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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.76:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.76

2007.6/12
 
男性優位のコンクール
ーそれには深い理由と問題点がー

 
 
●コンクールラッシュ、新しい動きも
 コンクール列島日本の前半が実質的に終わりました。1月早々の東京、福岡から始まり、群馬、2月に仙台、東京・名古屋のフラメンコ、3月には東京の全国舞踊コンが4月まで、さらに町田、新設の福島、そして5月の横浜、神戸。他にも埼玉、宮城などで行われたようですし、6月にもあるかも知れません。ただ、これで一応前半は終了、年後半は7月下旬の埼玉からスタートすることになるでしょう。その後は新・増設や移転を含めて12月まで前半以上のコンクールラッシュです。
 いま、ここでコンクールの本質論、是非論をやるわけではありません。これについては、このページや雑誌にすでにいくつか書いています。ここでは、最近の傾向、そこからの問題について取り上げてみたいのです。
 コンクールの動向で一番目立つのはその数の増加です。この数年、毎年複数の増加。それも、最初の頃のような新聞社や放送局、あるいは総括団体の主催でなく、舞踊家がイニシィアティブをとり、事務局や実行委員会的なものを組織して開催するという方法が目につくようになりました。東京(NBA),名古屋のいくつか、北九州などは実質的には1つの舞踊団体あるいは個人が主催していますし、その地区の洋舞協会、連合会などが主催するものが最近増えています。また、地域の自治体、公共団体、マスコミなどが、共催、後援、協賛するところは多いのですが、それ以上に関わるところも出てきたのです。
 一つは4月に新設開催された「うつくしま、ふくしま。全国洋舞コンクール」です。これは福島県洋舞連盟が主催、福島民報が創刊115周年記念事業として共催したものです。この新聞社の共催は大変に強力で、開催の翌日の朝刊でまず第一面にカラー写真入りで大きなスペースで報じ、さらに第3面のほとんどを使って結果の詳細と入賞者の言葉、さらに社会面のトップにも観客の感想を客席の写真とともに掲載しています。しかも審査員全員の感想をそれぞれの簡単な紹介とともに記載するという念の入れよう。このバックアップは大きな力で、入賞者はもちろん、参加者、そして今後のためにも大きな励みであり、誘因となるでしょう。今年は福島市で行われましたが、来年は郡山市で開催されます。
 もう一つは8月開催の「グランシップ・クラシックバレエコンクールinしずおか」です。ここは、タイトル(グランシップ)からも分かるように、主催が社団法人静岡県文化財団と静岡県バレエ協会(プラス実行委員会)です。つまり実質的に公的な性格をもったコンクール。これは多分日本で初めてではないでしょうか。どんな形で運営されるのか、その結果はどうか、大変に興味のあるところです。
●男性参加者の増加と上位独占
 コンクールの内容(結果)にも、大きな変化が生まれつつあります。それは一言でいうと男性の進出です。わが国では、まだダンサーという職業が確立していませんので、バレエ界では熊川哲也さんはじめ、男性の実力者、人気者はいますが、これまで女性に比べたらまだまだ男性は質量ともに不足しています。
 コンクールでも同様。つい最近までは女性百人に男性が2~3人いれば、男性は貴重と喜んでいたのです(大体中規模のコンクールでは女性が2~3百名に男性数名といった状況)。それがようやく平均して4~5パーセント、シニアでは1割に近くなってきました。
 つまり、大規模なコンクールでは参加者千名、内男性4~50名といった状況になってきています。こうべは男女別ですから、とくに参加男性はは多く、なかでもシニアでは男性が全体の20パーセント近くになっています。
 ここで問題(あえて問題といいます)が大きくなってきました。それは男性が上位を独占するようになったことです。それはとくにレベルの高い(歴史の長い)コンクールに著しいのですが、全体にこの傾向は生まれていますが、その典型的な例が今年の全国舞踊コンクールです。第1部(シニア)は1~3位、ジュニアも1~3位、第2部は第1位が男性でした。これについては私だけでなく、他のコンクール評でも指摘されて大きな話題となりました。
