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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.77:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.77

2007.8/2
 
文化施設がイニシァティブをとった舞踊の振興
ー山口県(YCAM)の新たな試みー

 
 
●ユニークな公演・混舞
 山口県山口市の山口情報芸術センター(YCAM)は、2003年創立の比較的新しい総合文化施設で、美術、映像、舞台芸術の提供だけでなく、創造機能まで備えるユニークな施設です。舞踊分野についても、コンテンポラリーダンスを主体に、全国の多くのホールとネットワークを組んだり、アーティストをレジデンスさせて作品を制作するなど、積極的な活動を続けています。
 このYCAMで、この度きわめて興味深い催しが行われました。それは「混舞ーDANCE MIX」と名づけられ、[振付家と山口県下ダンス教室の新しい挑戦](パンフレットより)として、振付家を広く国内外から選び、県下のダンサーに振付けてもらうものです(7月21、22日)。このような試みは他になくはありませんが、多くは振付家が主体でダンサーはオーディションなどで広く集めるか、あるいは舞踊団体が自分の会に外部の振付者を起用するというケースです。このように公・民間を問わずホールが舞踊団体と振付家とを結び付けるという形で公演を主催するのは非常に珍しいことです。ホールが舞踊公演を企画し、主催すること自体がまれであり、とくに地元のダンサーを起用することはさらに少なく、私の知る限りでは最近は愛知ぐらいです(過去に遡っても松山、水戸しか記憶にありません)。たとえば、新潟(りゅうとぴあ)とか京都(アルティ)、かっての静岡(スパック)では、ダンサーは地元に限っていないのです(アルティでは芸術監督は地元ですが)。
 この混舞ということばには、いろいろな意味が込められていると思いますが、ひとつは舞踊における山口と世界の混合、そしてもう一つはさまざまな舞踊形式の混合でしょう。

●力のある振付家と舞踊団体
 具体的には次の3つの団体と振付家が結びつけられています。すなわち、本間祥公×加藤舞踊学院、アレッシオ・シルヴェストリン×MBSマリバレエスクール、そして若林淳×AMM。本間祥公さんは現代舞踊界の中堅実力者で、ダンサーとして文化庁芸術選奨新人賞、創作家として文化庁芸術祭優秀賞、指導者としてコンクール1位に与えられる指導者賞その他多くの受賞歴があります。加藤舞踊学院の主宰者加藤燿子さんは、現代舞踊界の重鎮で、⑳現代舞踊協会中国支部長、山口県洋舞連盟理事長など多くの要職に就き、受賞歴も多数。昨年の国民文化祭の功績などで、ことし、⑲松山バレエ団の特別賞を受賞しています。本間さんは加藤さんの作品にたびたび出演しており、ここは気心の知れたコンビです。シルヴェストリンさんはモーリス・バジャールやウイリアム・フォーサイスカンパニーでダンサー、コレオグラファーとして活動した後、2003年より日本で広い分野の振付や指導者として活動しています。最近では映像やインスタレーションにも手を染めています。宇部市でMBSを主宰する清水マリさんは、若いダンサーの指導に注力、全国各地のコンクールで上位入賞者を多数輩出、バレエ界でも注目され始めている若い指導者。初めての顔合わせですが、若い実力者たちがバレエ界の最先端をいくクリエーターの作品にどう挑戦するかがポイント。岩国市に本拠をおくAMMの主宰者北嶋宏子さんは、アメリカでバレエ、じゃず、ヒップホップを学び、現在はコンテンポラリーダンスの分野に進出、首都圏をはじめ各地で活動を行っています。若林淳さんは麿赤兒さんの大駱駝艦の中心ダンサー、日本でも各方面で、さらにイスラエルやアメリカでも作品の発表や、指導を行っています。ジャズ系のダンサーと舞踏の実力者との組み合わせには極めて興味深いものがあります。

