、後藤さんはアルブレヒトでなくアンジェリカという女性として登場)。さらにヒラリオンにあたる役を久嶋江里子さん、ロットバルト役を早川麻実さんといった懐かしい顔が出演しています。これに加え、従者や女官などが多数登場します。したがって話はいささかややこしく、大寺さんがお墓から出てくるなど、パロディっぽくなってしまった部分もありますが、ダンサーのレベルは高く、振付も工夫されて踊りの場面はなかなか見応えがありました。
 『ハムレット』は4人のために石井潤さんがとくに振付けたもの。ハムレットは大寺さん、オフィーリアに小川さん、王妃ガートルードは後藤さん、そして現王クローディアスに徳山さん、さらにボローニアスに藤井百七郎さん、レイアティーズに碓氷悠太さん、そして道化に窪田弘樹さんという豪華な顔触れ。舞台の後部を一段と高く設定、暗殺された先王の亡霊を大きな人形像で表現するなどの工夫もあり、分かりやすくしかもドラマティックに構成・振付され、出演者も好演、見応えのある舞台となりました。音楽の使い方も見事で、今年の収穫の1つとなるでしょう。ぜひ大事にしてもらいたい作品です。
 いずれにしろ、こういう企画は、公的なセクションがリーダーシップをとらないとなかなかできないことで、東京や大阪でできるかというと、残念ながら首をひねらないといけないでしょう。理想をいえば、これが継続、常設になることです。

●愛知県では振付者の育成事業
公的といえば市だけでなく、県もなかなか積極的に活動をしています。上記に重なるように10、11日に『新進アーティストの発見inあいち』という催しが愛知県芸術劇場小ホールで開かれました。
 これは愛知県新進アーティスト育成支援事業として、(財)愛知県文化振興事業団などによって組織された実行委員会が、世界に羽ばたくアーティストの輩出を目指して、新進アーティストを支援し活動の場を提供したものです。この事業は、昨年夏3人の優れた舞踊家、伊藤キムさん、平山素子さん、そして深川秀夫さんを講師として、公募により選ばれた6組の若い舞踊家をワークショップの形で指導、育成してきたものです。選ばれた舞踊家は、伊藤講師のもとには瀧瀬麻衣さん(振付)と三輪亜希子さん(振付・出演)、平山さんには小山田魂宮時さん(振付・出演)と村上和司さん(振付・出演)そして深川秀夫さんの指導を受けたのは畑野ゆかりさん(振付・出演)、山田洋平さん(振付)です。三輪さんと村上さんが自分のソロ、小山田さんが自分と演奏家のコラボレーションそして残りの3人は群舞作品を発表しています。地元近辺の人が大部分ですが、深川さんに学んだ山田さんは筑波大学卒業で、東京のNBAバレエ団、スターダンサーズバレエ団、中村しんじさん主宰のナチュラルダンステアトルなどに所属しているダンサーが出演しています。また同じ深川さんに指導を受けた畑野さんは、岐阜出身ですが、谷桃子バレエ団やKバレエで踊っていたという経歴の持ち主。他の4人も、それぞれ海外や東京で学び、活動し、作品を発表した実績をもっています。
 ここでは、個々の作品も講師の影響がさまざまで興味深かったのですが、このプロジェクトについての感想を述べておきます。といっても時間の関係でくわしい話を聞いておりませんので、あまり突っ込んだことは言えないのですが、このような事業、つまり踊り手でなく、振付者を育てるというのはきわめて必要なことだと思います。わが国にはすばらしいダンサーはたくさんいますが、優れた振付者は非常に少ない。これは、振付を体系的に教えるところが少ないというより、ないことと、振付者を評価する風潮がないことが原因だと思います。
 つまり、職業としての「振付者」が育ち、仕事をする場がないのです。これは前にも書きました川口節子さんなど良い(悪い?)ケースです。
 このような視点でこの事業をみていると、大変に貴重な機会であり、よく手を染めたと評価できますが、率直にいって緒についたばかりで、これを次にどうつなげるかが重要です。そのためには、最低今回と同じ方法でもいいから続けること、理想をいえば、創作・発表でなく。つまりワークショップでなくもっと育成に重点をおいた方法(システム)を確立して実行することです。それには時間もお金もかかります。これは新国立劇場(研修所)でもやっていません。ぜひ愛知県で始めてほしいと思います。

●日本的育成システムの頂点に立つ松岡伶子バレエ団
 もう一つこの近辺で、ダンス王国名古屋を象徴するイベントがありました。それは松岡伶子バレエ団創立55周年記念の団員・研究生合同フェスティバル(3月4日 名古屋市民会館大ホール)です。本部をはじめ計27のスタジオ、教室から約九百名の生徒、団員が出演、上演時間は5時間を超えました。実際にはこの3割増しの生徒がいるとのこと。バレエ界の超大企業ともいえ、ここから団員に選抜されるわけですから、レベルも高くなるわけです。海外では考えられない、いかにも日本的なシステムですが、公的な、あるいは社会や企業からの支援のきわめて少ない日本では、やむおえない存続発展の基礎。バレエを学びたい、踊りたい、という男女が増えているのは事実ですが、それにしても千人を超える生徒を集めるのは至難の技、指導方法やサービスがよほどしっかりしていないと実現しません。松岡さんはその頂点に立っていると言えるでしょう。

 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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