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コラム:幕あいラウンジ・うわらまこと Vol.86:ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO Co.)
Vol.86
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舞踊分野における社会貢献
ー障害者にたいする働きかけをー
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●事業仕分けに耐える社会性、公益的価値を
いろいろと紆余曲折をたどりながら、新政権の2010年度の国家予算が決まりました。昨年11月に実施された公開事業仕分けは、素人集団のパフォーマンスに終わり、あまり大きな成果をあげるにはいたりませんでした。少なくとも芸術文化については専門家ゼロ。政府でもその反省でこんどはしっかりやろうとしているようですが、大向こうを狙わずにシッカリ勉強して内容の濃いものにしてくれることを期待したいと思います。
いずれにしろ、文化庁予算は昨年度よりも5億円ほどですが増加しています。それは大変結構なことなのですが、内容的には少し変りました。増加したのは文化財の保存修理、防災施設の充実。一方芸術創造活動への重点支援(いわゆる公演助成など)と新進芸術家の海外研修、地域の芸術拠点形成などは減少。これらは将来さらに縮減が想定されます。なお、子どものための優れた舞台芸術体験事業が新設(従来事業の合体)され、多額の予算が認められましたが、これは学校訪問公演が主で、このような舞台条件で優れたパフォーマンスを提供するのは、舞踊界にとっては難しいことです。
このように、予算全額は増加したといっても、舞踊界にとってはなかなか厳しいものがあり、一方で統括団体、主要団体には公益法人化の課題もあり、少子化、所得減などとあわせて、問題山積です。
私個人は、今回の予算編成をとうして、わが国としての芸術文化の役割、機能を明確にして、文化行政方針を抜本的に検討してくれることを期待していました。というのは、文化芸術振興基本法が事業仕分けに対抗するのにはほとんど効果がなかったからです。
ただし、時間的な制約もあってか今回は実現なかったようです。
文化庁には、芸術が人生に欠くべからざるものであること、そのためには国家としてなにが必要かを素人の仕分け人にも理解してもらえるように、ぜひ理論武装してほしいと思います。つまり舞踊(芸術)のもつ社会性、公益的価値の明確化です。
ただ、大事なのは、芸術家サイドもそれにふさわしい内容とレベルを実現すること、そしてそれをきちんと発信することです。率直にいって、今回の事業仕分けにたいする芸術家の反応のなかに、国が芸術家を援助するのは当たり前だといった発言があったようですが、それはそれにふさわしい役目をはたして、あるいは少なくともそのための努力を真剣に重ねてはじめていえることだということを忘れてはなりません。
前回の仕分け時に、マーケティングの努力が足りないという意見がありました。これを実態を知らないことばと切り捨てないで、われわれはこの努力をしているかどうかを見直してみることも必要です。それは本当に社会の役にたつ活動をしているか、ニーズに応えているか、そしてそのために観客を集め、資金を集め、さらにそれを効率的に実現する努力をしているかです。そして、そうしてもなお、芸術活動は公的、社会的な援助支援なしではやっていけないということを明らかにするのです。
この(2010年)2月、3月に、私がかかわった活動で、これにひとつの方向を示せるものがいくつかありました。
●舞踊界でも障害者にかかわる活動が
その一つが、障害者にたいするものです。
2月27日(土)に岡本るみ子バレエスタジオが主催したチャリティー・コンサートがありました。岡本さんは橘バレエ学校で学び、スターダンサーズバレエ団などで活動、現在バレエスタジオを主宰しています。岡本さんは息子さんが障害をもっており、施設に入所していることもあって、NPO法人アンリミテッド知的障害者支援の会を設立して10年ほど前からチャリティー・コンサートを開催し、その収益を施設に寄付しているのです。
そのためには、武蔵野市、三鷹市など多くの自治体、公的、私的な福祉協会、福祉団体、福祉機器をあつかう企業などの後援、協賛を受けています。これらとの折衝、報告だけでも大変な努力が必要、そのうえに生徒の指導、作品の振付まで、協力者、助力者がいるとはいえ、ほとんど中心になって進めているのです。