●多面的に成功した舞台
 公演は2部にわかれ、第一部は各団体のレパートリー作品、そして第二部は振付家作品です。レパートリー作品はそれぞれの自信作なのでしょうが、モダン、クラシック、コンテンポラリー、それぞれの特徴がよく現れているなかなか面白いものでした。
 本間作品は『一つのメルヘン』。加藤燿子さんがこれまでしばしばとりあげている地元の文学者をモティーフとしたもので、今回は中原中也の詩を取り上げています。まず本間さんがダンサーに囲まれて詩を朗読、7人のダンサーと美術によって優雅で繊細な動きと空間を創造した日本的な感覚の作品。若林さんは『橋掛』。石を積む2人の子供、そして杖をもつアフリカ系のハーフの少年を巧みに使い、人間のもつ此岸と彼岸の意識を、照明と舞踏的な雰囲気をもつ集団の動きと構成で深く表現して、このスタイルの神髄をきちんと見せました。最後はシルヴェストリンさんの『Mikrokosmos』。MBSから選ばれた4人のダンサーと、全面に紗幕を張り、前、奧、そして床に投影されるコンピュータ映像、シルエットを交える照明、それにバルトークの音楽を組み合わせて独特の小宇宙を作り上げました。若いダンサーも難しい動きをしっかりこなしました。
 作品の成果だけでなく、客席もほぼ満杯であり、若いダンサーたちの経験、育成も含めて、この試みは成功であったといえます。ただ、そこにはいろいろな難しさを内在していると思います。

●地元のホールのリーダーシップによる再編成、振興
 この企画をこれからの問題として考えてみましょう。
 各地の文化施設で地元のアーティストを出演させる時、苦労するのは人選、舞踊の分野でも例外ではありません。これは人材不足という意味でよりも、率直にいってまんべんなく、あちこちに顔を立てなければいけないという面が大きいようです。それを避ける方法が、一つは地元の協会や連盟などの総括団体に丸投げ、もう一つがオーディションなのです。それがこの山口のケースでは、個々の団体を選んで出演させています。内情はまったく知らないのですが、スムースに(一発、一本釣りで)この3団体が選ばれたのだとすれば、日本の実情からすれば英断といえるかもしれません。これは、この施設(YCAM)担当者の眼力と自信、そしてこれまでの実績がそうさせたのだと思います。つまり、リーダーシップがしっかりと発揮されたのです。
このようなことを強調するのは、どこに発注するか、だれに踊ってもらうかでいろいろと、あとあとまで苦労したというケースをいろいろと聞くからです。この点をどこでも今回のケースのようにきちんとしてほしいのです。すなわち、再三このページでも書いていますが、各地の舞踊人にもっと団結してもらいたい、そしていろいろな面で強くなってもらいたいからなのです。たしかに、少子化のなか、生徒を確保するのは大変で、熾烈な獲得競争を行っている実態をみると、少しでも自分のところが有利な立場に立ちたいと思う気持ちも理解できます。しかし、小さなパイを取り合うのでなく、団結してパイそのものを大きくする努力、工夫をする方が重要でないかと思います。
 山口地区でも、この3つ以外にも、モダン、クラシック、ジャズなどのダンス教室やスタジオはたくさんあると思います。しかしそれぞれが小さく分散するのでなく、もっと集中して、地元の舞踊ファンの期待に応え、さらにファンを増やしていくような動き、具体的には核となる団体の強化、それに基づく公演の増加が、この公演を契機に生まれるというようになればいいなということです。各地域の中心的な、力のある公立施設がリーダーシップをとって、このような動きを促進してもらえると、結局は舞踊ファンを増やし、舞踊界全体のためになるのではないかと思います。
 その意味で、この公演でも観客の興味を引くような工夫がいろいろとなされていました。舞台切替え時の解説アナウンスもその一つですが、ちょっと気になったことがありました。それは出演者を生徒さんといっていたことです。確かに教室では生徒かもしれませんが、公演の舞台に立った以上は、観客の前では一人前の芸術家として扱い、その表現がほしかったのです。舞台では生徒でなくダンサー、周囲も本人もこの意識をもつこと、これがプロのカンパニーに成長する重要な条件ではないでしょうか。

 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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