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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.78:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)

うらわまこと 2012年8月11日


Vol.78

2007.9/10
 
地域通信(北海道の部)
 積極的に外部への発信を
  ー折角の活動を内輪に終わらせないようにー

 
 
●優れた舞踊家を生み、レベルの高い札幌
 北海道と舞踊というと、現在では熊川哲也さんが有名ですが、その前にも篠原聖一さん、坂本登喜彦さんはじめ、優れた舞踊家がたくさん出ています。これはバレエの分野に限らず現代舞踊の世界でも同じです。ところが地元で活躍している舞踊団体で、東京で広く知られているのは千田雅子さんの主宰する札幌舞踊界くらい。実際には北海道、とくに札幌には多くの舞踊団体があり、それぞれレベルの高い活動をしているのですが、このような実態はあまり知られていません。これは公演の数が少ないこともありますが、情報が少ないのも大きな原因です。
 なぜこうなるのか、ひとつはジャーナリズムのありかた、そしてもうひとつは舞踊家側の姿勢
にあります。札幌市は人口が多分二百万人を超えていると思います。それにふさわしい新
聞、TVなどのメディアは当然あるでしょう。それなのに、舞踊記事として舞踊家やあ団体
の紹介はともかく、公演評が載ることはほとんどないようです。これには舞踊界にもたしかに問題があります。たとえば、定期的に年何回かの公演活動を行っているプロのカンパニーがない。そうするとなかなか公演評も書きにくくなるし、ニュースもめったにありません。つまり舞踊ジャーナリズムが成立しないのです。

●メディアの役割と舞踊界
 これは私が再三書き、言ってることですが、人口百万、二百万の都市でこのような状況なのは欧米では考えられません。これは札幌だけの問題ではありませんが。
 どこに問題があるのでしょうか。基本的には国や道、市などの公的な支援体制の不備にあることは明らかです。さらに社会全体の舞踊への関心の低さにも原因があるのでしょう。しかし、一般企業も含めて企業(会社)には社会的責任があり、そのひとつに芸術文化支援、いわゆるメセナの一層の強化をお願いしたいですが、とくに新聞、TVなどのマスメディアは、それ自体が文化産業のひとつであり、地域文化の振興は大事な使命だと思います。

●まず記者に見てもらう
 もちろん、文化事業、たとえば公演やコンクールなどの主・共催や後援も重要ですが、ここではまずできるだけ紙面や画面に取り上げることを考えたいのです。とくに新聞には当然に文化芸能欄があるのでしょうから、ここに舞踊関係の記事も加えていただくということです。残念ながら舞踊の知識や興味のある記者が少ないというのが実態だと思います。しかし、インタビューはできるでしょうし、批評については地元の舞踊ファンのなかに何人かはその能力のある人がいると思います。専属でなくてもそういう人を発掘するか、たまたま東京などから批評家、ジャーナリストが来訪していなければそういう方に書いてもらってもいいのではないでしょうか。
 基本的には、まず新聞社(TV会社も)の文化関係の記者が舞踊を見ることです。そして多少は勉強して欲しいのです。幸か不幸か舞踊公演はそれほど多くありません。地元芸術文化の振興のためにぜひそういう努力をしていただきたいのです。
 舞踊家側でも、メディアに対してそういう働きかけをしてください。各地の舞踊家の方は地元では名士です。たとえばプログラムに地域のお偉い方が多数寄稿されています。こういうコネを使ったっていいではないですか。なんとかメディアに取り上げてもらい、記者に公演会場にきてもらように努力することが大切です。
 新聞などに載るようになれば、自然と舞台のレベルも上がり、出演者も張りきり、お客も増えるでしょう。そうすれば自治体や一般企業に対しても影響力が強くなり、支援も受けやすくなると思います。もちろん、そんなに単純ではないよ、という声があるのも分かります。でも、少しでもメディアへの露出度を高くする工夫をすることは最低必要な努力ではないでしょうか。そしてメディアのほうでも、年に何回か舞踊のためにスペースやタイムを割くことは、その気になればそんなに難しいことではないでしょう。