私も第1回からアンリミテッドの会員になり、わずかながら協力してきましたが、今回初めて具体的に舞台に参加しました。チャリティーコンサートは毎回障害者を客席に招待していましたが、昨年の第10回に舞台に上がってもらい、出演者と一緒に楽しんでもらうというプログラムを加えました。このプログラムについて、今回はより充実したものにしようと、企画の段階からかかわり、解説者として舞台に上がることにしたのです。
当日、会場(武蔵野市民文化会館)には千人を超えるお客さんが来場され、その4割以上が障害者でした。まずバレエ(ダンス)の解説をし、ダンスは人の心を和らげ、活性化するとして障害者のかたに、岡本さん、手話通訳者、司会者の方とともに、舞台で出演者と一緒に踊りましょうと障害者や保護者に呼び掛けました。舞台には年齢を問わず30人以上の男女が上がってくれました。もちろん、ぶっつけですから、踊るといったかんたんなマイムや手をつないで音楽にのって動くフォークダンス風のものですが、みな楽しく参加し、なかには興奮を抑えられず舞台を跳び回るものもいたほどでした。
普通の作品も上演されましたが、なかには孤児を世話している修道院のピンチを皆の善意で救うといった物語の、趣旨に直結した作品もあり、ゲストの男性ダンサーたちも快く協力、障害者に対応していました。岡本さんの話ではとても好評で、多くの人に毎年やって欲しいといわれたとのことでした。施設や罹災地への寄付もしっかりしています。
方法は違いますが、障害者のために努力している舞踊家はほかにもいます。3月には神戸の藤田佳代さんのモダンダンス公演、創作実験劇場があり、そこでも知的障害をもつ安田蓮美さんが、多くのダンサーを従えて立派に作品の中心を踊りました。(3月13日 兵庫県民小劇場)。彼女は安田さんのためのリサイタルをこれまで2回開き、私は微力ながら協力させてもらっています。
また、同じ3月に障害者とアーティストがともに演劇、音楽、ダンスの創作、公演活動を行っているエイブル・アート・ジャパンのフェスティバル(ディレクター大谷燠氏)があり、そのうちダンスをとりあげたダンスピースセレクション[原っぱのダンス]を見ました(3月25日 アサヒ・アート・スクエア)。明治安田生命が全面的に助成、共同主催しています。
ここでは障害者を対象にワークショップを行い、その成果を発表するもので、聴覚障害や知的障害、身体障害をもった人々と指導したダンサーとがコラボレーションしているのです。指導者には砂連尾理、星加昌紀らの現役のコンテンポラリーダンサーが含まれ、ていねいにしかも家族にまで接し理解しあいながら指導していることがうかがわれました。
もう一つ、本年度財団法人松山バレエ団顕彰のなかの教育賞に伊与田あさ子さんが選ばれました。彼女もお嬢さんの未亜さんが知的障害を持っていますが、小さい時からバレエやピアノを学ばせ、10年ほどまえに北九州の黒田呆子さんが主催する北九州&アジア全国舞踊コンクールに参加しました。そこで多くの感動を与え、バリアフリー部門を設置するきっかけを作り、その第1回に特別の評価を得たのです(ちなみに前記した安田さんは第2回に同じ評価を受けました)。伊与田さんは、お嬢さんだけでなく多くの知的障害をもった人々のためにエンゼルクラスを設けてバレエを教え、発表会には必ずその生徒さんのために作品や踊りのシーンを作っています。施設への寄付もしています。この活動にたいして教育賞が贈られるのです。
もちろん、芸術の最大の目的、美点は素晴らしい内容、レベルの舞台を提供し、感動を与えることです。しかし、同時に芸術家として、人間として、自分の場において社会のために尽くす意識をもつこと、そのような活動をすることもきわめて重要だと思います。しかも上記のケースでは、公的な助成はまったくなく、むしろ寄付までしているのです。
音楽のチャリティーコンサートなどのように良く知られてはいませんが、舞踊界にも社会的な活動をしている人がいるということはぜひ知っていてほしいし、また舞踊家として心がけて欲しいと思います。
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うらわまこと(Makoto Urawa)
舞踊評論家
本名 市川 彰。慶応義塾大学バレエ研究会において、戦後初のプリマ松尾明美に師事、その相手役として、「ラ・フィユ・マル・ガルテ」のアラン、リファールの「白鳥の死」の狩人役を日本初演。企業勤務の後、現在大学で経営学を講義しながら舞踊評論を行っている。 各紙・誌に公演評を寄稿するほか、文化庁芸術選奨選考委員、芸術祭審査委員、多くの舞踊コンクール審査員、財団顕彰の選考委員などを務めている。