 もちろん、本当に優れていれば男性独占を批判したり、調整したりする必要はありません。実際に素晴らしい素質と訓練の成果を示した男性も多数います。しかしこれまでいくつかのコンクールで男性の上位入賞について審査員の間でも議論があったことは事実ですし、評論家だけでなく、指導者のなかからも(優れた男性を多数育てている方も含めて)疑問が呈されています。
●男性優遇?女性に厳しい?
 これはまず、個人的なえこひいきでないことは明らかです。主たる理由は次のものだと私は考えます。それは男性と女性と評価のポイントが異なることです。評価のポイントも大きく2つに分けられます。まず、ダイナミックで高いジャンプ、数多い回転、そしてアクロバティックな動きなど、華やかな部分に目が引かれて高い得点を与えてしまうこと、そしてもう一つは、スタイルの美しさ、たとえばプロポーション、とくに爪先の柔らかさなどを重視することです。もちろん、これらはダンサーにとって絶対の条件です。ただ、音楽性、繊細で優雅な動き、作品や役の表現といった点が、そしてもうひとつ、その完成度つまり、技術の安定感とか、動きのなかの身体のライン、爪先の使い方などが男性の場合、全くとはいいませんがあまり重視されていないのです。
 一方で女性に厳しいところがあります。上記の視点についてもそうですが、別の例を上げてみます。それは振付の問題です。古典のヴァリエーションでスタンダードから外れた振付を踊るダンサーがたしかにいます。それを大きな問題とする審査員もいます。私は難しいステップを避けて振りを易しくした場合には、その分を配慮しますが、たんに振りを変えというだけで採点に影響させることはしません。あくまでダンサーとしての評価だからです。海外でも振付を順位に影響させるところはあるようですが、何が基準かを決めることがむずかしいし(たとえばオーロラ3幕のVの最後、上手奧から下手に向かう部分、振りが何種類あると思いますか?)
、それを仮にコンクールとして定めてビデオかなにかで明示しても、そこから外れたかどうかを判断することがとても難しい(たとえば回転数まで規定するのですか)からです。
 これが男女とどうかかわるのか。それは、これが問題になるのはほとんどが女性に関してだからです。男性のVははっきりいえばこの意味では滅茶苦茶です。自分の得意なステップをどんどん取り入れるのが普通で、むしろそれが評価されています。
●男性は貴重、増えてほしいのは確かですが
 この辺から、男性優遇のもうひとつの理由が言われるようになるのです。それは男性が貴重だから少し甘めにしているのではないか、男性にはあまり堅いことはいわないのではないかという疑問です。たしかに、バレエに男性は絶対に必要な反面、男性がダンサーを職業にするには厳しい環境にあることは事実で、コンクールで少し優遇して彼らに勇気を与えたいという気持ちはよく理解できます。ただ、それが本当に本人の、そして日本のバレエ界にとって良いことかどうかは疑問です。日本のバレエを支えているのは実質的にはチケットノルマにも耐えて舞台を支えている女性ダンサーなのですから。この男性甘やかしは、コンクールは別としても、とくに発表会のゲストに顕著です。中途半端な若いダンサーが先生先生といわれている。甘やかしてはだめだ、といろいろなところでいっているのですが、きつく言うとかえって逆効果だとか、次に出てもらえないからやむをえずという答えがかえってきます。
 男性に厳しく要求するところもありますし、まじめに取り組む男性ダンサーは多いのですが適当にやったり、なかなかリハーサルに現れない男性もいるようです。スタジオ発表会で、リハーサルやゲネプロに顔を出してほしい、そうすれば男性もピリッとするから、と指導者に頼まれることがたまにですがあります(もちろん男性ゲストすべてではありません)。男性が貴重だからといって甘やかすことは、長い目でみれば決してプラスではないと思います。したがって、コンクールで男女を分けるというのは、ひとつの解決ではありますが、それだけで本質が変わるわけではないでしょう。
 もちろん、バレエを踊ることでなく、バレエダンサーという[職業]が、男女問わず魅力あるものになることが最も基本であり、重要であることは間違いありませんが。
 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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