●札幌での2つの公演から
 この件に関しては、私ができることは、各地の状況をなるべく多く取り上げることです(もちろん、各種助成や、褒賞についても地域に配慮すべきです)。ただ、自分の自由になる紙面をもっているわけでなく、各紙・誌もスペースなどいろいろな事情で各地のすべてをとりあげるわけにはいきません。
 その意味でこのHPはとても貴重です。そこで、最近札幌で行われた公演を2つとりあげて紹介しておきます。バレエ公演と現代舞踊合同公演です。ともに周年記念公演ではなかなか充実したものでした。 小泉のり子バレエスタジオ40周年記念公演(第1155回札幌市民劇場)
 小泉さんは定期的に公演を行いながら、国内外で活躍する多くの舞踊家を育てています。とくに息女の小泉しづかさんは劇団四季で活躍、ここに戻ってきてからも舞台だけでなく広く指導、啓蒙活動に取り組んでいます。その彼女を芯として望月則彦さん演出・振付の『ロミオとジュリエット』と古典の小品を上演しました。ヤコブス・ウィルフリッツさん、市川透さん、アンドレイ・クードリャさん、貝川鐵夫さんなどが『ロミージュリ』に、そして『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』に大嶋正樹さんといった豪華なゲストに、ここの出身でアラバマや東京シティで踊っているダンサー(大和田千夏さん、岡田亜弓さん)も出演しています。
 望月さんの演出・振付の『ロミオとジュリエット』。彼はこれまで多くの版を作っていますが、今回は彼らしい枠組みのしっかりしたドラマに、動きや美術に新しいアイデアとセンスを織り込み、彼の新らしい面を感じさせる見応えのあるものでした。
 会場は札幌市教育文化会館大ホールで2回(7月21,22日)。2日行うというのもとてもいいことです。千人ほどのホールですが、観客にも出演者にとっても大いにプラス、公演の格も上がります。
 (社)現代舞踊協会北海道支部創立50周年記念現代舞踊公演
 現在はコンテンポラリーダンス(ということば?)が流行っており、現代舞踊はやや劣勢です。しかし、私は戦前の日本のモダンダンスの延長線上にある現代舞踊は、いまや日本独特のダンススタイルとして大切にすべきであり、また十分に身体表現の手法として有効であると思っています。
 この意味での現代舞踊をしっかり守り、かつきちんと活動しているのは大都市圏よりむしろ各地、とくに「北」の付く地域です。東北、北陸、そして北海道もそうです。
 これらの地域では、手法、スタイルだけでなく、モティーフとしても地域に密着した創作活動が活発に行われているのです。
 現代舞踊協会の会員は個人加盟で、団体は協賛ということになっています。今回の北海道支部(佐々木かつ子支部長)の公演では、札幌を中心に帯広、旭川、函館、釧路などからも参加し19の団体、個人がジュニアの合同作品を含めて14作品を上演しました。
 ジュニア合同公演(合同振付)も、ただ、団体を並べただけのとおり一遍ものではなく、しっかりしたコンセプトに基づいて構成された見応えのするものでしたし、能藤玲子さんのような大ベテランから三上久美子さん(振付神田ゆずさん)のように東京でも注目され始めた新鋭、そしてバレエ界で大活躍の篠原聖一さんなど、重厚な作品、感覚的な作品、構成や動きの優れた作品など、またソロから群舞まで、力のあるダンサーも見られ、大変に充実した公演でした。9月1日札幌市教育文化会館大ホール
 ただ、ここに限らないのですが、現代舞踊系はどうしても内輪の集まりになってしまいがちです。ぜひ開かれたものにしてもらいたく、先に述べたようなメディアに対する働きかけや多くの人に見てもらう工夫をして欲しいと思います。

 

うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家

本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。

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